日本企業のサステナビリティ経営を阻む要因のひとつ、それはビジネスリーダーのリテラシー不足だ。幅広い産業で持続可能性(サステナビリティ)に関する戦略立案や情報開示などを行う私、PwC Japan有限責任監査法人の田原英俊(たはらひでとし)が、進まぬ温室効果ガス削減の要因や対策について記す連載。
後半の本稿では、リーダーがもつべきサステナビリティのリテラシーとはどのようなものか?それによる攻めの戦略への転換についても書いていきたい。
サステナビリティは誰のため? 「地球にやさしい」からの脱却
企業は製品やサービスの説明において、「環境にやさしい」「地球にやさしい」と表現することがある。そうしたフレーズは、製品の製造時や使用時、または廃棄の際、従来製品と比べ環境負荷が小さい場合に使われることが多い。ここで読者諸氏に問いたいのは、「環境にやさしい」「地球にやさしい」のは誰のためか?である。
25年近く前、日本で生命誌(※)の第一人者として知られる著名な生物学者の方の講演を拝聴する機会があり、若かりし頃の私は「地球が持続可能であるために、私たちはどう生活すればよいのか」と質問した。すると、次のような答えが返ってきた。「私たちがどう生きようが、あなたが心配しようがしまいが、地球はあと50億年以上持続することがわかっている」。
地球誕生から46億年という長い歴史の中で、地球上の動植物は5回の大量絶滅を経験してきたが、都度その後、必ず新たな生態系が生まれ、進化を遂げてきた。つまり私たちが重要だと思っているサステナビリティとは、我々の生活の持続可能性のことであり、地球の存在そのものの持続可能性の話ではない。
今、サステナビリティ経営とは倫理的なもので、「環境や社会に良いことをすること」だと認識している企業も少なくない。しかし、気候変動や人権問題への対応方法によっては、財務に直接的な打撃を受け、それが経営の致命傷となる可能性がある。さらに投資家は、企業が社会課題解決を通じた新たなビジネスを、利益成長に結びつけていくことに期待している。すなわち企業はサステナビリティ経営を、社会課題解決のための中長期的なビジネス戦略の実行だと認識する必要があるのだ。
私が所属するPwC Japan監査法人で実施した日本の上場企業で働く2529名を対象にした意識調査(※1)によると、サステナビリティ経営をそのように認識している人の割合は、3割弱にとどまる。多くがサステナビリティ実現の取り組みとして、「社会貢献」や「工場での環境負荷削減」をあげているのが現状だ。
※生命科学の知識をふまえ、38億年前に地球に生物が誕生してからの多種多様な生物の歴史物語を読み取る学問



