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2026.02.27 20:00

日本企業の営業生産性はなぜ低いのか。OPEN HUB代表・戸松正剛と考える「仕組みと感情」の力学

2025年7月、NTTドコモビジネス誕生。NTTドコモ、NTTコミュニケーションズ、NTTコムウェアの3社の法人事業が統合される、数万人規模の組織改革の背後には「人の感情」と「仕組みづくり」があった。統合のキーマンとなった「OPEN HUB」の戸松正剛とカクシンCEO・田尻望が語り合うと、「仕組みこそが感情を動かす」という“逆説”が浮かび上がる。


田尻 望(以下、田尻):NTTドコモ、NTTコミュニケーションズ、NTTコムウェアの3社の法人事業の統合を経て、25年7月にNTTドコモビジネスと改称されました。これほどまでの企業体制の変化に、戸松さんはどのように挑んだのですか。

戸松正剛(以下、戸松):今回の3社統合はある種のPMI(Post Merger Integration)でした。同じNTTグループのなかなのだからスムーズにいくだろう、と思われがちですが、旧3社は文化もマネジメントも、まるで別の会社と思った方がいいぐらいに違っていた印象を受けました。

当然、現場にはモヤモヤが広がります。 経営陣はタウンホールミーティングを重ね、現場を回り、メッセージを発信するわけですが、それは尊い活動で、やり続けなければならないことです。

しかし、それだけで何千人もの人間が同じ方向に同じ感情で動くことはない。その前提で、仕組みや仕掛けというものを考える。というのは、仕組みというのは「感情を動かす舞台装置」だと思うのです。

田尻:感情に直接訴えるのではなく、仕組みを整える方が先だということでしょうか。

戸松:両方大事ということです。ただし、一時の感情は持続しない。だから仕組みの整備が必要なのです。私がよく考えるのは歴史の話で、例えば、秦の始皇帝は中華統一で知られますが、本当にすごいのは統一した「後」なんです。

社会インフラとしての文字を統一し、貨幣を統一し、そして郡県制を敷いた。2026年の大河ドラマ「豊臣兄弟」も一例です。秀吉は刀狩りや太閤検地で、揺らぎやすい人々の感情を「私たちはひとつになった」という確信へと着地させようとしたのではないかと思うのです。「今日からこのルール、この物差しで生きていくんだ」という強力なメッセージを、仕組みを通じて提示した。

仕組みが人間の感情の舞台装置になるとは、こういうことだと考えています。現場が仕組みによって「自分の背中が押されている。これなら勝てる」と実感できれば、モチベーションは半ば勝手に上がります。仕組みが現場に成功の手応えをプレゼントする。これこそが、マネジメントの要諦だと思っています。

NTTドコモビジネス 統合マーケティング部長 兼 OPEN HUB for Smart World 代表 戸松正剛。
NTTドコモビジネス 統合マーケティング部長 兼 OPEN HUB for Smart World 代表 戸松正剛。

田尻:最初は不安という感情があったとしても、仕組みの中でうまくいった体験をすることで、人は 「ほっとする」。結果として感情が良い方向に動くように仕組みが作用するということですね。

例えば、私がこれまでに支援したケースで、業態がバラバラな子会社が20社以上あるプロジェクトがありました。そこでは、営業管理、販売促進、マーケティング、新商品・価格設定、業務効率化——すべてのルールを作って全社に展開しました。結果として週次でPDCAが回り始め、前年対比で半期50億円以上の営業利益改善が見られました。

しかし、大事なのはこれらの理屈ではなくて、実は「共感」でした。各会社の役員や役職者からは当然反発がありました。そこで、共感なく「こうやってください」と仕組みを押しつけると、形式上はKGI・KPIを立てるけれど、モヤモヤが残ったままだからやる気がない。「大変なことだからこそ、一緒にお願いしたい」という姿勢で伴走して、初めて仕組みに血が通うのだと、肝に銘じています。

「ホワイト企業」にはたらく“逆の因果関係”

戸松:僕が手がける「OPEN HUB」もひとつの仕組みですが、ここでも重要なのは、感情の舞台装置としての仕組みです。

私たちが豊かで幸せになる未来を実現するために、コミュニティやメディア、場づくりを通じて事業共創を生み出すプログラムなのですが、これも単に「共創してください」と言ってもコミュニティのみなさんの心は動かない。

マーケティングの支援や経営陣のコミットメントをセットにした枠組みに参加してもらい、プロセスを経験してもらうことが重要です。そうすることで、はじめて共感などの感情が駆動し始める。

田尻:仕組みが感情の舞台装置になるという視点は、今の日本企業が抱える別の問題にもつながると思います。「ホワイト企業なのに若手が辞めていく」という矛盾です。残業も少なく、人間関係も悪くない。制度という仕組みは整っているのに、どこか自分の仕事に手応えを感じられず、成長を実感できないのか、退職が絶えないというケースをよく耳にします。

戸松:興味深いですね。今の日本社会で言われる「働きやすさ」と「働きがい」は、混同されているのではないかと感じています。「ホワイトな環境にすれば満足度が上がり、生産性は上がる」ではなく、実は因果関係が反対で、「生産性の高い企業の従業員こそ満足度が高い」というのが私の仮説です。

粗利が高い、つまり付加価値が高い仕事をすることは、間違いなく社員にとって「自分は世の中の役に立っている」という自己効力感につながります。また、販管費が適切であるということは、「正しいプロセス」で仕事をしているということで、不要な消耗感がないということ。結果としての営業ROI(粗利率/販管費率)が高いというのは、「組織としての未来が明るい」という将来への希望になると思います。

一方で、日本企業の営業ROIはグローバルに比べて非常に低いと言われていますよね。私自身も色々な企業を分析してみた結果、100の販管費を投じて200(2倍)程度しか粗利を出せていない企業が多いという現状があるのです。

田尻:労働集約的なモデルのまま、ということですね。これは、私の実感とも合います。

粗利が高いということは、付加価値の高い仕事をしているということです。この状況は、社員からすれば「自分は世の中の役に立っている」と実感できるし、お客様からも感謝される。

我々は「感動こそ付加価値の源泉」と言っていますが、感動が生まれるほどの価値を提供すれば、そこから原価を引いた付加価値は自然と大きくなる。逆に、付加価値を生み出せない仕組みのなかに放置されていると、人は疲弊し、辞めていく。

戸松:そうです。そして営業生産性が低いからといって、人件費——つまり営業の人数を減らせとか、一人当たりの売上高を上げろいう話になりがちですが、別の側面も捉える必要があると思うのです。

問題は営業「以外」の販管費にあると考えています。使いにくい情報システム、膨大な事務処理、営業と連動していないプロモーション。こうしたプロセスが整えば、営業は顧客にかける時間に集中できる。プロモーションが常に営業の背中を押してくれるものであれば、成果は変わると思うのです。マーケティングの仕組みで解決できることが、実はものすごく多いのではないかと。

田尻:ちなみに、私の古巣であるキーエンスはROIの指標は7〜11倍と聞きます。

戸松:7倍。グローバルでも聞かない数字ですね。

田尻:ただ彼らは7倍以上が見込めるところを狙って投資しているようにみえます。1.3倍から7倍——この巨大な差の中にこそ、日本企業がより良くなるためのマーケティングの方法論があるはず。そこを体系化して発信できたら、あるべき姿が見えてくると信じています。

チームに必要な「勇者」の条件

田尻:仕組みの重要性がある一方では、その仕組みを動かす「人」の側面はどうでしょう。どんなに優れた仕組みがあっても、共感を生み出し、仕組みを動かす人間がいなければ機能しません。

戸松:誤解のないように言うと、現場で起きている営業や事業共創そのものは、個人の倫理観や美意識などをベースとした「アート」だと思います。個人のタレントや能力や熱意に依存する部分は絶対に必要ですが、それをマネジメントするのは「サイエンス」に基づいた仕組みでなければならない。これが私の考えです。

一人の美意識だけではビジネスは成り立ちにくい。そこでチーミングが重要になります。私は「ドラクエ理論」と呼んでいるのですが——パーティーの組み合わせはビジネスの内容やフェーズによってケースバイケース。戦士が多くいたり、遊び人がいてもいい。ただし勇者だけは絶対に必要です。

田尻:勇者ですか。

戸松:勇者は意外としょぼいことが多いのですよ。魔法使いより魔法が下手かもしれないし、力が強いのは戦士だったりする。一つ一つの能力は中途半端かもしれないけれど、チーム全体を理解していて、唯一「魔王を倒しに行く」と意思決定ができる存在が勇者だと考えているのです。

つまりは、圧倒的当事者意識がある人。課題を解くにせよ、可能性を拓くにせよ、それが強く「自分事」として感じられており、最後までそのプロジェクトの責任を負う意志を持っているのが勇者です。そして、勇者のいないパーティーは長続きしないと思うのです。投資をしてくれるスポンサーも仲間も集まりません。

田尻:実は僕は、「勇気」という言葉が好きなのです。勇気の手前には必ず恐怖がある。断られたらどうしよう、失敗したらどうしよう——その恐怖に打ち勝って前に進む力が勇気。だから勇者とは、能力の高さではなく、恐怖を引き受ける覚悟を持った人のことなのだと思います。

また、組織を見るときには、そこにいる人たちが「どんな問いを持って動いているか」かも大事だと思っています。もともとの大きな問い、私たちは何に向かっているのかといった内容が共有されていると自然と「問い」が生まれる。

しかし大きな問題であればあるほどに、その問いと向き合うのが怖い。だからみんな目を逸らす。そんな中、勇者は勇気を持ってその問いに向き合う。

カクシンCEOの田尻望。
カクシンCEOの田尻望。

「違う曲を弾いている」不幸

戸松:ただ、勇者が見つかっても、いきなり全社規模のオーケストラを指揮することはできません。社内を見ると、楽器はそろっているのに違う曲を弾いているような状態、というのがよくあります。

田尻:具体的にはどういう状態ですか。

戸松:例えば、営業は目の前のお客様に売りたいのに、開発は5年後の市場を見ている。それ自体は悪くない。しかし、今のターゲットと5年後のターゲットがまったく違う、ニーズも時系列もトレンドもズレているとしたら、話は別です。メロディとベースラインが噛み合っていないのに、本人たちはめちゃめちゃ一生懸命に楽器を弾いているような状態になっている場合がある。これはすごく不幸なことです。

だから大切にしているのは、まずはシンプルな3ピースバンドで1曲やり切ること。ボーカルギターとベース、ドラムだけでいい。1曲完奏すると「私たちは、この曲を演奏できるんだ」と手応えが生まれる。その手応えが次の曲を演奏する気にさせ、ゆくゆくは編成が増え、いずれオーケストラになる。

田尻:成功体験が「ONE」——ひとつになる実感を生むのですね。

戸松:そうです。複数のバンドが何曲かできるようになれば、そこから編成を広げていくコアになる。最初の一曲を仕上げるのが一番大変なのです。

田尻:まさにそうですね。私はコンサルティングの場ではよく、「ONE・○○」「ALL・○○」という言葉を使います。「ひとつである」とはどういうことか。「僕は開発だから営業のことは知りません」とは言わないということです。ドラクエで言えば、魔法使いだからといって仲間が倒れたとき知らんぷりはしない。

組織は本来ひとつの生命体で、右腕が左腕を助けるのは当然のこと。でも現実には、腕が勝手にバラバラに動いている会社がすごく多い。戸松さんがおっしゃる「1曲完奏する」という成功体験を積むと、バラバラだった組織が「やっぱり俺たちひとつだったんだ」と気づき始める。そこが本当の統合の始まりだと思います。

人はどこで感動するのか——3つの共通項

田尻:ここまでのお話は、仕組みとチームの話でした。では、その先にある「感動」、つまり人が本当に心を動かされる瞬間とはどんなときなのか。

戸松:少し前に「ロイヤルファミリー」というドラマを一気見したんです。競馬のオーナーが世代を越えて最高の競走馬を作り上げていく物語で、観ながら考えていたんですよ。人はこのドラマのどこに感動しているのか。3つの共通項があると思いました。

一つ目は、数字を超えたところで人が動く瞬間。現実の競馬界おいて儲けを出せる馬主は極めて少ない。数字で語った瞬間に馬主になることは非合理なことになる。でもそこに名誉や夢、ロマンなど別の価値を感じて行動する姿に、人は心を動かされる。

二つ目は、プロフェッショナルチームのピースがカチッとはまる瞬間。オーナー、マネージャー、生産者、調教師、ジョッキー、競馬記者——全員やっていることは違うのに、目的がピタッと合う。さっきの「1曲完奏できた」感覚に近いかもしれません。

三つ目は、次世代にバトンを渡すこと。NTTグループでは、社員との対話を通じて、何度ビジョンを言語化しても最後は「つなぐ」に行き着きます。万博のとき、NTTグループはパビリオンをボランティアで運営しました。全国から集まった社員が真夏の猛暑の中やりきって、閉館時にお客様が帰っていくとき、誰に言われるでもなく全員が一列に並んでお見送りをしていた。次世代につなぐという使命感が、自然とそうさせるんです。

田尻:そのエピソードにはうるっときます。提供する側にそういう想いがあれば、エンドユーザーには必ず伝わる。人の心が動くということは、そこに価値が生まれているということ。

そしてその価値体験をした提供者側——今の万博のボランティアの方々自身も、やりきった喜びに震えたはず。それこそが働きがいの正体だと思うのです。

「コアを毀損するな。それ以外はやれ」

田尻:大企業でこうした取り組みを進めるとき、ブレーキをかけてしまう力とアクセルを踏ませる力の両方がありますよね。何を止めてはいけなくて、何を推進すべきなのか。

戸松:NTTグループには、完全な民間企業でありながら「セミパブリック」という性質がある。社会インフラとしてのパブリック性。社員も社外の方も、それを共有しています。

このコアな部分を毀損することはやってはいけない。裏を返せば、それ以外のことは変えても良いのではないか。ただ、「儲かりゃいいじゃん」にはならないのです。それはセミパブリックに反するからです。ここにインテグリティ、企業としての誠実さがある。どの企業にもきっとある。ミッション・ビジョン・バリューに明文化するのも大事ですが、意外とすでに備わっているものがあります。社員も経営も意識しているかわからないけど、結果として意思決定はそうなっている気がします。

田尻:面白いですね。コアが明確だからこそ、それ以外では大胆に動ける。守るべきものが定まっていない組織は、何をやっていいかわからず、全方位でブレーキがかかってしまう。

戸松さんの場合、そのコアを仕組みとして、ルールとして、会議体として、チーミングとして具現化されている。そうすると、もともと組織の中にあったけれど見えなかったものが可視化される。

本来ひとつだったはずの組織が仕組みを通じて「やっぱりひとつだったんだ」と改めて気づく。それが本当の意味での統合なのだと思いました。

感動のエネルギーは、自分の「外」にしかない

田尻:最後に、これからリーダーとして一歩を踏み出そうとしている方々へメッセージをいただけますか。

戸松:誰もが最初から勇者として強くある必要はありません。人間は弱い。だからこそ仕組みが必要です。仕組みは感情を動かす舞台装置であると同時に、心理的安全性を宿したセーフティネットにもなる。その舞台があるからこそ、普通の人がふとした瞬間に勇者としての一歩を踏み出せる。

よく若い人から「自分には解決したい課題が見つからない。新規事業に向いていないんじゃないか」と相談を受けます。それならばそれで良いと思います。無理に自分の内側を探る必要もないし、焦る必要もないと思っています。

感動のエネルギーは、自分の内側ではなく「外側」にある。自分の内側のフィルターだけを通して、SNSを眺めていても、映画を観ても、本を読んでも、それだけではなかなか感情は駆動しない。外の世界の人と会い、化学変化が起き、アクションを起こしてみる。そこからしか、本当の感動のヒントは生まれないと思います。

田尻:同感です。不確実なものに背を向けず、まずは目の前の小さな一曲に向き合い続けられる人こそが勇者。対立を乗り越えた先で「一緒にやってよかった」と心から言い合える——その瞬間の感動こそが、働きがいの本質だと思います。この記事を読んで、最初の一歩を踏み出す勇気を持ってくれたら嬉しいですね。


カクシン
https://kakushin.biz/


とまつ・せいごう◎NTTドコモビジネス 統合マーケティング部長 兼 OPEN HUB for Smart World 代表。2021年に社会課題を起点とした事業共創プログラム「OPEN HUB for Smart World」を設立し、代表に就任。現在は統合マーケティング部長として、ABM、デジタルマーケティング、インサイドセールス、カスタマーサクセス等、B2Bマーケティング全般を統括する。

たじり・のぞむ◎カクシン 代表取締役CEO。 2008年に大阪大学卒業後、株式会社キーエンス入社。コンサルティングエンジニアとして重要顧客を担当し、大手システム会社の業務システム構築支援をはじめ、年30社に及ぶシステム制作サポートを手掛ける。独立後はカクシンを立ち上げ、年商1000万円から1兆円規模の企業まで、企業の高収益化、構造改革のコンサルティングを行う。著書に『付加価値のつくりかた』(かんき出版)、『構造が成果を創る』(中央経済社)など。

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