「自治体の担当者の多くは2年おきに違う部署に異動してしまうため、専門性が育ちにくい。さらに、国の補助金事業の多くが単年度で終わるため、長期的な視点でのコンテンツ造成やプロモーションも難しいのが現状です。結果として、継続性のない事業に税金が投入され、中途半端な観光コンテンツが量産されては消えていく。これでは文化財活用の希少なチャンスを潰してしまいかねません」
観光の先にある文化の継承
では、日本が真の「観光立国」へと脱皮する道はどこにあるのか。永谷が示す処方箋は、驚くほどシンプルだ。「足元にある宝を、正しく磨き、伝え、売ること」。
「日本の観光資源は世界有数です。わざわざ新しいハコモノをつくる必要はない。神社仏閣という有形文化財、祭りという無形文化財、そして農業や漁業といった一次産業の営みそのものが、極めて魅力的なキラーコンテンツになる」
重要なのは、それを「外からの目線」で再発見し、高付加価値な体験に変えること。例えば、ただのイチゴ狩りを、採れたてのイチゴに生クリームを追加で用意してパフェをつくる体験に変えるだけで、単価は2000円から6000円になる。客をただ漁船に乗せるだけでなく、獲れたてのホタルイカを港でしゃぶしゃぶにして地酒と共に味わう体験にすれば、モノを売るより何倍もの価値を生むことができる。
体験を設計すれば価格は変わる。価格が変われば収益構造が変わる。永谷は、観光を地域産業の収益モデルを再構築する手段として捉える。

実際、地域の伝統産業や一次産業の担い手が、自ら体験づくりに踏み出す動きも出始めている。だが、個人の努力だけでは限界がある。観光はすでに9.5兆円規模に達する市場であり、第二の輸出産業とも言われる存在だ。体験消費が5%にとどまるという事実は、日本がまだ“本気で設計していない”ことの裏返しでもある。
そして、その先にこそ、永谷が真に見据えるゴールがある。それが「文化の継承」だ。
「日本は大きな革命を経験していない分、何百年も続く思想や文化が積み重なっています。しかし人口減少のなか、それをどう支え、継承していくのかという課題があります。文化の価値を理解し、尊重し、関わり続けてくれるのであれば、外国人も可とする必要があります。そのためには、まず“理解”が必要です」
質の高い体験は、単なる消費を超えて文化の意味を伝える手段となる。背景にある歴史や思想に触れた来訪者は、写真を撮って帰る観光客から、その土地の関係者へと変わる。関係者は、買い支え、語り継ぎ、時に住み、働く存在になる。
「観光とは、そうした未来への種を蒔くための、全ての入口なのです」


