観光庁が発表した「インバウンド消費動向調査2025年暦年(速報)」によると、2025年の訪日外国人旅行者数は約4270万人に達し、消費額は約9.5兆円とともに過去最高となった。数字だけを見れば、日本の観光はかつてない活況にある。
だが、この熱狂を「本質的な成功とは言いがたい」と見る専門家がいる。『観光"未"立国 ニッポンの現状』の著者であり、観光庁や文化庁、多数の自治体にてアドバイザーを務める永谷亜矢子だ。
永谷はその理由について、まずこのインバウンド観光ブームを「戦略的に勝ち取ったものではないからです」と話す。
「今は円安という追い風に支えられているが、訪日客の8割以上を占める個人旅行者(FIT、Foreign Independent Tour)のニーズに応える仕組みも、地域の文化の価値を正しく伝え、稼ぐための戦略も、あまりに欠落している状態。現場では数々の機会損失が起きています」
観光の課題そのものも変質している。少し前まで、日本の地方における観光市場の課題は「情報発信」の弱さだった。自治体や観光地の公式サイトは情報が古く、SNSも更新されないため、訪日客は目的地にたどり着くことさえ困難だった。しかし、その状況はAIの進化によって改善されつつある。
「AI検索の台頭により、旅行者はもはや、自治体のサイトに到達しづらい状況です。『日本の精神性を体験したい』とAIに聞くだけ。すると、AIはネット上のあらゆる情報を統合し、伊勢神宮への行き方まで提示してくれる。特段、集客の工夫をしていなくても、地方にも観光客が“勝手に”やって来る時代になったのです」
だが、それこそが新しく、より深刻な問題の始まりだと永谷は言う。なぜなら、AIは「行き方」は教えてくれても、その場所の真の「楽しみ方」は、そもそも存在しなければ答えてくれないからだ。
「受け入れ態勢が整っていない観光地では、観光客はその土地の文化を深く理解することなく、ただ景観を写真に収め、SNSに『COOL!』とだけ投稿して帰っていくことになる。『背景にある歴史』や『何百年の時を経て紡がれた文化や趣』を味わう“体験”がなければ、そこに本質的なお金は落ちません」
訪日外国人旅行消費額は、コロナ前の2019年が4.8兆円、2024年が8.1兆円と名目上は大幅に増えたように見えるが、永谷は「(為替要因を除けば)実質的な消費拡大は限定的。つまり、円安だから来ているが、さほど消費していない」というのが実態だと指摘する。



