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2026.02.25 11:30

日立・貫井CIOが描くルマーダと生成AIの攻守戦略:CIO AWARD

貫井清一郎|日立製作所 執行役常務 CIO 兼 ITデジタル統括本部長

貫井清一郎|日立製作所 執行役常務 CIO 兼 ITデジタル統括本部長

AIで進化する日立の業務変革基盤「ルマーダ」は、姿を変え続けている。その変貌を率いるCIOの眼は、社内と顧客を行き来する循環の先にある。

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日立の調達部門の責任者は、新聞のスポーツ欄とテレビ欄以外すべてに目を通すという。政治、経済、金融──、調達先を取り巻くリスクを見逃さないためだ。だが、地政学リスク、気候変動、サプライチェーンの寸断。あらゆる変数が複雑に絡み合う時代に、人の処理能力は限界を迎えている。「だからAIが必要なんです」と、CIOの貫井清一郎は言う。

貫井がAIの全社普及を急ぐ理由は、単なる業務効率化ではない。世界中の情報を即時に収集・分析し、事業への影響を経営に届ける。グローバル企業にとって、それはもはや必須だと貫井は考える。もうひとつの背景は労働力だ。日本の労働市場では2030年に約350万人の人手不足が予測されている。「今の仕事のやり方で会社が回るのか。働く人にとって魅力的な現場なのか」。AIによる効率化・自動化は、この問いへの答えでもある。

現在、AIツールを活用する日立の社員は約13万人、約30万人の従業員の半数近くに達した。27年までに100%を目指すという。「スマートフォンのように、効果は数字にできなくても、取り上げられたら仕事が回らない。AIもそういう存在にしたい」。

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この構想を担えるのは、貫井のキャリアがあってこそだ。コンサルタントとして外から日立の変革を見ていた貫井は、15年にその渦中へ飛び込んだ。入社翌年、IoT基盤として誕生した「ルマーダ」の創成期に北米でデータ分析ソリューションを立ち上げ、21年にCIOへ就任。主戦場は顧客向けの「外」から、グローバル約30万人の業務基盤を預かる「内」へ移った。

貫井はまず、日立が1兆円規模で買収したグローバルロジック社を社内ITの開発パートナーに組み込み、調達や管理会計のデジタル化を加速させた。さらにコストを抑えた生成AIツールを独自開発し、全社員への普及を推進。新しいAIツールの安全性審査も従来の3週間から3日へ短縮した。守りを緩めず、攻めの速度を落とさない──その両立が貫井の流儀だ。そしてこの「内」の成果は、そのまま顧客向けの「外」へも還流していく。

ただし、内と外は別棟にあるわけではない。貫井はルマーダを「立食パーティの皿」に例える。「料理人がそれぞれ得意なものをつくって皿に盛り、必要な人が取っていく。我々IT部門は料理を美しく盛ると同時に、水漏れしない適切なお皿──セキュアで効率的な最新ソリューションを用意している」。社内の技術を外へ、外で磨いた技術を内に。この循環がルマーダの強みで、それを支える一人が貫井だ。

CIOとして貫井の前にはまだ2つの山がある。その現在地を問うと、グローバル化は「5合目」、AI普及は「富士山登山で言えば御殿場インターに着いたところ」と笑った。山の高さ自体が日々変わる時代、それでも貫井の目線は常に山頂にある。


貫井清一郎◎一橋大学を卒業後、1988年にアンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社。通信・メディア・ハイテク領域を担当。2009年執行役員として、日立製作所に入社し日立グループ全体のIT戦略を担当。19年執行役常務を経て、21年にIT・DXの最高責任者として現職。

文=フォーブス ジャパン編集部 写真=平岩 亨

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