現在発売中のForbes JAPAN(2025年2月25日発売号)では、傑出したテクノロジーリーダーを顕彰する「CIO AWARD 2025-2026」を特集。本アワードは5回目を迎え、今回も多彩な顔ぶれが揃う。
サイバー攻撃の高度化、生成AIの台頭、「2025年の崖」──複合的な転換点に立つ日本企業にとって、DXをAX(AI Transformation)へ昇華させ、守りを攻めへ転じるリーダーの存在がかつてなく問われている。30名以上の候補者から選ばれた5名は、それぞれの企業の強みをテクノロジーで最大化するリーダーたちだ。
「グローバルAIエコシステム賞」を受賞したのは楽天グループのティン・ツァイ。
自前AIを生み出し楽天のサービス群にエージェント型エコシステムを確立。その手腕に注目が集まっている。
「私は冒険が大好きなのです」。ティン・ツァイが楽天を選んだ理由をそう語る。90年代のネットワークスタートアップから、MicrosoftでのeコマースやGoogleでの検索・マップ統括まで経験してきた彼。18歳で初めて訪れた外国が日本であり、深い愛着をもっていたが、それだけではない。彼が楽天に見出したのは、AIによって人間のビジネス創造性を拡張する実践の場だった。
楽天のAI戦略を象徴するのが「実利」への徹底したこだわりだ。「楽天の各サービスのあらゆるタッチポイントにAIを導入し、何億人もの人々に利益をもたらすことが私の夢です。そのためには、トランザクションごとに赤字を出していては持続可能ではありません」とツァイは語る。
その答えの一つが2025年発表の「Rakuten AI 3.0」だ。MoE(エキスパートの混合)アーキテクチャにより、必要なモデルだけを選択・稼働させることで従来比90%のコスト削減を実現。楽天はAI活用全体で24年度に105億円の利益を創出しており、この3.0で、さらなる利益拡大が見込まれる。
ツァイが描くビジョンは従来の検索概念を覆す。「チャットボットは会話ができるだけでは不十分。私たちはチャットから『アクション』へとフェーズを移しています」。24年11月にはRakuten AIの前身となるAIエージェント「ユニバーサルコンシェルジュ」とのチャットで提案された枕を楽天市場で購入し自宅に届くデモを実施。25年9月には「楽天トラベル」で、26年1月には「楽天市場」アプリでエージェント型AIツールをリリースし、曖昧な要望から適切な提案実行や予約誘導などをシームレスにつなぐエージェント型エコシステムを実現した。
日本企業の多くが海外製AIモデルを利用するなか、楽天はなぜ自前開発にこだわるのか。「日本に来て奇妙に感じたのは、多くの企業がコアテクノロジーを自社で構築せず、外部から買っていることでした。それでは競争力は生まれない」と警鐘を鳴らす。楽天はGENIACプロジェクトへの参画などを通じ、日本語特化のトークナイザーや埋め込み表現を一から構築してきた。「OpenAIやAnthropicが数百人規模だったころから協業し、フィードバックを行ってきました」。グローバルな知見に加えコア部分は自社で握る。これが彼の目指す「日本を代表するAIエンパワーメント企業」への道筋だ。
AI倫理についてもツァイの姿勢は明確だ。「法的要件を超えて、消費者との信頼が最も重要」とし、24時間365日稼働するAIファイアウォールを構築。そして現代のテクノロジー・エグゼクティブに必要なのは継続的学習だと語る。「AIの進化はPCやモバイルの比ではありません。好奇心と冒険心こそが、これからのリーダーには不可欠なのです」。
ティン・ツァイと楽天のAIによる冒険は、2026年、活用拡大という新たなステージで加速する。
ティン・ツァイ◎米国にてダートマス大学コンピューターサイエンス修士課程修了、ワシントン大学にてMBAを取得。MicrosoftのBing、Googleを経て、2022年楽天グループに入社し現職へ。楽天エコシステム全体のAI・データ基盤を統括。



