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2026.02.25 10:30

三菱重工 伊藤社長が語る重厚長大の知能化戦略:CIO AWARD グランプリ

伊藤栄作|三菱重工業 取締役社長 CEO

AX時代に、ハードウェアを持つ強み

全社的にデジタルを強化しつつも、強みがハードウェアにあることは揺るがない。伊藤は自身が長年開発に携わってきたガスタービンを例に、AIの利点と限界についてこう語る。

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「AIは人が見ても判別できない故障の予兆をとらえて教えてくれます。そこは10人の専門家がいてもかないません。ただ、AIにも限界はある。ガスタービン設計時にはデジタルで細かくシミュレーションします。しかし、実際はその通りに動くわけではない。温度が上がってセンサーが数秒で溶けるような箇所はデータを測りきれないなどAIモデリングの範囲外のことを予測できないのです」

伊藤は入社後、研究所の配属になり、ガスタービンの開発に従事した。当時はアナログで解析していたが、実際に動かすと解析モデルの予測を超えたデータが出て悩まされた。このときの苦闘が、伊藤に「機械は正直。物理法則に従って動くだけ」というエンジニア哲学を刻み込んだ。

「どれだけ精度高くシミュレーションしても、最後は機械で検証して確認するしかありません。実際、私たちは高砂製作所に本物の発電所をつくって動かしています。AIが普及してもハードウェアをもつ強みはなくならない」

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ハードウェアをもつ優位性は設備の話にとどまらない。重要なのは人だ。

「ずっと机の上でパソコンを駆使してきた人に、今から現場で油まみれになってやれというのは難しい。ハードウェアからデジタルは一方通行で、逆は戻れません。だからこそ最初に現場で技能を覚えないといけない。技能職として入社してきた社員は最低でも1年半は工場で鍛えます。物理現象まで意識してものづくりできるようになった人材がAIをマスターすれば、可能性はもっと広がるはずです」

重厚長大×コングロマリットは、デジタル時代に不利だととらえられがちだ。しかし技術を熟知するリーダーの目には、むしろそれらが武器となって成長する未来が見えている。


伊藤栄作◎1963年生まれ。東京大学工学部航空学科を卒業後、87年に三菱重工に入社。兵庫県高砂市の研究所で約30年にわたりガスタービンの研究開発に従事。MIT留学、九州大学での工学博士号取得を経て、2020年からCTOとして技術戦略を統括。技術基盤拡張を推進した。25年より現職。

文=村上 敬 写真=平岩 亨

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