経営・戦略

2026.02.20 15:00

香港の不動産大手が、数千億円の巨大複合開発とグリーンテック戦略を両立させる理由

香港のセントラル地区にある超高層ビル「The Henderson」(YASEMIN OZDEMIR/Shutterstock.com)

香港で都市ガス配給網を独占的に運営するタウンガスで、グリーンテクノロジー事業を加速

本土の不動産市場が縮小する中、兄ピーターはグループの次なる成長エンジンを模索した。10代の息子3人を持ち、敬虔な仏教徒でもある彼は、将来世代が直面する課題について思いを巡らせた。その結果、真っ先に浮かんだのが、地球温暖化への対処だった。そこで彼は、環境にも一族の事業にもプラスになる分野として、グリーンテクノロジーに目を向けた。その中核に据えるのが、香港でパイプラインによるガス供給を独占的に担い、中国本土でも都市ガス配給網を運営するタウンガスの技術基盤だ。

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ピーターの指揮のもと、タウンガスはこの10年で廃棄物処理を含む既存事業を基盤としたグリーンテック分野の展開を加速させてきた。彼は2014年、ファミリーオフィスのフル・ビジョン・キャピタルを設立し、タウンガスやヘンダーソン・ランドで活用可能な環境関連テクノロジーを開発するスタートアップに投資している。「長期的には、地球が最も必要とする産業に賭けていく」とピーターは語る。

もっとも、その構想には課題もある。マッキンゼーは10月のリポートで、2050年時点での化石燃料が世界のエネルギー消費に占める割合が、2025年末の64%からは低下するものの、それでも最大半分を占めると予測した。また、持続可能な燃料は政策的な後押しがなければ2040年以前に広範な普及には至らない可能性が高いと指摘する。ただし需要は、2050年までに4倍に拡大すると見込んでいる。

それでもリー兄弟は再生可能エネルギーへの取り組みを加速させている。タウンガスは、香港と中国本土で1000件を超える太陽光プロジェクトを展開し、送電網接続済み太陽光発電容量は2.6ギガワットに達した(2025年6月30日現在)。2025年上半期の太陽光発電の売上高は前年同期比で44%増加した。

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都市ごみなどを原料にグリーンメタノールを製造し、船舶用燃料として供給

海・陸・空の輸送向けクリーン燃料の拡大も、タウンガスが重点を置く分野だ。同社は廃タイヤやバイオマス、都市ごみを原料にグリーンメタノールを製造し、船舶用燃料として供給している。2025年の生産能力は16万5000トンに達し、2028年までに倍増を目指す。また、合成ガスや埋立地ガスから水素を抽出し、長距離輸送車両やEV充電ステーション向けに供給する事業も2025年に開始した。

評価額約2325億円のエコセレスで、持続可能な航空燃料(SAF)を製造

タウンガスのポートフォリオで最も注目される企業が、2021年に同社から分離独立した香港拠点の持続可能な航空燃料(SAF)メーカー、エコセレスだ。その2年後の2023年、タウンガスはエコセレスの評価額を約15億ドル(約2325億円)とした取引で、同社株21%をベインキャピタルに売却した(タウンガスは2024年末時点でエコセレスの43%を保有していた)。エコセレスによれば、動物性脂肪や廃食油から製造する同社のSAFは、従来型のジェット燃料と比べて温室効果ガス排出量を最大90%削減できるという。

タウンガスの最高投資責任者アラン・チャンは、エコセレスが世界のSAF供給の約20%を担っていると説明した。新規株式公開(IPO)の可能性について問われたチャンは、「エコセレスは、年間ベースのEBITDAで黒字を達成しており、財務的には上場可能な状態にある」としつつも、どの市場に上場するかをまだ決めていないと述べた。

従来のガス事業よりも速いペースで、タウンガスのグリーン事業が成長するとの予測

香港を拠点とするHSBCのアジア・エネルギー転換調査責任者エバン・リーは、タウンガスのグリーン事業について、「規模拡大による効率化や中国および欧州連合の政策支援の可能性を背景に、従来のガス事業よりも速いペースで成長する」と予測する。ただし、同社の売上の4分の3超は依然としてガス事業が占めており、グリーン分野の拡大はまだ収益面で大きな貢献をしていない。タウンガスの2025年上半期の売上高は、275億香港ドル(約5225億円)と前年並みで、純利益は30億香港ドル(約570億円)にわずかに減少した。再生可能エネルギー事業(主に太陽光)は1億2000万香港ドル(約23億円)の黒字だったが、SAFやグリーンメタノールを含むグリーン燃料事業は1億9000万香港ドル(約36億円)の営業赤字となった。

しかし、大和証券グループ傘下の大和キャピタル・マーケッツで香港を拠点に公益事業調査を統括するデニス・イップは、「グリーンエネルギー事業が短期的に大きな売上や利益を生む可能性は低い」と指摘する。「せめて重荷にならないことが期待されているに過ぎない」と、彼は付け加えた。

香港においてグリーン分野に注力しているのは、タウンガスだけではない。香港の富豪ランキング14位のビリオネア、マイケル・カドゥーリが会長を務めるCLPホールディングスも、アジア各地で風力発電や太陽光・水力発電所を運営している。同社は、香港でも埋立地ガスを利用した発電所を稼働させており、グリーン水素の導入も検討している。

それでもピーターは、タウンガスが業界内で1歩先を行っていると強調する。「私たちは多くの企業よりも早く動き出した。そして、すでに確固たる足場を築いている」と彼は語る。

HSBCのリーもその見方を支持する。「タウンガスは数年前からグリーンメタノールやSAFへの投資を始めており、事業を育成し、競争力を強化するうえで大きく先行している」と彼は指摘する。CLPはコメント要請に回答しなかった。

ファミリーオフィスのフル・ビジョン・キャピタルを通じて、グリーンテック系スタートアップ10社に出資

リー兄弟は、父が築き上げた巨大な事業基盤を発展させようとしているが、進むべき道を父に示されたことはなかったという。むしろ父は、自分たちで道を切り開くよう励ましていたと2人は振り返る。「その道が地球温暖化の解決に貢献できるのであれば、必ず報いはある」と兄ピーターは語った。

ファミリーオフィスのフル・ビジョン・キャピタルを率いるピーターは、自らの資金を投じて10社のグリーンテック系スタートアップに出資してきた。タウンガスの最高投資責任者であり、同ファミリーオフィスのマネージングパートナーも務めるアラン・チャンによれば、これらの企業の評価額は2025年12月時点で合計65億ドル(約1兆円)に達し、累計調達額は25億ドル(約3875億円)に上るという。

ニッケル水素電池を開発する企業について、約18億6000万円の出資を主導

兄ピーターがとりわけ強気なのが、再生可能エネルギー向けの蓄電技術だ。現在主流のリチウムイオン電池は、放電時間が約4時間で、充放電のサイクルは数千回程度にとどまる。米カリフォルニア州のEnerVenueは、放電時間を12時間に延ばし、充放電サイクルを3万回まで高めたニッケル水素電池を開発した。ピーターはフル・ビジョンの持ち分については明らかにしていないが、2020年の1200万ドル(約18億6000万円)のシードラウンドを主導し、2021年には1億2500万ドル(約194億円)のシリーズAにも参加していた。

2024年6月、EnerVenueは追加で5億1600万ドル(約800億円)を調達すると発表した。フル・ビジョンもこの資金調達に参加していることを確認している。タウンガスはEnerVenueの香港および中国本土における独占販売代理店であり、同社のEV充電ステーションで同社製電池の導入を進める計画だ。

フル・ビジョンのその他の投資先には、香港拠点のi2Coolがある。同社の太陽光反射塗料はタウンガスのナフサ貯蔵タンクに塗布され、電力コストの削減に寄与している。紫外線や赤外線を遮断する窓用フィルムは、ヘンダーソン・ランドが共同開発した中環のランドマークビル「Two IFC」の本社に導入され、エネルギー消費の抑制に役立っている。ピーターは2018年、上海拠点のStarFive Technologyを共同創業した。同社はエネルギー効率の高い半導体を開発しており、その製品はタウンガスのスマートガスメーターに採用されている。

forbes.com 原文

翻訳=上田裕資

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