経済・社会

2026.02.17 11:45

キム・ジュエと金与正 権力闘争の芽を摘めない金正恩の苦悩

Mirko - stock.adobe.com

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韓国の情報機関、国家情報院は12日、国会情報委員会での報告のなかで、「キム・ジュエ」と呼ばれる金正恩総書記の子供について「後継者として内定した段階に入ったと判断している」と説明した。今年1月、錦繍山太陽宮殿への参拝で、金正恩夫妻の真ん中に位置していたほか、国情院は「一部施策に意見する情況も捉えられている」と指摘した。

私も現段階でジュエ氏が後継者だと思うが、それには決定的な前提条件がつく。ジュエ氏が権力基盤を固めるまで、金正恩氏が最高指導者であり続ける必要があるということだ。権力基盤が固まらないうちに、金正恩氏が死亡するなどの事態に至れば、同氏の実妹、金与正・朝鮮労働党副部長が最高指導者になるだろう。

ジュエ氏は2012年秋から13年初めに生まれたとみられている。現在は13歳だろう。労働党への入党資格は18歳以上になっている。党員でない以上、政府や軍も指導することはできない。北朝鮮の国営メディアがジュエ氏の名前を公開していないのも、公式の活動ができる立場にないからだろう。

そのような立場でありながら、ジュエ氏が公開の席に出てきているのは、金正恩氏の自身の健康状態への不安があるとみられる。朝鮮中央通信は3日、金正恩氏が平安北道雲田郡三光里の畜産拠点を視察したと伝えた。朝鮮中央テレビの記録映像をみると、金正恩氏がしきりと足のつま先を上に向けるなど、足指を気にする様子が見て取れた。金正恩氏は痛風の持病を持ち、折に触れてメッシュ式のサンダルを履いている姿も確認されている。糖尿病や心臓に持病があるとの指摘も出ている。

また、金正恩氏は、祖父の金日成国家主席が父、金正日総書記と高英姫氏との結婚を認めなかったことから、幼少期に不遇の時代を送った。「自分の娘には日の当たる場所を歩いてほしい」という親心もあるだろう。金正恩氏が公開の席に登場したのは2010年9月の党代表者会だった。金正日氏が死去した2011年12月のわずか1年3カ月前で、権力継承活動が十分に進まなかった。おかげで金正恩氏は、義理の叔父の張成沢氏、玄永哲人民武力部長(国防相)、義兄の金正男氏らを次々に処刑・暗殺する羽目に陥った。ジュエ氏を引き回す金正恩氏の心中は「早く、権力層や大衆にジュエ氏が次の後継者だと認知させたい」というものだろう。

一方、メディアの一部は国家情報院の過去の説明を根拠に、「金正恩氏の子供は3人」「長男が存在する」と説明しているが、最近の国情院は長男の存在には触れていない。子供も2人とみている。「長男存在説」は、金正恩氏の兄、金正哲氏が2011年2月に訪れたシンガポールで男児用と女児用の玩具を大量に買い求めたという極秘情報が根拠となっていた。ただ、国情院は長男の目撃情報などは一切入手していない。金正恩氏の妻、李雪主氏が2011年ごろに妊娠していたという情報もない。「男尊女卑」の空気が色濃く残る北朝鮮で、ジュエ氏をわざわざ後継者に立てるのは、長男もいないし、第2子も女児だからだろう。第2子は将来の権力闘争を避けるため、遠くない将来、留学などで目立たない場所に移されるはずだ。

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文=牧野愛博

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