米国在住ジャーナリスト、渡辺由佳里氏に聞いた
同紙の書評欄閉鎖について、アメリカの一般読者たち、中でもリベラル派の知識層はどう受け止めているのか。1995年よりアメリカに暮らすエッセイストでジャーナリスト、翻訳家の渡辺由佳里氏に聞いたところ、「とくに『ブック・ワールド』の閉鎖について語る人は見かけない」という。詳しく尋ねると、そこにはなかなか根深い問題があるようだ。
渡辺氏は「今回の書評欄閉鎖以前に、長年の購読者がベゾスへの抗議としてワシントン・ポスト紙の購読をやめてしまった(渡辺氏自身もその1人)という背景がある」という。今回の解雇で購読をやめた人もいるが、それ以前に2回にわたって大きな「購読解約抗議」があったというのだ。
「第一波は、2024年10月にワシントン・ポスト紙がカマラ・ハリス支持を表明しようとしたのをジェフ・ベゾスが阻止した時です。アメリカでは大手新聞の編集部が特定の大統領候補の支持表明をする慣習がありますが、ベゾスの介入により、ワシントン・ポスト紙は何十年にもわたる同紙の慣習を破ったことになりました」
ちなみにBBCニュースは同月、「Many subscribers saying they had cancelled their subscription to the paper.(<ベゾスのこの介入の報を受けて>多くの購読者が解約したと述べている)」「'Appalling. Cancelling my subscription immediately,' wrote one user.(「ひどい。すぐに解約した」とあるユーザーが書いている)」などと報じている。この時に購読解除したのは25万人、全購読者数の10%にもおよんだという。
そしてトランプ大統領再就任後の2025年2月に「第二波」は起きた。「ベゾスが編集部に『オピニオン欄の焦点を「個人の自由と自由市場」に絞り、反対意見を排除せよ」』と命じたことが明らかになったときで、この時はさらに大幅な解約が発生しました」。
渡辺氏と夫君はそれぞれ別アカウントでポスト紙をデジタル購読しており、ともに「第一波」時から購読解除を悩んでいた。「でも、ついに第二波で『これはポスト紙の公式スローガン「Democracy Dies in Darkness(民主主義は暗闇の中で死ぬ) 」に反する』と憤慨し、抗議のために購読をやめました」。
ちなみに、ワシントン・ポスト紙の購読をやめてウォール・ストリート・ジャーナル紙を購読しはじめた人も少なくない、と渡辺氏は言う。「同紙では、最近トランプ批判の記事が増えており、ワシントン・ポスト紙を解約したリベラルの読者を増やしているようです」。
冒頭で紹介したエリック・ウェンプルは「ポスト紙買収時、ベゾスはこの時代のオールドメディアに新風を吹き込む白馬の騎士として期待されていた」とも話す。
かつての「白馬の騎士」がふるうのがビッグテックによる自由と革新の剣ではなく「検閲の黒い墨筆」にならないか、懸念するむきは現地に多そうだ。そして、ここで紹介した事例や声はリベラル派の米国在住知識人に限られたものである可能性が高いものの、ワシントン・ポスト紙が今後、質の高いジャーナリズムや文化性を担保し続けるために人員削減をどう吸収し、何を切り捨てていくのかは万人にとって気になるところかもしれない。


