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2026.03.13 11:00

AI時代に求められるネットワークの大変革 シスコシステムズが描く経営の競争基盤としてのセキュアネットワーク

社会実装されたAIの登場によって、企業インフラのあり方は根本的な変革を迫られている。もはやネットワークは、コストセンターから経営の競争基盤そのものへと変わりつつある。40年以上の歴史をもち、ネットワーク企業の雄として知られるシスコシステムズ(以下、シスコ)の社長・濱田義之とネットワーキング事業を統括する執行役員・高橋敦が、AI時代に企業競争力を左右するネットワークの現在と未来を語った。


かつて、ネットワークは水道や電気のように「つながって当たり前」の、いわば裏方のインフラという印象であった。しかし今、私たちはインターネットの誕生以来、最大とも言える劇的な転換点に立っている。

「パンデミックを経て、ネットワークは企業の生産性を支える生命線となりました。しかし、今押し寄せているAIの波は、それとは比較にならないほど巨大な、インフラの根底を揺るがすパラダイムシフトです」

シスコの社長執行役員・濱田義之は、現状をそう断言する。AIを「インターネットの登場」に比肩するインパクトだと語る背景には、ネットワーク上を流れる情報が人間主導からAI主導へと逆転するという予見がある。

濱田が見据えるのは、2030年に全世界のトラフィックの半分をAIが占め、現在の世界の労働人口の10倍のAIエージェントがネットワーク上を飛び交う未来だ。もはやネットワークの遅延や停止は一部署のトラブルではなく、企業の価値創造を阻害する「経営リスク」に直結する。つまり、インフラの刷新は、「経営の最優先投資」へと昇格しているのだ。

濱田義之 シスコシステムズ  社長執行役員
濱田義之 シスコシステムズ 社長執行役員

シスコが25年にグローバルで総勢8,000人以上のIT関連及びビジネスリーダーを対象に行った調査では、実に97%が「ネットワークの刷新が成長に不可欠」と回答している。これはAI導入の機運が高まる一方で、既存インフラがその足かせになるという危機感の表れでもある。

そのうえで、同社執行役員の高橋敦は、AI時代のインフラには「AIに対応したセキュアネットワーク」という明確なアーキテクチャが必要だと語る。

「AIの普及によって、ネットワークの帯域や遅延、トラフィックパターンは根本から変わります。この変化に対応するため、我々は『AIを活用した運用のシンプル化』、『ネットワークとセキュリティの融合』そして『AIのために設計されたデバイス(ハードウェア)』という3つの要件を定義しています。これらが揃ってはじめて、AIに特化したネットワークを準備することができ、AIのベネフィットを安全に最大化できるのです」(高橋)

高橋 敦 シスコシステムズ 執行役員 ネットワーキング事業担当
高橋 敦 シスコシステムズ 執行役員 ネットワーキング事業担当

AI時代のインフラを定義する「3つの要件」

AIに対応したセキュアネットワークアーキテクチャ、つまりAI時代のインフラに必要な3つの要件である「AIを活用した運用のシンプル化」「ネットワークとセキュリティの融合」「AIのために設計されたデバイス」。

特に人手不足が深刻な日本市場において、インフラの自律化は避けて通れない。人間がダッシュボードを監視し、手動で設定を変える時代から、AIが障害を予兆検知し、自律的に修復を行う「AgenticOps(エージェンティック・オプス)」への移行も必須となる。加えて高橋は、これまで分断されがちだったクラウドとオンプレミス環境の完全な統合と、ネットワーク全体におけるAIエージェント活用が不可欠だと語る。

「AIアシスタントは、ネットワークの運用を効率化しています。しかし、さらなる運用の高度化を図るためには、複数のAIアシスタントが、ドメインをまたいで、リアルタイムにコラボレーションする必要があります。それを実現するために『AI Canvas』の開発を進めています。これによりネットワーク運用における人手不足や属人化の解消、情報共有や意思決定の迅速化が可能になります。そして、ネットワークに特化した大規模言語モデルである『Deep Network Model』の開発を進めている点も、シスコならではのユニークなアプローチです」(高橋)

一方で、「AI時代に対応できるハードウェア」も必要不可欠になる。シスコの独自チップ「Cisco Silicon One」により、AIが必要とする膨大なトラフィックを低遅延で処理することが可能になる。またこのチップは圧倒的な拡張性と電力性能を備えており、将来想定される課題に対しても準備を整えている。

さらに、将来的な脅威である量子コンピュータによる暗号解読リスクを見据え、ハードウェアレベルで「耐量子計算機暗号(PQC)」に対応可能な設計となっている。

現在、広く普及している暗号技術は、将来高性能な量子コンピュータの実用化によって解読されるリスクを孕んでいる。特に懸念されるのは、攻撃者が今のうちに暗号化されたデータを盗み出し、数年後に解読を試みる「HNDL(Harvest Now, Decrypt Later:今収穫し、後で解読する)」という脅威、つまり、「今は安全に見える通信が、数年後には解読されてしまう」リスクだ。
こうした未来のリスクを排除するためには、インフラの深部から守りを固める必要がある。

濱田は、PQCへの移行を「一朝一夕に成るものではない」とし、グローバルで足並みを揃える2035年という期限を見据え、早期の投資判断が必要であることを強調する。さらに、重要インフラに対しては、さらに前倒しで対応していくことが必要になると言及する。また、こうした強靭なハードウェアを土台とし、ネットワークとセキュリティを不可分なものとして融合させることで、インフラのレジリエンスを抜本的に高めていく。

シスコは、ネットワークのトラフィックそのものをセキュリティのセンサーとして活用し、異常を即座に検知・封じ込めるという設計思想を掲げている。こうした高度な防御の仕組みを、デザインの段階からデフォルトで備えることが、シスコが提供するAIに対応したセキュアネットワークの真価となっているのだ。

シスコだからこそ実現可能なワン・プラットフォーム戦略

AI活用が進むほど、インフラは複雑化し、サイバー攻撃の標的も増大する。そこで求められるのが、個別最適から脱却した「全体最適」の視点だ。シスコは、ネットワーク、セキュリティ、オブザーバビリティ(可視化)といった全領域を統合した戦略「One Platform」を提唱している。

「これまではネットワークとセキュリティは別々に考えられがちで、それぞれの部門が異なるツールで管理するのが一般的でした。しかし、デジタルレジリエンスを高めるには、インフラを設計する初期デザインの段階から両者を一体化させ、デフォルトで連携させることが不可欠です」と高橋は語る。

特に24年に買収が完了したデータ分析プラットフォーム「Splunk」との統合により、Splunkの有するデータ分析プラットフォームとシスコのネットワーク製品が連携し、この戦略を決定づけた。シスコの真の強みは、独自開発のチップからデータ分析層までを垂直統合した圧倒的なポートフォリオの網羅性と、それらをバラバラの製品としてではなく、ひとつの有機的なプラットフォームへと昇華させる開発戦略にある。

「AIインフラからネットワーク、セキュリティ、コラボレーション、そしてSplunkによるオブザーバビリティまで、これらすべての領域をエンドツーエンドで網羅・統合して提供できるのは、現在のIT業界においてシスコしかいないという自負があります。

私たちは数多くの買収を続けていますが、買収した製品を『新しい製品です』と単に棚に並べていくようなやり方は、お客様のためにはなりません。重複する機能を整理し、ひとつのプラットフォームのなかのひとつの機能として密結合させていく。AIがその全体を横断的にアシストするこの『One Platform』の戦略により、AI時代において、組織をつなぎ、保護していくことを実現します」(濱田)

日本市場に根ざした強固なサポート体制を提供

グローバルで共通のプラットフォームを展開する一方で、シスコは日本市場特有の緻密な要求にも深くコミットしている。公共分野で注目されており、かつ日本独特の「ISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)」の取得や、日本におけるインターネットアクセスで必要となる通信方式「IPoE(IP over Ethernet)」への対応、10G回線に対応した小型・高性能なルーターの開発、Wi-Fi 7のポートフォリオの早期拡充などがその証左だ。

「日本のインフラは世界でも稀に見るほど安定稼働への期待値が高く、同時に10G回線の普及など通信環境も独自に進化しています。これらに適応するため、IPoEを実装した製品の拡充、日本の小規模オフィス向けに最適化した小型・高性能な10G対応ルーターの開発など、日本のお客様の要望に即した開発も進めています。

また、日本の特徴として、Wi-Fi 7の普及の速さが挙げられます。この分野において日本は世界をリードする非常にアグレッシブな市場です。インフラの進化のスピードを止めることなく、最新規格を迅速に社会実装していくことで、日本が技術先進国としての国際競争力に負けないよう、テクノロジー・運用の両面から支えていきたいです」(高橋)

こうした技術的対応を下支えするのが、日本市場に根ざした強固なサポート体制だ。

「日本において、品質はデフォルトで備わっていなければならないものです。そのため、問題があればソースコードまで遡って解析・修正を行うサポートチーム『ジャパンTAC(現CXセンター)』を擁するなど、シスコとしても非常に注力する国のひとつです。

日本は政府がAIの利活用を後押しするなど、非常に前向きな市場です。安心安全を担保しながら、企業が自社のクリティカルなデータをAIに学ばせて推論で使っていくようになれば、日本にとって非常に大きなチャンスになると捉えています」(濱田)

さらに、シスコでは日本経済を支える中堅・中小企業により一層注力するため、「スケールビジネス事業」を発足。これにより、複雑な設定を意識せずに高度なセキュリティを享受できるマネージドサービスを、国内のパートナー企業と連携して提供。

また、深刻なデジタル人材不足を解決するため、ネットワーク・セキュリティの知見を有する学習者を5年間で10万人育成する「シスコ ネットワーキング アカデミー」を通じた教育支援を行うなど、製品に組み込まれたAIによる「運用の自動化」と、それを使いこなす「人材の育成」。この両輪で日本のトランスフォーメーションを支える構えだ。

技術、AI、そして伴走するパートナーとしてのシスコ

最後に、濱田は経営者がこれからのインフラ刷新において意識すべき「3つの選択」を改めて総括する。

「シスコではAIエージェントやAI Canvasのために、ネットワークに特化したLLM『Deep Network Model』を独自に開発するなど、ネットワークが経営の競争基盤となる時代に際して、さまざまな取り組みを進めています。ぜひ経営者の方々には、『AIを活用した運用のシンプル化』『ネットワークとセキュリティの一体化』、そして『AIに対応したハードウェアの選定』という3つの選択を意識していただきたい。この選択こそが事業の継続性と成長に直結し、AI時代を勝ち抜くための唯一の道となるはずです。

シスコには40年以上のネットワークの蓄積があり、シリコンやチップからOS、ハードウェア、そして大規模言語モデルまでを自社で垂直統合して設計しています。それが今、AI時代のセキュアネットワークアーキテクチャとして具現化しているのです。AIをうまく駆使してビジネス価値を高めようとするなら、土台となるネットワークのモダナイゼーション(現代化)は避けて通れません。インフラの刷新は一朝一夕に成るものではなく、数年先を見据えた一貫した投資判断が必要です。だからこそ、今、早く手を打つことが将来の決定的な差になります。

そして、最後に必要となるのはパートナー企業様とのエコシステムです。今年、『Cisco 360』という形で、パートナー企業様向けのプログラムを刷新し、パートナー企業様とともに顧客価値の最大化を図っています。アーキテクチャやテクノロジーに加えて、お客様起点のエコシステムの観点でも、シスコが最良の選択肢になると自負しています」(濱田)

来たるべき、あるいはもはや到来したAI時代に成長する基盤をどう構築するか。シスコは、その目指すべき北極星を明確に示している。

シスコシステムズ
https://www.cisco.com/site/jp/ja/index.html


はまだ・よしゆき◎シスコシステムズ 社長執行役員。2016年、シスコ入社。専務執行役員 情報通信産業事業統括として、日本の主要な通信事業者、モバイル事業者、放送事業者、クラウドおよびメディア事業者のビジネス成長とイノベーションを推進。アジアパシフィック ジャパン チャイナ地域のセキュリティセールスを統括するマネージングディレクターを務めた後、24年より現職。

たかはし・あつし◎シスコシステムズ 執行役員 ネットワーキング事業担当。2006年にシスコシステムズに新卒入社後、サービスプロバイダー担当アカウントマネージャー職を歴任。21年より執行役員としてサービスプロバイダーアーキテクチャ事業、22年にクラウド・サービスプロバイダーアーキテクチャ事業を担当し、24年より現職。

promoted by シスコシステムズ/ text by Michi Sugawara / photo by Shuji Goto / edited by Akio Takashiro