この競争における静かな勝者
IBMの最新決算は、この物語を具体的な数字で示している。同社の2025年第4四半期決算における売上高は197億ドル(約3兆200億円)となり、市場予想を約5億ドル(約770億円)上回った。データとAI関連ビジネスを含むソフトウエア事業は前年比14%の成長を記録し、AIインフラと最も直接的に関連するデータ事業は22%増となった。さらに、生成AI関連の累計契約額は125億ドル(約1兆9200億円)を超えている。
アービンド・クリシュナCEOが決算説明会で語ったIBMの現状をまとめると、以下のようになる。IBMは2025年通期で6%の売上高成長を達成し、これは近年で最高レベルの水準である。さらにフリーキャッシュフローは147億ドル(約2兆2500億円)となり、過去10年以上で最高を記録した。2026年については、為替による変動を除いて5%超の売上成長を見込み、ソフトウエア部門の成長率は10%へ加速すると予想している。
ここで再考すべきは先ほどのハース・スクール・オブ・ビジネスによる研究だ。企業は人員を削減するAIを必要としているのではない。既存の人員をより生産的にするAIを、必要としているのである。そのためには信頼性の高いデータシステム、ガバナンスツール、そして大規模にAIエージェントを展開するためのプラットフォームが不可欠である。現在のIBMの戦略はまさにそこにある。
Watsonxの役割
IBMのWatsonxプラットフォームは、ハース・スクール・オブ・ビジネスの研究者が示したようなAI導入の現場に合わせて設計されている。AIに支援されながらプロダクトマネジャーがコードを書き始めたり、研究者がエンジニアリング業務を担ったりする場合、基盤となるデータは正確で、コンプライアンスに適合し、リアルタイムで利用可能でなければならない。Watsonxはその基盤部分を担う。
Watsonxは、「AIエージェント」として知られる仕組みも支援している。これは人間による監督を最小限に抑えつつ、複雑かつ多段階のタスクを完了できるソフトウエアツールを指す。IBMは最近、人事、営業、調達、カスタマーサービスなどの業務を対象とした、100以上の事前構築済みAIエージェントを揃えるAgent Catalogを立ち上げた。また、IBMとアラブ首長国連邦の通信大手e&(イーアンド)は、1月に開催された世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)にて、企業のガバナンスおよびコンプライアンス改善を目的としたWatsonxを基盤とするエージェント型AIソリューションを発表し、この技術が実証実験段階を超えて機能していることを示した。
実務における活用例として、クレジットカード取引の不正検知を考えてみよう。クレジットカードが1回利用されるたびに、その取引が正当かどうかを即座に判断する必要がある。AIモデルは場所、金額、行動履歴を1秒未満で評価する。このシステムが停止すれば、銀行は取引を処理できなくなる。これはまさにミッションクリティカルなAI活用の例であり、Watsonxの信頼性が不可欠となる領域である。企業は、確実に機能するツールに対してプレミアム価格を支払うのだ。


