モビリティ

2026.02.18 16:00

航空機・戦車から乗用車まで「自動運転」化を目指す、米ユニコーンApplied Intuition

Applied Intuition CTOのピーター・ルートヴィヒ(写真左)とCEOのカサール・ユーニス(同右)(C)Applied Intuition

デトロイトの工場街からシリコンバレーへ

ユーニスとルートヴィヒはともに、GMが工場を置くデトロイト郊外の街で育った。ユーニスは小学生のとき、パキスタン・パンジャブ州の農村から家族とともに米国へ移住し、父親は地元工場でボンネットやフェンダーを打ち抜く仕事に就いた。父と祖父がともにGM勤務だったルートヴィヒの家では、夕食の席でレーダー式クルーズコントロールの話題が上ることがあった。「幼い頃の私は、家にある電気製品のほとんどを分解して、どう動くのか確かめていた」と彼は振り返る。

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しかし、子ども時代に2人が出会うことはなかった。ユーニスは、GMで働いていた叔父の助言を受け、自動車業界の名門校とされるミシガン州フリントのゼネラル・モーターズ工科大学(現ケタリング大学)で工学を学んだ。在学中は半分の時間をビジネス分野の学習に充て、残りの時間はV6エンジンの生産ラインを管理した。

日本のボッシュでの勤務を経て、ユーニスは2007年に自身初のスタートアップである消費者向けクラウドファンディング企業Cameesaを立ち上げたが、これは失敗に終わった。2社目に立ち上げた顧客レビューアプリ「TalkBin」は成功し、Crate & Barrelなどが利用したという。このアプリは、ローンチからわずか5カ月後にグーグルに買収され、ユーニスは数百万ドル(数億円)を手にした。2011年4月にはグーグルへ入社し、Googleマップの開発に携わるようになった。その翌月、ミシガン大学で工学を学んだルートヴィヒが同じチームに加わり、2人は初めて顔を合わせた。

奇しくも2010年10月、グーグルは自動運転プロジェクトを発表していた。後のWaymo(ウェイモ)となるプロジェクトだ。グーグル本社で働き始めた2人は、いわば最前列で交通の未来を目撃することになった。「この流れはデトロイトに衝撃を与えることになると、直感した。シリコンバレーのエンジニアなら誰でも、『自分でやるべきだ』と考えるものだった」とユーニスは振り返る。

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ユーニスは、自身のアイデアをYコンビネータのポール・グレアムに持ち込んだが、返ってきたのは励ましではなく現実的な忠告だった。ロボタクシー事業を始め、起業し、しかも第1子を迎える状況で同時にそれらを進めるのは「無謀だ」と言われた。代わりにグレアムは、2014年にユーニスを同社COOとして迎え入れた。当時の社長はサム・アルトマンだった。

Yコンビネータでユーニスは、ドアダッシュ、フレックスポート、GitLab、Twitch創業者カイル・ヴォグトが立ち上げた自動運転スタートアップ、クルーズ(現在は事業停止)など後のユニコーンの支援を担当した。

自動運転技術を仮想空間で検証するシミュレーションから手がけ、軍事・OSへ拡大

2016年にGMがクルーズを買収すると、ユーニスは、当時もまだグーグルに在籍していたルートヴィヒに再び声をかけ、「巨大な変化が起こっている。自動車ビジネスはソフトウェアビジネスになる」と訴えた。グーグルやアマゾン、そして世界中のほぼすべての自動車メーカーが、自動運転の実験に着手していた。

そこで2人は、自動運転技術を仮想空間で検証するための「ツーリング」と呼ばれるシミュレーションソフトを開発することを決めた。これはビデオゲームのような3D世界で、現実の数百万通りの状況を再現できる開発・検証基盤だ。

そして、新会社の名称をApplied Intuitionとした。彼らはすぐにロボタクシー企業Voyage(2021年にクルーズが買収)や、自動運転トラック企業のコディアック(現在はナスダック上場)と契約を結んだ。「ツーリングは派手さはないが、複雑で、すぐに大きな価値を生む分野だ」と、2017年にLux CapitalとしてAppliedへの投資を主導したビラル・ズベリは語る。現在でも、ツーリング事業は同社の売上の約3分の1を占めており、GMやトヨタといった大手メーカーが主要顧客となっている。

ユーニスはその後、M1エイブラムス戦車を製造するゼネラル・ダイナミクス向けに、自動運転ソフトウェアを開発する初期契約を獲得した。現在では、その後継世代の技術が乗用車やトラックにも搭載され、ブレーキやシート、車載コンピューターに至るまでをOSで一元的に接続している。こうした機能の一部は、資金難で破綻した自動運転企業から関連特許を含む知的財産を買収することで獲得した。そこには、自動運転トラック開発のEmbarkや、OpenAIの支援を受けていたGhost Autonomyなどが含まれる。

2019年に初めてAppliedに投資し、2025年の6億ドル(約918億円)の資金調達ラウンドを共同主導したクライナー・パーキンスのマムーン・ハミドは、ユーニスについて「他に類を見ない実行力の持ち主だ」と語る。

現在、Appliedには約1300人が在籍し、ジープの車線維持支援のような日常的な課題から、米陸軍向けの戦闘用ロボットトラックのような先端分野まで幅広い開発に取り組んでいる。ユーニスは2025年、防衛テック企業EpiSciを買収することで軍事分野への注力を強めた。同社は空軍向けに無人F-16戦闘機の開発を支援し、スタートアップAevexの攻撃用ドローンに群飛行能力を持たせる技術を提供していた。Appliedのテックガレージの片隅には、ヒューマノイドロボットも置かれている(もっともユーニスは、それは優先事項ではないと強調している)。

アドバイザリー企業The Road to Autonomyの創業者グレイソン・ブルートは、Appliedについて「自動運転分野で最も興味深い企業だ」と語る。「彼らの強みは、複数の垂直市場にまたがって事業展開できる点だ。仮に1つの市場が不況に陥っても、行き場を失うことはない」。

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翻訳=上田裕資

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