シリコンバレーのユニコーン企業、Applied Intuition(アプライド・インテュイション)を知っているだろうか。同社は、2017年の創業から評価額150億ドル(約2.3兆円。1ドル=153円換算)に至った。共同創業者は、Yコンビネータ元COOというCEO(最高経営責任者)のカサール・ユーニスと、グーグル出身エンジニアでCTO(最高技術責任者)を務めるピーター・ルートヴィヒの2人だ。彼らはこれまで、自動運転開発に不可欠なシミュレーション技術を提供する裏方企業として、密かに急成長を遂げてきた。その売上高はすでに8億ドル(約1224億円)に達し、高い利益率を誇る。
だが、2人の野望は裏方に留まらない。目指すのは、乗用車から戦車・航空機に至るまで、物理的に動くあらゆる乗り物の頭脳となる「基本ソフト(OS)」の確立だ。それは、自動運転レースの先頭を激しく争うテスラやウェイモ(アルファベット傘下)、AI半導体の王者エヌビディアといった巨大テック企業との対決を意味する。本稿では、この知られざるユニコーンが挑む、全方位的な自動運転戦略の勝算と課題に迫る。
シリコンバレーの元缶詰工場で進む、あらゆる車両に対応できるOSの実験
冬のよく晴れたある日、Applied Intuitionのカサール・ユーニスは、カリフォルニア州サニーベールにある本社の玄関で、屋外に出るためスリッパを脱いで靴に履き替えた。ユーニスは、自動車部品大手ボッシュの日本法人で短期間働いた際に身に付けた習慣をもとに、社屋内では土足を禁止している。
黒いブーツに履き替えたユーニスは、かつてこの敷地がフルーツ缶詰工場だった時代の名残である高さ約45メートルの給水塔の脇を抜けて歩いていく。彼が向かうのは、最新の車載ソフトウェアの実験が行われているガレージだ。
そこでは、ホンダやゼネラル・モーターズ(GM)、ダイムラー出身の若いエンジニア十数人が、さまざまな車両のそばに並んでいる。ユーニスは、インフォテインメントシステムや各種制御機能を搭載した2021年型のジープ「グランドワゴニア」を指さす。その先には、日本の高速道路で試験中のいすゞ製の自動運転ボックストラックがあり、建設現場を自律走行できる小型車両も置かれている。米陸軍向けに開発された、自動運転仕様のフォード「ラプター」も並んでいる。
戦車からトラックまで動かす、Applied IntuitionのOS
これらの車両は用途も形状も異なるが、共通点はApplied IntuitionのOSを搭載していることだ。ユーニスによれば、このOSはあらゆる種類の車両に対応でき、個々の電子機器を接続・管理するだけでなく、将来的には車両そのものを自律的に走行させることも可能だという。
2017年創業のApplied Intuitionは、このシステムを主にフィアットとクライスラーの後継会社であるステランティスのような従来型の自動車メーカーに販売している。Appliedは2025年10月、ステランティスと大型契約を結んだが、その売り文句は明確だ。同社は、自動車メーカーに対し、テスラやグーグル、リビアンといった新興勢力や、車を「走るコンピューター」に変えつつある中国のスタートアップに対抗するための武器を提供しようとしている。
「従来の自動車メーカーは、ブレーキやシートなどの各部品ごとに小規模なソフトウェアを組み込んだモジュールを外部から調達してきた。このやり方ではテスラのようにはなれない。1台の車に5つから8つもの異なるOSを無理やりつなぎ合わせているからだ」と、パキスタン出身の移民で、頭を剃り上げたユーニスは早口でまくしたてる。Appliedのソフトウェアこそが、「車やトラック、戦車を賢くするための欠けていたピースだ」と彼は強調する。



