コンテポラリーアートは、ぼくも大変関心のある領域です。しかし、コンテポラリーアートに関心を抱く人やコレクターが往々にして「コンテポラリーアートはあまり美術史の知識を求められなくて楽だから好き」と発言しがちなのがひっかかります。
例えば、西洋の中世以降の絵画を鑑賞するには、美術史や宗教史の知識がベースにないと語りづらい。だが、(当たり前ながら歴史がない)コンテポラリーアートは好きに話せる、というわけです。これはどこの国でもある現象です。
高級ブランドは文化遺産を基盤とするような振る舞いをします。ここでの文化遺産とは自らの企業史もさることながら、彼らは本社の所在地、生産地の文化土壌にも関心の高さを示します。脈絡と続く繋がりに自分たちのブランドの根拠をおきます。それがアートとなると、途端にコンテポラリーが中心になるのです。
中世やルネサンス期の絵画は宗教施設や公的美術館に多く保存展示され、マニエリズム、バロック、近代と時代が下るにつれて私的コレクションの比率が上がっていきます。ですから、現代の空気を一杯にした姿を見せたいラグジュアリー企業が、コンテンポラリーアートに的を絞りがちになるのも理解できます。しかし、どうも、コンテンポラリーアートの世界が採用する傾向にある短期的投資とちぐはぐ感があると思いました。
そのために、2021年、ブルネロ・クチネリがアートに表立って投資せず、哲学、建築、文学、職人技などの分野を中心に40〜50万冊を所蔵する図書館を設立するとプレス発表したミラノの会場で、ぼくは「これだ!」と思ったのです。長期的な視点が際立っていたのに心が躍りました。その時の気持ちと判断が、書籍における「アートがもつ意味」の章の方向を決めました。
ルイ・ヴィトン財団は2014年開館です。旧商品取引所を改装したブルス・ドゥ・コメルスは2021年、ちょうど本の原稿を書いていた最中です。そして、モンパルナス地区にあったカルティエ財団が、2025年10月にパレ・ロワイヤル広場に新たにオープンしました。
およそ10年間に次々におきた現象です。即ち、今世紀に入ってからのラグジュアリー企業がマスマーケティング的な戦略をとることで市場を大幅に拡大した時期です。それが一転、ご存知のように2024年からラグジュアリー市場は逆風が吹き荒れています。


