これら専門性の高いリソースを、博報堂DYグループのプロフェッショナル集団が使いこなすことで、パートナーの課題に対して、これまでにない精度と速度で解を導き出していく。中村が「AIは温度や手触りを感じさせるようにデータを昇華していくべきだ」と語るように、同グループが追求するのは無機質なアルゴリズムではない。人々の感情を動かし、新たな文化や価値をつくり出す、人間中心のAIの姿である。
経営層や企業の意思決定を担うリーダーに向けて、森と中村は、「AI導入の目的をコストカットやスピードアップだけに置いてはならない」と口を揃える。その先にあるのは、自社の「志や“らしさ”(Aspiration)」をAIとともにどのように強化し、同質化の罠を逃れながら、独自の価値をつくるべきかという問いである。博報堂DYグループは、こうした問いに対する答えを企業とともに探し、未来のビジネスを共創するパートナーとなるべく、「クリエイティビティ・プラットフォーム」としての体制を整えている。
人間の力をどう位置づけ直すか。こうした問いから、AIと共存する社会の土台は築かれていく。同グループが描く人間中心のAIという視点は、これからの社会や企業におけるクリエイティビティの在り方を示す指針となるだろう。
博報堂DYグループの統合プラットフォームが示すAI共創の現在地
博報堂DYホールディングスがグループ全社で推進する統合プラットフォーム「CREATIVITY ENGINE BLOOM」。独自の膨大なデータとAIを融合させ、人間の創造性を拡張するこの基盤は、マーケティングにどのような変化をもたらすのか。
「CREATIVITY ENGINE BLOOM」は、20万人規模の生活者データなどを基盤とし、戦略からクリエイティブまでをシームレスにつなぐ次世代統合マーケティングプラットフォームである。利用者のクリエイティビティを拡張し、新たなビジネス創造を支援する。その根幹機能である「バーチャル生活者」と、メディア効果を最大化するモジュール「MEDIA BLOOM」内の「メディアプラン支援AI AGENT」の活用は、データとAIを生活者発想の深化に充てる同グループの姿勢を、具体的なワークフローとして示している。
20万人の事実に基づいた人格との対話
「バーチャル生活者」は、20万人規模の独自調査「Querida(クエリダ)パネル」などと連携し、データに基づいて生成された仮想の生活者だ。開発を牽引する博報堂テクノロジーズの木下陽介(以下、木下)は、「実データとの紐付けが、AIによる高度化の出発点だ」と語る。
「『AIの回答に市場性があるのか』という疑念に対し、定量的に証明できるデータと連携することで、実態に基づいたリアリティのある視点を提示できる。調査結果に基づいたエビデンスがあるからこそ、単なる示唆にとどまらない、マーケティング戦略としての確信を担保することができるのです」(木下)
この基盤のうえで、生成AIはリサーチなどにかかる時間を圧倒的に縮小している。象徴的なのが分析ワークの効率化だ。例えば、男女や年代で分けた複数のセグメントに対しても、共通UIを通じて一斉に問いを投げることができる。プラナーは効率化した時間で思考の物量を担保しながら、これまでリソースの制約で断念していたターゲット層の真意を深掘りすることもできるようになった。
結果として、想定外のリスクやネガティブな本音などの気づきが、現場で次々と可視化されているという。活用は開発側である木下の想定を超える広がりを見せている。ある人材業界にまつわるプラニングでは、ターゲットを詳細に細分化し、100体近いバーチャル生活者でシミュレーションが行われた。データに裏打ちされた100通りの本音で、多角的に検証を繰り返す。こうした試行錯誤の積み重ねが、プラニングの質を高める資産となっている。
生活者理解を確かな投資戦略へ変換
バーチャル生活者を通じて得られた生活者理解を、いかに実効性のある投資へと変換するか。その実行プロセスを支えるのがメディア・モジュールである「MEDIA BLOOM」だ。そのなかのメディアシミュレーターは、これまで、予算やKPIを入力して最適とされる結果を算出する「計算機」としての役割が中心であった。その結果、算出の根拠がブラックボックス化しやすく、プラナーの知見や最新の市場トレンドを思考プロセスに組み込みにくいという課題があった。
そこで、博報堂テクノロジーズの藤本良信(以下、藤本)は、この仕組みにAIとの対話を取り入れた「メディアプラン支援 AI AGENT」を開発。このシステムでは、プラナーが「過去実績重視」や「最新トレンド重視」など、異なる視点をもつ複数のAIエージェントと対話しながら、最適解を探ることが可能となった。AIは配分案を出すだけでなく、なぜその構成になったのかという理由を説明し、さらにリーチを伸ばすための補完的な施策も提案してくれる。藤本は「エージェントとの対話を通じた試行錯誤を繰り返すことが、プラナーの知見を拡張し、思考の幅を広げることにつながる」と語る。
現在はグループ内での実務実装フェーズにあり、一部のデジタル領域などで先行活用が始まっている。今後は、プラナーが「メディアプラン支援AI AGENT」を介してクライアントと対話し、リアルタイムでプランを練り上げる共創も視野に入れている。
木下と藤本が共通して主張するのは、AIを「シミュレーションのパートナー」ととらえるマインドセットだ。木下は「膨大なシミュレーションのためにAIを使う。そこから学び、戦略を組み立てるのは人間の役割だと考えています」と話し、藤本もまた、「最終的な意思決定をAIに委ねない設計にしているのは、それが人間の介在価値だからだ」と語る。この共創のプロセスを経て初めて、実データに基づいた生活者の深層心理が掘り起こされ、裏付けされた最適な投資へと変換される。
AIとの対話から生まれる気づきを突破口に、人間がどのような価値を社会に提示していくのか。同グループの挑戦は、人間の創造性を次のステージへと押し上げようとしている。

きのした・ようすけ◎博報堂テクノロジーズ執行役員 兼 マーケティング事業推進センター センター長。CREATIVITYENGINE BLOOM開発責任者。統合マーケティングプラットフォームを推進。

ふじもと・よしのぶ◎博報堂テクノロジーズ常務執行役員統合マーケティングメディアユニット長 兼 博報堂メディアビジネス基盤開発局長。開発総括並びに「MEDIA BLOOM」の開発を推進。


