経済・社会

2026.02.13 17:15

ダボス・リポート2026 (6)「肝心なことは目では見えない」。全盲の海洋冒険家が、ダボスで世界のリーダーに問いかけたこと

「A Spirit of Dialogue」(対話の力)とは何か。世界経済フォーラム年次総会(通称「ダボス会議」)の期間中、私はこの問いについてずっと考えていた。

そんな矢先、ダボスの会場である男性に出会った。米カリフォルニア州サンディエゴ在住の全盲のヨットマン、岩本光弘である。

彼の著作『見えないからこそ見えた光 絶望を希望に変える生き方』は、スイスに降り立つ前に拝読していた。13歳の時に残存視力を少しずつ失い始め、16歳で全盲となった。「人の迷惑にしかならない人生なら、死んだほうがましだ」。絶望した岩本は、橋から海に飛び込んで自殺しようと試みるも断念。暗闇の中で、降伏ではなく生きることを選んだという。

2013年に初めてニュースキャスター(当時)の辛坊治郎とともに太平洋横断に挑戦したが、航海を始めて6日目に鯨と衝突する。ヨットは沈没し、岩本たちは11時間救命ボートで漂流した。海上自衛隊に救助された2人は激しいバッシングに遭った。当時の様子は私もよく覚えている。世間から糾弾され、岩本はうつ状態になった。人生で2度目の絶望だった。

それでも岩本は「挑戦する人生」を選んだ。そして19年、ダグラス・スミスとともに視覚障害者として世界初となるヨットでの無寄港太平洋横断に成功した。視力を失い、目の前が暗闇に変わっても、可能性に光を見出し続ける。そのエネルギーの源泉に「対話の力」があると直感した私は、岩本へのインタビューを試みた。

絶望を希望に変える「3つの対話」

岩本光弘(以下、岩本):私が考える対話には3種類あります。対人、対自分、そして対自然です。

人との対話では、声から伝わる言葉だけでなく、その人の雰囲気や言葉にできないものも含めて感じ取ります。「この人はこう言っているけれども、本心はどうなのだろう」とか、「周りからはこんな人だと言われているけど、本当はいい人なのでは」といった直感を大切にしています。これは、目が見えなくなってから磨かれた感覚です。

自分との対話では、「本当にやりたいことは何か」を問い続けます。心の底から「やりたい」と思えば、目が見えるかどうかは関係なく行動する。「目が見える人がやることだから」とか、「あの人はレースの経験があるからできたのだ」などと考えていたら、太平洋横断などできなかったでしょう。人と比べるのではなく、自分がやりたいことを思い浮かべながら、次の目標を決めていく。この姿勢が後の人生につながるのだと思います。

3つめが、自然や宇宙との対話です。世の中は分断されているけれども、太平洋の真ん中にいると「世界はひとつ」というメッセージを感じ取ります。宇宙から見れば、地球は美しい星なのです。

私たちは他者との対話ばかりに目が向きがちです。人と競争し、測りながら生きていく。一方、広大な海の上では、比べる人は誰もいません。そこにあるのは自分との戦いであり、自然との対話だけなのです。日本では、できない自分や至らない自分を責めて、自殺に向かう人も多いと聞きます。自然や宇宙と対話する機会があれば、人間はもっと楽に生きられるのかもしれないと思います。

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文/瀬戸久美子 写真/世界経済フォーラム(スピーチ中のカット)

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