経済・社会

2026.02.13 17:15

ダボス・リポート2026 (6)「肝心なことは目では見えない」。全盲の海洋冒険家が、ダボスで世界のリーダーに問いかけたこと

AI時代の、目では見えない「肝心なこと」は何か

━━ファシズムと戦争の時代を生きた作家・サン=テグジュペリの『星の王子さま』に「肝心なことは目では見えない」という有名な一節がある。国際秩序が失われつつある今、私たちが見落としている「肝心なこと」があるとすれば、それは何だろうか。

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岩本の答えは、物質主義に覆われた現代社会への静かな警鐘だった。

岩本:目に見える形で比べ合い、競争し合うなかで自分や他者を慈しむ気持ち(コンパッション)が失われ、ものごとの本質が見えなくなっていると感じます。ロレックスを着けているとか、フェラーリに乗っているとか、目に見える部分ばかりが注目を集め、そういった人たちこそステータスがあるとみなされるのが今の物質主義社会です。

でも、宇宙や地球にとって本当に大切なのは、ヨットのキール(重り)のような存在に目を向けることです。マストやメインセールは大きく外に出ていて目立ちますが、ヨットで最も重要なのは、底についているキールです。先が見えない世の中で会社というヨットを操っていくには、見えていないものに意識を向けることが大切です。

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私の太平洋横断の挑戦は、多くの人たちに支えられています。でも、彼ら彼女たちは船底にある重りのようなもので、欠かせない存在でありながらも目を向けられることは少ない。会社に置き換えるとすれば、従業員と対話し、互いに信じ合いながらやっていくことが、会社をゴールに着岸させるのに不可欠だということです。ダボスに来ているリーダーたちには、「本当に大切なものに目を向けていますか」と問いたいです。

━━岩本と話すなかで実感したのは、唯一無二の経験がもつ重みと強さだ。生成AIが急速に進化するなか、AIが生成する物語との決定的な違い。それは、人間が自らの経験に基づいて紡ぐナラティブにある。直感、挑戦、実体験から得られる感覚的な表現こそが、人間にしか生み出せない物語の本質である。そしてこれは、AI時代の人間のあるべき姿に重なる。

岩本:大切なのは机上のデータではなく、実際の経験を通じて語り伝えることです。太陽が昇るときに背中に感じるぬくもりや、夕日を浴びながら西へ西へと進んでいくときの感覚は、AIには言語化できないでしょう。悔しさや哀しみも同じです。

これからは、人間だからこそ抱く感情や直感が重視されるでしょう。会社経営においても「一緒に経験する」ことがますます大切になると思います。今こそ、「おらがおらがの『我』(が)を捨てて おかげおかげの『下』(げ)で生きよ」です。美しい地球にいることに目を向けましょう。この地球にとって、世界にとっていいことは何だろうという問いを抱きながら対話をすること、そのような機会があることが大切だと思います。

常に上ばかりを見る必要はありません。「潜ってみる」ことで見えるものもある。潜るとは、挫折をしたり、絶望の中に入り込んだりすることを含みます。絶望のなかにいるからこそ、それまで見えていなかったものに気づけることもあるのです。

岩本光弘◎世界で初めてヨットでの太平洋横断に成功した全盲海洋冒険家。13歳で網膜色素変性症と診断され、16歳で全盲となる。熊本県盲学校専攻科理療科卒業後、San Francisco State Universityへの留学などを経て筑波大学付属盲学校の教員になる。35歳のとき、米国人の妻とともにヨットを始める。52歳でダグラス・スミスと太平洋ヨット横断に挑戦し、視覚障害者として世界初となるヨットでの無寄港太平洋横断に成功。内閣総理大臣賞や植村直巳冒険賞など数多くの名誉ある賞を受賞。2027年には単独無寄港太平洋横断に挑戦する予定。米カリフォルニア州サンディエゴ在住。

文/瀬戸久美子 写真/世界経済フォーラム(スピーチ中のカット)

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