最近は、「XR(Extended Reality=仮想・拡張現実の総称)は終わった」という語り口がもはや常套句のようになっている。だが、人間がVR(仮想現実)ヘッドセットを24時間365日かぶって暮らすという、打ち砕かれた夢ばかりに目を奪われると、長期的にXRが勝つ場所──すなわちロボティクス──が見えなくなる可能性がある。そして人間側に目を向けると、常時稼働の知能拡張を提供するスマートグラスが、勝ち筋になり得る。
経緯は周知の通りだ。メタはReality Labs部門に最大770億ドル(約11兆7860億円)を投じた。CEOのマーク・ザッカーバーグが社運を賭けた大勝負──VRヘッドセット、AR(拡張現実)研究、空間OS、そして完全なメタバース・プラットフォームの構築──は、テクノロジー史上最も高額なムーンショット(壮大な挑戦)の1つとなった。そして一見、それは失敗に終わったように見える。2022年と2023年にメタは2万1000人以上の従業員を削減した。ザッカーバーグが「効率化の年」と呼んだ施策の一環であり、今年1月にもVR部門を含む多くの人員が対象となっている。
しかし、その莫大な投資がメタ自身にとって報われなかったとしても、エコシステム(技術・産業の生態系)の発展には寄与しており、他の企業にとっては実を結びつつある。
「フィジカルAI(物理世界で動作するAI)で本当に面白くなるのは、ロボットに器用さを訓練するだけでなく、実際に配備される環境の中でナビゲーションを訓練するところです」と、EndeavorXRの創業者でCEOのエイミー・ペックは、先日Web Summit Qatar(ウェブサミット・カタール)で行われた公開ポッドキャスト収録の場で語った。「たとえばアマゾンの倉庫を想像してみてください。その環境全体を取り込み、仮想的にロボットを配備し、訓練し、シミュレーションを実行する。これにより安全性と効率が向上するのです」。
ここで興味深い疑問が生じる。メタはあれほどの資金を投じて、結局ロボットメーカーやそのユーザーを利しただけなのだろうか。
そう単純な話ではない。メタがレイバンやオークリーと共同で展開するスマートグラスはますます進化しており(筆者もそろそろ購入を検討したくなるレベルだ)、売れ行きも好調で、メタが構築した技術の多くが活用されている。今年は年間1000万個規模へ生産を拡大する予定で、2000万個に達する可能性すらある。
さらに、メタはヒューマノイド(人型)ロボットにも投資していると報じられており、自社投資の恩恵を自ら享受する道も残されている。
一方で、ロボットメーカーもXR技術の拡大と、数百億ドル(数兆円)規模の投資が生み出したXR開発者・専門家の増加から、大きな恩恵を受けている。
ヒューマノイドロボット、倉庫自動化、その他の自律型・半自律型機械といったフィジカルAIには、根本的な課題がある。物理世界の理解だ。ロボットが私たちの世界で安全に移動し、的確に作業するためには、空間、奥行き、距離、遮蔽、動き、物体間の関係を理解しなければならない。目の前に何があるか、背後に何があるか、手が届くか、遠すぎるか、動かせるか、壊れやすいか──こうした判断が求められるのである。



