生成AIを用いた動画制作の覇権争いが激化する米国で、あるスタートアップが異例のスピードで台頭している。「Higgsfield(ヒッグスフィールド)」は、インフルエンサーマーケティングにより、2023年10月創業から11カ月で年間売上高ランレート3億ドル(約465億円)へと急成長。現在では、OpenAIの動画生成モデル「Sora 2」において、支出額と利用量の両方で最大級の顧客となっている。
しかし、一見華々しい実績の裏には暗い側面がある。Higgsfieldが他社の既存動画を自社サービスのAI生成物として偽装していたことや、クリエイターに報酬を提示し著名人の映像を無断で利用したディープフェイク映像・人種差別動画を拡散させようとしていた事実が明らかになった。宣伝に協力したインフルエンサーへの報酬未払いトラブルも相次いでいる。同社公式Xアカウントは、「不正なコンテンツ運用」による規約違反を理由に停止された。
米国のスタートアップ界隈では、投資家から巨額の資金を引き出すために、なりふり構わず初期の売上指標(ARR)を追及するケースが後を絶たない。注目を集めるためなら炎上も辞さないHiggsfieldのモラルを欠いた成長至上主義が、本来サービスを使ってくれるはずのクリエイターから強い反発を招いている現状を浮き彫りにする。
マーケティング素材の偽装疑惑と、社内プロセスの混乱が露呈
2026年1月下旬、ロンドンを拠点とするゲームディレクターのティム・ソレットは、Xを通じてあるメッセージを受け取った。急成長中のAI動画生成スタートアップ「Higgsfield」のマーケティングチームからのものだ。そこには「これはHiggsfield史上最大の瞬間だ。ぜひあなたにも参加してほしい」と書かれていた。
他社素材サイトの映像を自社の生成物と装い、インフルエンサーに拡散を依頼
評価額13億ドル(約2015億円)のこのスタートアップは、約1500万人のクリエイターや広告代理店にツールを提供し、1日あたり450万本の動画クリップを制作している。同社は、テキストの指示をモーショングラフィックスに変換するAIモデルを用いた新ツール「Vibe Motion」をまもなく公開しようとしていた。ソレットに提示された条件は、同社のSNS投稿を、あらかじめ用意されたマーケティング素材の動画クリップとともにシェアすれば、200ドル(約3万円)を支払うというものだった。
しかし、長年にわたり手作業とAIツールの両方でグラフィック制作に携わってきたソレットは、何かがおかしいと感じた。Higgsfieldがシェアした動画には、AI特有の「視覚的な癖」が見られなかったのだ。彼はすぐに、メディアキット内の一部のクリップがAIで生成されたものではないと気づいた。フォーブスが確認した動画や資料によれば、それらはストック素材サイト「Envato」から流用したとみられる動画テンプレートに、自社のロゴを貼り付けただけのものだった。ソレット自身はその動画を拡散しなかったが、他のユーザーは拡散し、ストック動画のテンプレートがX上でHiggsfieldの宣伝に使われた。
「この盛り上がりはすべて作られたもので、金で買われたものだ」とソレットはフォーブスに語った。
Higgsfieldの共同創業者で最高戦略責任者のマヒ・デ・シルバは、フォーブスの取材に対し、このメディアキットは「アイデア出し」のためにマーケティング担当の従業員が作成したもので、誤ってクリエイターに共有されたと説明した。彼は、社内プロセスが「混乱状態にあった」と述べた。Envatoはコメント要請に応じていない。



