キャリア・教育

2015.10.15 07:30

ジェイソン・カイラー(フールー元CEO) アマゾンのベゾスCEOに学んだ「人の真価は、危機に問われる」

1998年11月、僕は小売り大手「アマゾン」でDVDビジネス事業部を率いていた。売り上げは好調だったけれど、僕らはDVDの販売価格をどの程度まで下げられるものなのか、もっとデータがほしかった。世界で最も多くの商品を、できるだけ低価格で提供するのが目標だったからだ。

アマゾンでは、データによる裏付けを大切にしている。集まった情報をもとに、判断を下すようにしているんだ。そこで、僕らはある実験をすることにした。

実験は、すでにセールを実施していたウェブサイトと店舗で3週間行うことにした。ランダムに選ばれた一部のお客さんに対して、同じDVDの価格をさらに安く設定し、それで売り上げが伸びるかを調べようとしたんだ。結果として価格を下げたグループの売り上げが伸びるということは、全体的に値下げしても大丈夫ということになる。

こうして、僕らは実験に踏み切った。

―その後の展開はおわかりだろう。そう、誰かがこのことに気づいたんだ。そしてネットに書き込んだ。「おい、妙なことになっているぞ。同じDVDを買ったのに、オレと友達とで値段が違う」というふうにね。

騒ぎは瞬またたく間に広がったよ。もともと、僕らはお得意さんを優遇しているなどと、あらぬ噂を立てられていた。だから、「いったい、アマゾンは何をしているんだ?」となってしまったわけだ。

これは明らかに僕のミスだった。実験をするという判断はもちろんのこと、その方法も含めてね。そこに悪意はなかった。でも振り返ってみれば、明らかに多くの点でまちがっていた。

直ちに、本社6階の会議室に緊急対策本部が設けられた。メンバーは4人。僕、広報室長、コミュニケーション局長、それとCEOのジェフ・ベゾスだ。

会社の外にはテレビ局の中継車が集まっていて、記者たちが僕らのコメントを待ち構えていた。

僕が階段を上って会議室に向かうときの気持ちといえば……。これから、社長に事の次第を報告しなくちゃいけないのだからね。

ところが会議室で僕を待っていたのは、穏やかな表情で落ち着き払った態度のジェフ・ベゾスだった。問題に対しては真剣そのものだったけれど、僕にはリラックスした感じで話し、励ましすらしてくれたんだ。問題解決と責任問題を分けたことで、僕らは問題の分析とその対策だけに集中できた。

アマゾンでは、科学的な視点を持って仕事に取り組むことがとても重要だ。そして実験の目的は、消費者にDVDを少しでも安く提供したいという善意によるものだった。でも今回の場合は、その科学的な手法が裏目に出てしまった。そうしたこともあり、実験は直ちに中止になった。

もう一つ学んだのは、「企業も人も、危機に直面したときに真価がわかる」ということ。特に、ジェフの対応は勉強になったよ。彼は翌朝の3時に起きて、ニュース番組の生放送で謝罪することになっていた。それにもかかわらず、彼は毅然とした態度で、「リーダーとはどう振る舞うべきか」を見せてくれた。

僕にとっては本当に苦い経験になったけれど、企業とリーダーのあり方について考えさせられた。そして何よりも、「人の真価とは、危機にこそ問われる」ことを知ったよ。

ベルト・マルティネス = イラストレーション フォーブス ジャパン編集部 = 翻訳

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