企業価値を揺るがす経営リスクに
両事件に共通する論点は、「明らかな入力ミスによって生じた利益を、どこまで消費者は保護されるべきか」という点だ。
韓国のオンライン世論では、ビットサム事件では「常識外れの残高を見て売却した行為に善意は認めがたい」、アシアナ航空のケースでは「企業の一方的な契約取り消しではないか」と、評価は分かれている。
暗号資産分野では判例の蓄積や「仮想資産利用者保護法」の整備が進む一方、航空券のような伝統的サービス分野では、いまだ個別交渉と世論の圧力に委ねられる側面が強い。
ビットサムとアシアナ航空の事例が示すのは、デジタル時代においてヒューマンエラーによる入力ミスは単なる現場トラブルではなく、企業価値を揺るがす経営リスクだという現実である。
日本でも、暗号資産取引所、航空会社、ECプラットフォームは複雑な料金・ポイント体系を採用しており、同種のリスクは常に存在する。
必要とされるのは、(1)入力権限の多重チェック、(2)異常値を自動検知する設計、(3)事故発生時の補償原則と説明責任の明確化、このようなガバナンスの再設計だろう。
AIや自動化が進んでも、最後に数字を入力するのは人間である。その「小さなミス」が、市場の安定と企業の信用を根底から揺るがす……、韓国発の2つの事件は、その冷厳な事実をあらためて突きつけている。
こうした事態を受け、韓国の金融監督院は、暗号資産取引所ビットサムに対する現場点検を、通常の確認作業にとどめず、正式な「検査」へと切り替える異例の対応に踏み切った。
金融監督院は、今回の大規模なビットコイン誤配布事案を単なる個別事故ではなく、取引所の内部統制や資産管理体制そのものに関わる問題と位置づけている。
検査結果によっては、暗号資産取引所における帳簿管理の方法や顧客資産の分別保管基準など、制度全般が再検討される可能性もあり、市場関係者の関心は1つの会社の責任追及を超えて、いまや業界全体へと広がっている。


