▼クレイジーキルトの原則
第三の原則は、クレイジーキルトです。行動を通じて、新たなネットワークを生み出していき、それを次のチャレンジに活かしていく、という考え方です。竹島水族館の再生は、明らかに単独で成し遂げられたものではありません。
漁師、水産業者、土産物会社、箱屋、デザイナー、産業支援機関…
こうした多様な人々が、少しずつ関わりながらプロジェクトが進んできました。ただし、小林館長に元々ネットワークがあったわけでも、無差別に人を巻き込んだわけではありません。繰り返し語られていた基準は、「楽しそうかどうか」「価値観が合うかどうか」でした。儲かりそうであっても、価値観が合わない相手とは組まない。一緒にやって楽しくなさそうであれば、無理に進めない。
さらに特徴的なのは、コミュニケーションの取り方です。小林館長自身は「人と話すのが得意ではない」と語っています。だからこそ、「聞く」「教えてもらう」という姿勢を大切にしてきました。「教えてください」という言葉は、相手を主役にし、自然な関係性を生み出します。その積み重ねから、地元漁師らと連携した「深海魚まつり」や地元事業者とのオリジナル土産の開発などにつながります。
▼レモネードの原則
第四の原則は、レモネードです。これは、予期せぬ出来事や不利な条件も見方を変えて、チャンスと捉える、ということです。
竹島水族館の弱点は明確でした。施設が古い、規模が小さい、全体的に地味…一般的には隠したくなる要素ですが、竹島水族館はそれらをあえて前面に出しました。派手な展示ができないからこそ飼育員が語り、設備が古いからこそ手書きで伝え、地味な魚だからこそ「キモさ」を笑いに変えたのです。
深海魚の気持ち悪さや、ウツボの異様な迫力をあえて強調する展示、流行語やダジャレを魚に結びつける軽やかさなどは、その象徴的な例だと言えるでしょう。小林館長は、これを「戦略」というよりも「そうするしかなかった」と表現しています。しかし、その「仕方なさ」こそが、他には真似しにくい体験価値を生み出しているように見えます。
▼パイロットの原則
最後は、パイロットの原則です。これは、未来を予測するのではなく、自分が操縦桿を握って未来をつくるという考え方を示しています。
小林館長は、最初から成功を確信していたわけではありません。

他に行く勇気がなかった、逃げ場がなかった、ここしかなかった…と率直に語っています。それでも、操縦桿を手放すことはありませんでした。地元の水族館だったこと。子どもの頃から通っていた場所だったこと。そして何より、好きだったこと。環境が好転するのを待つのではなく、完璧な計画を立てる前に、今できる操作を続けた結果、未来の方が後からついてきたと言えるのではないでしょうか。


