「フランス風の味付け」──バックフリップ、氷上へ帰還
それから26年後、別のフランス人選手がISUの規則に挑戦状を叩きつけた。モーリシャス移民の両親をもつボルドー生まれの中国系スケーター、アダム・シャオ・イム・ファが2024年の欧州選手権と世界選手権で禁止技を披露したのだ。
シャオ・イム・ファはバックフリップを跳んだことで2点の減点が課されたにもかかわらず、欧州選手権で連覇を果たした。
世界選手権では、運命のいたずらとしかいえない巡り合わせが起きた。シャオ・イム・ファがバックフリップを決めた時、審査員席にはテリー・クビカが座っていた。皮肉にも、自身が考案した技に対して減点を適用する役割を担っていたのである。
SPで大失敗して19位に沈み、さらにバックフリップの減点を食らいながらも、シャオ・イム・ファは銅メダルを獲得した。フランス人選手として2010年以来となる世界選手権のメダルだった。
バックフリップについて問われると、シャオ・イム・ファは同胞であるボナリーの影響をほのめかし、親愛を込めて「ちょっとしたフランス風の味付け」だと答えた。
数カ月後、米ラスベガスで開催された第59回ISU総会で、競技会での宙返り系ジャンプを禁止する項目が規則610号から削除された。クビカが初めて氷上で宙返りを披露してから50年近くを経て、ついにISUはバックフリップを正式に解禁したのである。
2026年冬季五輪、そして未来へ──
2024年末からバックフリップは演技構成点(PCS)に寄与する「振付要素」と認定されている。技自体の技術点はゼロだが、これまでのように減点対象ではなくなり「FSの振付構成に組み込めるようになった」(米フィギュアスケート協会)のだ。
技に伴う「リスク」と「得点への寄与度の低さ」にもかかわらず、マリニンをはじめごく少数の勇敢なスケーターたちがバックフリップに挑戦し続けている。
「フリーに組み込むことに決めた。音楽にとても合っているからだ」とマリニンは2024年に語った。「観客の拍手を誘えるし、すごくドキドキする。あとは単に自分がやりたいだけだ」
マリニンは日本時間2月11日の男子シングルSPでもバックフリップを披露した。日本時間14日のFSでもプログラムに組み込んでいる。
世界選手権2連覇中のマリニンは金メダルの本命と目されているが、彼が繰り出すバックフリップがなぜあれほどの熱狂を会場にもたらすのかを真に理解するには、何十年もの間この技が陽の目を浴びられなかった歴史を振り返る必要があるだろう。


