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2026.02.11 13:00

フィギュアスケートの衣装は100万円越えも デザイナーが明かす制作の舞台裏

ミラノ・コルティナ冬季五輪のフィギュアスケート団体戦で金メダルを獲得した米国のアンバー・グレン。2026年2月8日撮影(Tang Xinyu/VCG via Getty Images)

ミラノ・コルティナ冬季五輪のフィギュアスケート団体戦で金メダルを獲得した米国のアンバー・グレン。2026年2月8日撮影(Tang Xinyu/VCG via Getty Images)

機能性と美的感覚のバランスが取れた衣装は、染色、裁断、縫製に150時間を要し、ミラノの氷上で舞う選手たちの衣装の価格は100万円を優に超える──。

米国のアリサ・リュウが2年間の休養をものともせず、ミラノ・コルティナ冬季五輪フィギュアスケート女子シングルで金メダルを獲得するという驚異的な復帰を遂げれば、大きな利益を得るだろう。同大会で表彰台の頂点に立つ米国人選手には、米五輪委員会(USOPC)から3万7500ドル(約580万円。1ドル=154円換算)の報奨金が支給されるからだ。この金額は多くの冬季五輪選手にとって十分な報酬となるが、フィギュアスケートでメダル候補となっている20歳のリュウは、既に同大会のためにほぼ同額を投じている。

「その金額では衣装代にしかならない」。米ロサンゼルス在住のデザイナー、リサ・マッキノンは笑いながら言う。マッキノンは過去1年間で、リュウのために6着の衣装を手がけた人物だ。

マッキノンは通常、衣装1着につき3500~8000ドル(約54万~124万円)を請求しているが、五輪用の衣装はその価格帯の上限に近い金額になることが多い。衣装代はあっという間に膨れ上がる。なぜなら、ほとんどの選手がショートプログラム用、フリースケーティング用、そして大会を締めくくる採点対象外のエキシビション用と、五輪に出場するために少なくとも3着の衣装を持ち込むためだ。これに加え、五輪以外の大会でシーズンを通して使用する衣装も用意しなければならない。

2024年パリ五輪で米国の女子体操チームが着用したレオタードは、数千個のラインストーンとパールが刺繍され、約5000ドル(約77万円)もしたが、フィギュアスケートの衣装が高価なのは、素材よりも制作に要する労力によるものが大きい。デザインは反復的な作業であり、選手からの要望を受けて頻繁に変更される。生地の染色や裁断、手縫いなどの工程を経て、完成品が生まれるまでには数カ月を要することもある。

また、機能性と美的感覚の適切なバランスを取れるデザイナーも、それほど多くはいない。世界一流のフィギュアスケーターの多く、特に米国代表として競技する選手たちは、マッキノンを含む数人のデザイナーに集まる傾向がある。マッキノンの顧客にはリュウのほか、全米選手権王者のアンバー・グレンらが含まれる。一方、カナダ東部ケベック州を拠点とするデザイナーのマシュー・キャロンは、米国人夫婦のアイスダンスペア、マディソン・チョックとエバン・ベーツの衣装を担当している。また、五輪王者の羽生結弦の衣装も手がけた日本のデザイナー伊藤聡美は、今大会で男子シングルの金メダル候補に挙がっている21歳の米国人選手イリヤ・マリニンの衣装をデザインした。マッキノンは「私たちの衣装には芸術性があり、人々はそれを高く評価していると思う」と語った。

こうした需要は、選ばれたデザイナーにとって有利な市場を生み出した。マッキノンは1時間当たり90ドル(約1万4000円)を請求し、過去1年間に60~70着の衣装を制作した。1着の衣装にかかる平均的な制作時間は約50時間だ。今回の五輪で26人の選手の衣装を担当したキャロンは、1時間当たりの料金が35ドル(約5400円)と手頃だが、納期は80~150時間とやや長い。

4年ごとに五輪が開催される直前になると、衣装の微調整や変更の依頼が殺到する。このような切羽詰まった状況では、機会も増える。「どの選手も財布のひもを緩める」とキャロンは言う。「誰もが最良の選択肢を確保したいのだ」

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翻訳・編集=安藤清香

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