フェドロウはスペースXを率いるイーロン・マスクに直接訴え、スペースXは迅速に動いた。この対応は、かねてロシア軍によるスターリンクの使用を問題視してきたアナリストらにとっても驚きだった(マスクは以前、黒海でロシアの軍艦と戦うウクライナの無人艇について、スターリンクの利用を制限したことで批判を浴びた)。
ロシアの軍事の専門家で、米シンクタンクのCNAと新アメリカ安全保障センター(CNAS)の顧問を務めるサミュエル・ベンデットは、ロシア側はこうした問題が起こることを予見していたと解説する。前線部隊は通信の空白を埋めるため、スターリンク端末を私費で購入していた。
「ロシア軍が前線の兵士による私物の携帯電話の使用をやめさせようとしたり、戦術立案やUAV(無人機)のC2(指揮統制)での『シグナル』や『テレグラム』といったアプリ利用を最小限に制限しようとしたりして以来、ロシアの論評者やブロガーは同等のロシア製システムを求めてきました」とベンデットは筆者の取材に述べた。「ロシア製の代用品が使えれば、こうした西側のツールに依存せずに済むと彼らは主張しています。しかし、いまもってロシアには同等のシステムがなく、戦術レベルの末端で広く使用される指揮統制システムも整備されていません。そのためロシア側は引き続き商用ソリューションに頼っていたのです」
ロシアは、スターリンクに代わる軍用通信手段を配備するのに手こずっている。ロシア版スターリンクの「ラスベト(暁)」計画では、低軌道(LEO)ブロードバンド通信衛星の最初の16基を2025年に打ち上げる予定だったが、延期になった。いずれにせよ、ラスベトが2027年以前に運用できるようになる可能性は低い。ほかにもさまざまなシステムが試みられている。
「ロシアの論評者には、軍用グレードの通信システム、さらには衛星通信が存在するとほのめかす者もいます」とベンデットは言う。「しかし、そうしたシステムは前線全体で広く使われてはいませんし、少なくともスターリンクほど広く使われていないのは確実です」


