ホッキョクジリスの冬眠の学術的意義
いまやホッキョクジリスは、ニューロンを保護するメカニズムを研究するためのモデル動物となっている。彼らの脳が示す、低温や局所貧血への耐性は、脳卒中、心臓発作、外傷性脳損傷の研究に重要な知見をもたらし、命を救う治療法を進歩させた。ヒトの脳をトーパーに似た状態に誘導する試みは、昨今注目の研究分野であり、特に救急医療と長期間の宇宙飛行との関連で可能性が模索されている。
哺乳類の脳は基本的に損傷に対して脆弱であると、我々は考えがちだが、ホッキョクジリスは、このような性質が不可避ではないことを教えてくれる。適切な分子的環境があれば、哺乳類の脳は、生存がとうてい不可能に思えるような極限環境であっても、損傷を受けることなく乗り切ることができるのだ。
このような特殊能力は、たまたま生じたというものではない。ホッキョクジリスは、冬を乗り切れなければ即絶滅という、厳しい選択圧の下で進化してきた。彼らは酷寒を避けるのではなく、生物として最も基礎的なレベルから酷寒に適応した。そのおかげで、彼らの脳は可逆的シャットダウン機能を備えた、実に柔軟なシステムとなったのだ。
このことは、進化生物学の観点から見て、知能と生存能力は常に絶え間ない神経活動を必要とするとは限らないことを教えてくれる。時には最も賢い戦略は、休むべきタイミングを知ることなのだ。


