サイエンス

2026.02.27 18:00

8カ月冬眠するジリス、氷点下で呼吸がほぼ停止しても脳は損傷しない驚きの理由

ホッキョクジリス(Shutterstock.com)

ホッキョクジリスの脳は、低酸素状態をどう切り抜けるのか?

冬眠中のホッキョクジリスの最も驚くべき特徴の一つは、彼らの脳が局所貧血(ischemia)、すなわち血流と酸素がない状態に、高い耐性を示すことだ。2006年に医学誌『Stroke』に掲載された論文で説明されているように、ヒトの場合、たとえ短時間の局所貧血であっても、細胞内のカルシウム流入、ミトコンドリアの機能不全、細胞死といった深刻な結果につながりかねない。ところが興味深いことに、ホッキョクジリスのニューロンは、こうした連鎖反応への耐性を示す。

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同研究によれば、ホッキョクジリスの脳細胞はトーパーのあいだ、ミトコンドリアの完全な機能を維持し、酸化ストレスを回避する。細胞の抗酸化回路が活性化され、代謝反応が促進されることで、細胞を損傷するフリーラジカル(活性酸素)を抑制するのだ。簡単にいえば、この能力は細胞の予防的エンジニアリングといえるだろう。

しかし、何より直感に反する発見は、ホッキョクジリスのシナプスから得られた。トーパーのさなか、彼らの脳内のシナプス接続は、部分的に解体されるのだ。樹状突起スパインが縮小し、ニューロン間のコミュニケーションは劇的に減少する。

ほとんどの動物にとって、これは命に関わる緊急事態だ。シナプスの喪失は、神経変性疾患や認知能力の低下と強く関連しているからだ。しかし、ホッキョクジリスの場合はなぜか、これが可逆的プロセスとして成立している。彼らは、周期的に体温を上昇させて短期間の覚醒状態に入り、この時にシナプスを急速に再構築する。

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このため、春の訪れとともにホッキョクジリスが地中から姿を現した時、彼らの脳神経の構造は何の問題もなく機能する。

凍結による細胞損傷をどう回避しているのか?

哺乳類にとって冬眠は定常的プロセスではなく、これに関してはホッキョクジリスも例外ではない。彼らは数週間に一度、一時的に体温を活動時のレベルまで上昇させる。ただし、この期間はごく短く、24時間に満たない。一時覚醒には多大なエネルギーが必要で、冬眠中のエネルギー消費のほとんどをこの期間が占める。

それほどコストがかかるなら、なぜ周期的に体温を再上昇させるのだろう? 2009年に学術誌『Journal of Comparative Physiology B』に掲載された論文によれば、このプロセスは脳のメンテナンスに不可欠なのだ。ホッキョクジリスは、体温を上昇させてDNAを修復し、タンパク質の機能を回復し、神経伝達物質のバランスを再調整する。トーパーによって損傷を最小限に抑えつつ、わずかながら徐々に蓄積されていくダメージを、一時覚醒によって修復するのだ。

ホッキョクジリス以外のどんな動物であっても、体温が氷点下に下がれば、体内に氷の結晶が形成されて細胞が破裂し、危険な状態に陥る可能性がある。だが、1989年に『Science』に掲載された先駆的な論文で述べられているように、ホッキョクジリスは、氷点下でも血液などを液体のまま維持できる「過冷却(supercooling)」と、「氷形成を制御しながら末梢組織内にとどめること」で、この問題を回避している。

実に見事なこのメカニズムによって、脳内における氷の形成は完全に回避できる。特殊なタンパク質、細胞膜の特異な組成、細胞外液の化学的性質の精緻な調整により、温度が氷点下に下がっても、ニューロン内部は液状のままなのだ。これほど高度な凍結耐性のコントロールは、哺乳類では異例であり、むしろ両生類や爬虫類に見られる戦略に通じる。

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翻訳=的場知之/ガリレオ

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