食事中には料理ごとに、元になった家庭料理の説明を絵と文章で簡単に表したカードが配られる。これが可愛らしいうえにわかりやすく、食べながら見ることで楽しさが何倍にもなる。料理に興味のある人には、たまらなく刺さるはずだ。
「毎日が勉強に次ぐ勉強という状態ですが、どの料理一つをとっても、生き抜くための知恵が詰まっているんですね。特に寒い地域では、冬になると食べるものがなくなってしまうところも少なくなく、保存の技術がそのまま料理につながっています。人間の歴史はついこの間まで、飢えとの戦いでした。保存の知識を丁寧に紐解いていくことは、人間にとっての食の意味を考えるうえでとてもためになるのです」と、このプロジェクトの隠れた意義を語る。
こうした壮大な実験のように振り切ったコース料理が組めるのも、星野リゾートという大きな組織があってこそ。「これだけの時間と経費を使って研究させてくれる点には深く感謝しています。代表の星野が面白がってくれたことも大きかったですね」と岡氏は言う。知識や知性の高度な遊びともいえるこのテーマは、理論派の星野氏には、とても興味深く感じられたのではないだろうか。
昨秋から本格的に始まり、季節ごとに変わるコースはまだ2シーズン目を迎えたばかり。岡氏は、この取り組みを成功させるために研究に邁進するそうだが、そのなかで「こうした郷土料理や、生き抜くための知恵を話せる料理人仲間がいるといいな」と思うことがあるという。
確かにニッチ過ぎるのだろう。日本料理の料理人でもそこまで郷土料理を深堀りしている人はそう多くない。残念ながら星のや東京のディナーコースは宿泊をしないと食べられないため、気軽に料理人仲間にきてもらうわけにはいかない。それがゆえに業界への影響や波及もままならないところがある。
とはいえ、エンターテインメント性も高く、印象深いこれらの料理。余裕があればぜひ味わってほしいと思う。必ずや人間の生きてきた道のりについて考えさせられるはずだから。



