食&酒

2026.02.15 14:15

「失われた日本の家庭の味」を再び 星のや東京が生む美食体験

星のや東京 総料理長 岡 亮佑

そうこうして、この料理ならいけそうだという目星を付けたものを何点か選び出した。しかし、それがゴールではない。それらをそのまま再現するのではなく、「もうつくられなくなった家庭料理」の食材や技法などのエッセンスを生かして、今の時代にも喜んでもらえる料理に仕立て上げることが真の目的だからだ。

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そこで重要になってくるのが味の着地点だ。ここで岡氏は、その真骨頂でもあるフレンチを目指したという。

「つくっているのは“日本の料理”ではあるのですが、それをそのまま針の穴を通すような料理に仕上げてしまうと味が尖りすぎてしまう。フレンチは足し算の料理ですから、着地点の味の幅が広い。今の時代に食べても充分に納得のいく美味しさに再構築できるはずだと思ったのです」

愛知や北海道の郷土料理を東京で

こうして出来上がった新たなディナーコースだが、ここまで説明してもどんな料理なのか、見当がつきにくいであろう。現在提供している冬限定メニューの内容をかいつまんで説明しよう。

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まず突き出しは「南関あげ巻き寿司」。熊本の大判でさくさくとした南関揚げを使った巻きずしだ。それに、細切りにしたするめいかとにんじんを甘辛いタレにつけこんだ福島の一品「いかにんじん」のアレンジなどをアミューズとして供する。

前菜は、鶏肉を使ったすき焼き、愛知の「引きずり」をアレンジし、椎茸や生麩を、割り下に漬け込んだ鶏肉で包んでバロティーヌスタイルに仕上げている。

ひきずり(愛知)
ひきずり(愛知)

魚料理には、北海道では「たち」と呼ばれるタラの白子を使ったかまぼこ「たちかま」。それを旨みを凝縮させたソースへと形を変え、旬の焼き魚と合わせる。付け合わせには香ばしい焼きリゾットとさっぱりした蕪のサラダを添えた。

たちかま(北海道)
たちかま(北海道)

どれも郷土料理の本質を生かしているが、目の前に出される一皿は、家庭料理の素朴さを感じさせない、見事に再構築されたフランス料理と見える一品料理だ。

星のやブランドを代表する東京店の料理としては、何とも大胆な試みではないか。代表の星野佳路氏にプレゼンするにあたっては、相当緊張したという。「プレゼンまでに広報チームやマネージャー達と揉んで揉んで、万全の構えで臨み、ありがたいことにそのままGOが出ました」と笑顔で振り返る。

現在、宿泊客は8割ほどがインバウンドだが、夕食をとる人は6割がインバウンド、4割が国内からのゲストだそうだ。評判はいずれも上々とのこと。外国人にとっては、ちょっと変わった、面白い日本料理というレベルの感想がほとんどだが、日本人は「昔はこんな料理があったのか。それをアレンジしてこのように……」と、大変に興味を持ってくれるという。

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文=小松宏子 写真提供=星野リゾート

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