演劇、なかでも「観劇」の世界で今、 生成AIの技術はどのように実装されようとしているのか。その一例を、演劇メディア「Audience」編集長 齋藤優里花氏による寄稿で紹介する。
「観劇三昧」が切り拓いた「演劇配信」という新市場
演劇の生成AI活用は、ともすると「脚本や演出をAIが担うのか」という議論に収れんしがちだ。だが現場で進み始めている変化は、創作の置き換えではなく“届き方”の再設計にある。
演劇動画配信サービス「観劇三昧」を運営してきたネクステージは現在、生成AIを活用した新サービス「NEXIA(フリーアングル型動画配信)」の開発を進めている。
狙いは舞台の価値を映像に“置き換える”ことではない。劇団の創作を尊重しながら、観客が舞台に触れる選択肢を増やし、結果として劇団側に正当な対価が還元される循環をつくることだという。
同社の原点は、2013年に開始したオンライン観劇サービス「観劇三昧」だ。全国677劇団2540作品を観劇できる独自のサービスが演劇ファンの間で話題を呼び、累計登録者数は24万人を突破。演劇に特化した動画配信として一定の存在感を築いた。
一方で動画配信市場は「規模自体は伸びているが、成長率は年間数%程度にとどまる」と語るのは、「観劇三昧」を手がけるネクステージ代表の福井学氏。成長を牽引するのは豊富なコンテンツ群を武器にした大手企業で、ニッチプレイヤーが同じ土俵で拡大する難しさがあった。
演劇公演の配信という観点で言えば、コロナ禍では「生の公演ができない・観られない」という制約が、逆説的に配信需要を押し上げた。しかし、2023年に感染症が5類へ移行すると潮目が変わる。劇団・観客ともに“原点回帰”として生の舞台を優先し、ライブ配信は縮小傾向に向かったという。さらに感染対策などで維持費が上がり、近年では物価高も影響してチケット代も上昇する中、劇団側は「まず劇場公演を成立させる」ことにリソースを振り向けざるを得なくなった。こうした環境変化が、次の一手として生成AIを活用した「NEXIA」開発の背景にある。



