地方と都市の「教育格差」を埋める
NEXIAが想定する活用は、商業公演にとどまらない。教育現場、とりわけ地方の演劇教育においても、大きな可能性を秘めているという。たとえば地方の高校で演劇部に所属していても、顧問教員が地域内だけで最新の演技技法や演出手法を学び、指導に反映させることは容易ではない。結果として、都市部と地方の間には、指導環境や情報量の差が生まれやすい。
こうした状況に対し、フリーアングル型の映像は「表現教育の補助ツール」として機能し得る。関東圏で上演されている舞台を、単なる定点映像ではなく、立ち位置や動線、俳優同士の距離感まで含めて観察できれば、地方にいながら同等のクオリティで技法を学ぶことが可能になる。顧問教員が教材として併用することで、地域差を超えた表現教育の底上げにつながるという考え方だ。
生成AI活用により蘇る過去の名作
同社が挙げる生成AI活用はフリーアングルだけではない。既存映像の価値を引き上げる用途、すなわちフレーム補間による滑らかさ向上や、アップスケーリングによる高画質化である。
古い素材は解像度が低く、アクションでは残像が出やすい。そこをAIで補正し、現代の視聴体験に近づける。過去作品を再び“資産”として活用できる状態に戻すことは、演劇のIP活用という観点でも重要になる。
スマホ上に新たな「劇場」を
「私たちのミッションは、世界中に劇場を作ること」だと福井氏は語る。劇場とは、必ずしも物理的な建物を指すわけではない。スマートフォンやPCといった身近なデバイスもまた、芸術に触れるための“劇場”になり得る。演劇に限らず、体験価値をデジタル空間へ翻訳できる環境を整備することで、従来は物理的制約に縛られてきた市場を広げていく。
「演劇に触れる環境を日常の延長線上に増やしていくこと、劇団と観客のハブとなるプラットフォームを整備することが、弊社の大切な役割だと捉えています」と、福井氏。
重要なのは、同社が生成AIを「創作を置き換える技術」としてではなく、「表現が届く回路を拡張する基盤」として位置づけている点だ。演劇という表現の核は人間に残しつつ、生成AI活用によって配信・教育・アーカイブを横断する新たな価値創出を狙う。体験と収益が循環する構造づくりを目指し、挑戦は続く。
齋藤優里花(さいとう・ゆりか)◎演劇メディア「Audience」編集長。ライター。


