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2026.02.26 11:15

AI演劇配信という新市場出現、『スマホ上劇場』の点群表現を見たか?

Adobe Stock

「好きな席へ移動できる」新たな映像体験

NEXIA開発の起点には、生成AI研究に取り組む機会があった。GMOインターネットグループがAIスタートアップに向けて2023年に期間限定で実施したGPUの無償提供だ。

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もともと同社は配信に加えて舞台撮影・編集・ライブ配信環境、そして視聴プラットフォームまで自社で保有していたこともあり、芸術における生成AIの研究を重ねてきた。そこで既存の仕組みを再構築し、新たな体験価値をつくる方向へ舵を切ったのがNEXIAとなる。

NEXIAは複数の定点カメラ映像データをAIにて解析し、点群データを生成する。その結果、VRゴーグルがなくとも、空間全体を歪みのない映像で体感することができる。360度映像のように決められた席から“視点を回す”体験ではなく、視聴者が“座る位置”そのものを変えられる点が特徴。

たとえば車椅子利用者は劇場では導線上の都合から専用席に案内され、最前列やセンターの視界を得にくい。NEXIAでは「上手」「中央」「下手」など、好きな位置から舞台を選べる映像体験を提供する。アクセシビリティだけでなく、推し活の深掘りにも接続する。「好きな俳優を好きな角度で見られる」ことが、編集映像とは別の収益機会になり得るという考え方だ。

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点群で空間を再構成する「ガウシアン・スプラッティング」

新たな映像体験の核となるのは「ガウシアン・スプラッティング(点群表現)」だ。

ポリゴンのように板を組み立てる3Dと異なり、楕円状の点の集合として空間を表現する。X・Y・Zの座標を含む計算を膨大に回し、複数カメラ間の差分から点群を生成するため、人力の延長では成立しないという。

撮影にはGoPro等のアクションカムのような小型カメラを使い、会場の形状や広さにもよるが、実にカメラ20台程度、三脚は10本ほどを並べることもある。重要なのは配置ノウハウで、カメラ同士の視野の“重なり”が適切でないと空間座標が安定して生成できない。これまで劇場で舞台撮影を行なってきたノウハウと、生成AI研究の掛け合わせが優位性になると福井氏は語る。

コストは10分の1を目標、回収はレベニューシェアで設計

ただし演劇領域では、劇場に複数台のカメラを設置すること自体が新しく、劇団側の心理的ハードルが高い。生ものの演劇において、カメラの存在が俳優の集中や観客の受け止め方に影響し得る。撮影のために「撮影用公演」を別途打つ必要が出れば、交渉難度はさらに上がる。

そこで同社はまず音楽領域、特にアイドルライブへのアプローチを先行させている。音楽ライブでは機材が演出要素として受け入れられやすい、という見立てだ。

コストもスポーツ中継等で使用される類似技術の単価より10分の1を目指す。また固定費回収ではなく、配信チケット等の売上を劇団と分け合うレベニューシェア型モデルを採用し、劇団の導入障壁を取り払う。

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文=齋藤優里花 編集=石井節子

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