OpenAIのCEO、ビリオネアのサム・アルトマン(40)は、ChatGPTを通じて人工知能(AI)を普及させ、評価額5000億ドル(約78.5兆円。1ドル=157円換算)規模の巨大企業を築き上げた。2025年2月に第1子の誕生を明かし、もう1人を迎えようとしている彼は現在、自分の子ども世代が生きることになる世界を作ろうとしている。
過去の偉大な発明品収集から、歴史を変えるOpenAIの成功に触れる
サンフランシスコにあるOpenAI本社のアルトマンのデスクの上には、黒檀色のスティック菓子のような金属の棒が、垂直に立てられている。長年にわたり自身が集めてきた品々の中でも、ひときわ異彩を放つこのウランの棒について、アルトマンは「心配しなくていい」と語る。
「これは劣化ウランだ」と彼が説明する金属の棒は、核エネルギーの生成に使われるのと同じ元素、ウラン238でできている。ただし「人体に害はない」とアルトマンは強調し、ガイガーカウンターをかざして、その安全性を示した。
「物理学の大きな発見は後に、人類の想像を超えるエネルギーを生み出すことがある」とアルトマンは説明する。「最初は誰も気づいていなかったものが、理論として整理され、数十年後には原子爆弾を生み出した。そのスピードは異常といっていい」。
アディダスのスニーカーを履き、シンプルなグレーのニットを着たアルトマンは、そこに展示された品々を時系列順に淡々と説明した。展示の多くは、普段は自宅の書斎に置かれており、親しい友人以外の目に触れることはないという。この日オフィスに並んでいたのは、4万年前の石器の手斧、3500年前の青銅剣、コンコルド旅客機のジェットエンジンから取り出されたコンプレッサーのファンブレードなどだった。アルトマンはこれらをすべて、バスルーム用のタオルで1点ずつ包み、バッグに入れてオフィスに運んできたのだという。
「私は、こうした品々を見るたびに、人類が世代ごとに積み重ねてきたテクノロジーの進化に驚かされる。我々はまさに現在、その光景を目の当たりにしている」とアルトマンは語る。
彼のコレクションでも強い存在感を放つのが、ChatGPT初期モデルの学習に使われたという、古いGPUだ。2022年11月にリリースされたChatGPTは、AIを一気にメインストリームへと押し上げた。その結果として起きたイノベーションの連鎖は、将来的に産業革命に匹敵する変化だったと評価されるかもしれない。
米国の歴史を振り返れば、発明そのものではなく、最先端のイノベーションを強い意志と知恵で人々の暮らしに押し広げてきた人物がいる。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツ、イーロン・マスクなどだ。トーマス・エジソンも、電球そのものを発明したわけではない。彼やそのチームは、より長持ちするフィラメントを開発して市場に投入した。
アルトマンもその系譜に連なる存在といえる。エンジニアや科学者というよりも投資家であり、アクセラレーターでもある彼のビジョンは、消費者向けプロダクトではなく、近い将来に経済全体が依存することになる基盤システムを構築することにある。
評価額を約117.8兆円に引き上げる可能性、約15.7兆円規模の大型調達に動く
ChatGPTの週間ユーザー数は現在8億人を超えている。2025年の売上高が130億ドル(約2兆円)を超えたOpenAIの評価額は最近、5000億ドル(約78.5兆円)と算定された。アルトマンは同社の株式を直接保有していないが、他の投資を通じて純資産は約30億ドル(約4710億円)と推定されている。OpenAIは現在、評価額7500億ドル(約117.8兆円)以上に引き上げる可能性がある1000億ドル(約15.7兆円)規模の大型資金調達について協議中だ。
OpenAIの動きに触発された巨大テック企業は、2026年だけで、AI向けのデータセンターや半導体に約5000億ドル(約78.5兆円)を投じる可能性がある。今この瞬間、OpenAIは、おそらく世界で最も重要な企業の1つとなっている。
著名経営者がアルトマンを神格化、ディズニーCEOは「未来を先回りして見通せる人物」と評価
こうした一連の成功によって、アルトマンは急速に神格化されつつある。ディズニーのボブ・アイガーCEOは、アルトマンについて「未来を先回りして見通せる人物だ」と評している。エアビーアンドビーの共同創業者ブライアン・チェスキーは、アルトマンをイーロン・マスクと並ぶ「最も野心的な人物の1人だ」と語る。
アップルのデザインを象徴する存在であるジョニー・アイブも、「アルトマンは未知の世界に居心地の良さを感じているが、その責任を軽く考えているわけではない」と述べている。著名な投資家で、スタートアップ支援組織Yコンビネータ(YC)でアルトマンの指導役を務めたポール・グレアムは、より率直に「彼は人を納得させるのがうまい。人に自分の望む行動を取らせる力がある」と評価する。
穏やかな口調で、中西部出身らしい控えめな雰囲気をまとってはいるが、アルトマンはAIの未来を売り込む語り部でもある。彼が繰り返し語る、AIが指数関数的に成長するという主張は、OpenAIの評価額を支えるだけでなく、その周囲で膨らみ続ける巨額の経済的・社会的な賭けを成り立たせる前提でもある。
だが、その壮大な未来にどうやってたどり着くのかについて、彼自身が明確な道筋を描けているのかは分からない。アルトマンは、自らが語る巨大で、急速で、莫大なコストを伴う未来を、本当に現実のものにできるのだろうか。
StripeやRedditなどの初期投資で成功
フォーブスは10年以上にわたりアルトマンの動向を追い続けてきた結果、近日発表予定の「存命中の米国人イノベーター」ランキングで彼を6位に選出している。2015年に彼は、スタートアップ支援組織Yコンビネータのトップに就いたばかりの29歳として、米フォーブスが同年立ち上げた「30 Under 30」のベンチャーキャピタル部門にも選ばれた。「世界が抱える課題をリストアップし、それを解決する企業に資金を投じられるのはクールなことだ」と、アルトマンは当時フォーブスに語っていた。
投資の動きをたどると、彼がいかに野心的なビジネスリーダーであるかが見えてくる。2010年代にスマートフォンが社会インフラとして定着していく過程で、アルトマンは後にアプリ経済の中核を担うことになる企業に、個人として資金を投じてきた。社名すら決まっていなかった決済スタートアップのStripe(ストライプ)には、2%の持ち分と引き換えに1万5000ドル(約236万円)を出資。2014年には、掲示板サイトReddit(レディット)の5000万ドル(約79億円)の資金調達ラウンドを主導した。
現在は核融合や社会基盤の構築に資金を投入
AIをめぐっても、その姿勢は変わらない。もちろん中核はOpenAIだが、視野はそれだけにとどまらない。出資先のHelion(ヘリオン)は、核融合を用いてほぼ無尽蔵ともいえるエネルギーの実用化を目指す企業だ。同じく投資先のOklo(オクロ)は、より従来型の核分裂技術をベースにしながらも、小型でモジュール化された原子炉の開発に取り組んでいる。いずれも、将来的にAIが必要とする莫大な電力需要を支える存在に位置づけられている。
アルトマンは、AIによるディープフェイクが広がる世界で「人間であることを証明する仕組み」を提供するWorld(旧称:Worldcoin)にも関与しているほか、人間の脳の仕組みにヒントを得て、従来とは異なる形で計算処理を行う次世代コンピューティングの研究に取り組む新興企業Merge Labs(マージ・ラボ)の創業メンバーにも名を連ねている。
非営利団体OpenResearch(オープン・リサーチ)を通じて、AIがもたらしかねない雇用や所得の混乱に備えるため、米国最大級のベーシックインカム実験の1つも支援してきた。この取り組みは、すべての国民に条件なしで少額の所得を保障する仕組みが、経済的ショックに対する緩衝材になり得るかを検証する試みでもある。
「私は、数年先や数十年先を見据えて複数の事象を同時に思い描き、それらがどう絡み合っていくかを理解する点では、かなり例外的な能力を持っていると思う」とアルトマンは語る。次に何が起きるかを予測するのが得意な人もいれば、異なる世界が重なり始める瞬間を捉える人もいる。「その両方を組み合わせられることが、私の強みだ」と彼は続けた。
アルトマンはここ最近、AIがもたらす可能性と危うさを考えるための、新たな視点を加えている。それが、父親になったことだ。彼は、同性婚をした夫との間に、すでに男児を1人設けており、2026年後半には第2子が生まれる予定だ。
「周囲の人々から『子どもができてよかったね。これで世界を破壊するようなことはしなくなるね』と言われることがある。でも、そんなことをしないと決めていたのは、子どもができる前からだった」とアルトマンは笑う。



