サイエンス

2026.02.09 18:00

人は「恐怖の臭い」を無意識のうちに感知している

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ここまでの研究成果をみると、この分野における最も興味深い側面の一つは、汗による感情伝達が、人が「恐怖を嗅ぎつける」と聞いて想像するような、意識的な行為ではないケースが多いということだ。つまり、正確に特定できるような、具体的かつ常に特定可能な臭いがあるわけではないのだ。実際には、被験者は、汗のサンプルの臭いを嗅いでも「特に特徴はない」と回答するか、嗅いだ汗の臭いと具体的な感情を結びつけることができないのが普通だ。

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しかし、我々の脳や行動からは、異なるストーリーが浮かび上がってくる。このような現象が起きるのは、化学的な刺激を感知する仕組みの大部分は、臭いを意識する部位である嗅覚皮質を迂回しているからだ。こうした仕組みは、扁桃体や大脳辺縁系といった、脳の奥深くにある、感情をつかさどる部分と直接やりとりしている。その結果として脳は、意識を持つ精神が察知するずっと前に、鼻が検知した臭いを「感じる」のだ。

「恐怖を嗅ぎつける」能力が、人類の進化に果たした役割とは

「恐怖」という感情は、特に注目を集め、見出しを飾ることが多いものの、人間の体臭が伝えるとみられる感情は、これだけではない。具体的には、軽蔑や幸福感、ストレスにも、特有の化学的特質がもたらす効果があることが、研究で判明している。これらのケモシグナルはそれぞれ、臭いを嗅いだ者の知覚や、一部のケースでは感情の状態変化と結びついていた。

人間が体臭を通じて感情の状況、特に恐怖の感情を伝えているという説からは、進化に関する興味深い疑問が導き出される。嗅覚を通じた警戒システムは、人類の祖先が暮らした世界では適応性が高かったはずだ。なぜなら、この能力がある個体たちで構成された集団は、意識の上で脅威を検知する前に、警戒レベルを高めることができたと考えられるからだ。

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残念ながら、恐怖を伝えるシグナルを構成していると認められる具体的な化学物質について、生物学者たちは特定できていない。いわゆる「ヒト・フェロモン」は、まだ抽出されていないということだ。

これらのシグナルを受信し処理するプロセスには、それぞれの嗅覚器官における違いや文脈が大きく影響している。それでも、我々人間が持つ鼻と、そこから信号を受け取る脳の回路が、大半の人が認識している以上に、人間の意思疎通において大きな役割を担っているということは明らかだ。

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forbes.com 原文

翻訳=長谷睦/ガリレオ

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