日本M&Aセンターでは、M&A成約時に事業の永続的な成功を目指した「M&A成約式」を行っている。この「M&A成約式」は普通の成約と何が違うのか。式典を担うM&Aセレモニストたちに聞く。
ビジネスにおける契約の取り交わしは、一般的に事務的な手続きで完結する。しかし、M&A仲介のトップランナーとして知られる日本M&Aセンターは、その既成概念を鮮やかに塗り替える。それが同社の契約セレモニー「M&A成約式」だ。
とある企業の「M&A成約式」では、譲渡・譲り受け両企業の経営者のみならず、その家族を含む関係者が一堂に会した。来賓の祝辞にはじまり、譲渡企業のイメージをデザインした成約証明書に署名。その後譲渡オーナーはM&Aに踏み切った経緯を語った。期待していた後継者が若くして亡くなってしまったこと、その後の事業が窮地に陥り、このM&Aが成約したことを心から喜んでいること。その想いを受け、譲り受け企業は承継する事業への覚悟を語る。乾杯の後には譲渡オーナーの妻からの手紙が読み上げられるサプライズがあり、会場は感動の拍手に包まれた。その光景は結婚披露宴のようだ。
「M&A成約式は2015年から行っています。“成約という記念すべき日をお祝いしたい”という、担当コンサルタントの純粋な想いからスタートしました。今ではこの式典は、譲渡オーナーと譲り受け企業の双方が言葉にできない想いを伝え合う、重要かつ不可欠な取り組みとなっています」と日本M&AセンターのCS推進部でセレモニストリーダーを務める稲田明音(以下、稲田)は説明する。
譲渡企業にとって、式典はこれまでの経験や決意、家族への感謝をあらためて言葉にする貴重な場となる。一方の譲り受け企業にとっては譲渡オーナーがどのような想いで譲渡を決断し、その家族がどのように支えてきたのかを直接聞くことで責任の重さを実感、承継に対する決意を新たにする日となる。ディールの最中は、どうしても条件や数字といった現実的な議論が中心になるが、M&A成約式はそうした緊張から一時的に解放され、双方が初めて純粋な想いを伝え合える場になるという。
「仲介して成約させることだけが目的であれば、式典は必要ないのかもしれません。しかしこのように両社が想いを伝え合い、“大変だったけれど、乗り越えて良かった”と心から感じられる場があるからこそ、成約の日がゴールではなく、新しいストーリーのスタート地点となります。成約後に両社が相乗効果を発揮する“その先”を見据える取り組みといえます」(稲田)
多様なバックボーンをもつ「M&Aセレモニスト」
M&A成約式の運営は、顧客満足度向上に携わるCS推進部が担当する。所属する社員全員がM&Aセレモニストだ。
「ホテル、ブライダル、航空業界など、さまざまなサービス業で経験を積んだメンバーが在籍しています。共通しているのは、人を支え、サポートすることに喜びを感じる資質をもっている点です」と語るのはM&Aセレモニストの阿部礼奈(以下、阿部)だ。M&Aセレモニストは、担当コンサルタントとともに会場選定や式次第の打ち合わせを重ね、司会原稿の作成、当日の設営・運営、写真撮影に至るまでを一貫して担当する。
しかも、決して型通りの式典ではない。両社の関係性や温度感、好み、家族の参列予定などを事前にヒアリングし、サプライズの花束贈呈や手紙の朗読など、企業ごとに内容をカスタマイズする。
「普段は奥様とあまり深い話をされない譲渡オーナーが『この機会に想いを伝えたい』とお手紙を用意されたり、譲り受け企業が譲渡オーナーにサプライズの演出を希望されたりと、ご要望も多岐にわたります。どのタイミングでサプライズを組み込むかはM&Aセレモニストの腕の見せどころ。そのためにお客様のお人柄を熟知する担当コンサルタントと連携を取り、企業様の背景を深く理解するよう努めています」(阿部)
M&A成約式は、主役たち、特に譲渡オーナーからの反響が大きいという。
「最初は『M&A成約式なんて大げさなものは必要ない』とおっしゃるお客様もいらっしゃいます。しかし、いざ式が始まり、関係者皆さんの想いや担当コンサルタントの言葉を聞くと、『やはり開催して良かった』と、晴れやかな表情で言ってくださいます。
また、譲渡オーナーやそのご家族が感極まって涙される瞬間、そしてその想いが譲り受け企業の担当者や担当コンサルタントにも伝わり、会場全体が温かな感動に包まれる瞬間もあります。『想いのバトン』がつながる場をつくることができたと実感できることが、私たちM&Aセレモニストの最大の喜びです」(阿部)
人生をかけて育ててきた会社を託す瞬間に、ひとかたならぬ想いをもって臨むM&Aセレモニストたちには、もうひとつ重要な自覚がある。それはこのM&A成約式を結婚式のような“社会的スタンダード”にしたいということだ。
「残念ながら、地域によってはまだM&Aに対するポジティブなイメージが十分に浸透していません。地元企業が“買収”されることに対して複雑な感情を抱く方もいらっしゃるのが現実です。M&A成約式のようなエモーショナルなつながりをつくる取り組みによって、“M&Aは決してネガティブなものではない”という認識が広がれば、M&Aという選択肢自体もより身近なものになっていくはずです」(阿部)
成約式や成約後のサービスがM&Aの成否を分ける
日本M&AセンターのM&A成約式は、社員の発案以降、同社ホールディングスの代表自身が旗を振って浸透させてきた。
「当社は“成約で終わりではなく、その先の成功にコミットする”という責任感をもって取り組んできました。成約の日は『成功への始まりの日』。M&A成約式はこの始まりを演出する重要なセレモニーと位置付けています」と同社取締役 上席執行役員兼マーケティング本部長の仲川薫は語る。さらに契約後の事業の持続的な成功のための礎となると見ている。
「特に中小企業のM&Aにおいては、経済合理性だけでなく事業に対する共感が不可欠。譲渡企業の文化を尊重し、まるごと引き受ける覚悟があるかどうかが、M&Aの成否を分けると考えています。M&A成約式では契約と同時に譲渡オーナーのこれまでの想いを共有し、譲り受け企業にも受け継いでいく責任が生まれる場として大きな役割を担っています」
「成約は成功への始まり」を謳う姿勢は、成約後のフォローアップにも表れる。グループとして譲渡オーナーに財産承継に関するサポートサービスを提供し、譲り受け側にはPMIを支援する専門サービスを用意するなど、細やかなケアを充実させている。
同社のパーパスは、「最高のM&Aをより身近に」。日本では後継者不在の企業が約14万社といわれる一方、業界全体として支援が行き届くのは公表されているものに限ると年間5,000件程度に過ぎないという。昨今M&A業界のモラルが課題となるなか、日本M&Aセンターの透明性が高く高品質なM&Aを追求し続ける姿勢は、より多くの企業が安心してM&Aで事業承継できる社会を先導していくだろう。
日本M&Aセンター
https://www.nihon-ma.co.jp/
いなだ・あかね◎青山学院大学卒業後、ウェディングプランナーとして活躍。ANAの客室乗務員として勤務したのち、2021年に日本M&Aセンターに入社し、CS推進部にてM&Aセレモニストリーダーを担当。
あべ・れいな◎関西学院大学卒業後、ANAグランドスタッフとして国際線業務を担当。リクルート勤務を経て、2022年に日本M&Aセンターに入社し、M&Aセレモニスト業務を担当。



