サイエンス

2026.02.06 18:00

90万年前、「人類が絶滅寸前」の状態にあった可能性

Shutterstock.com

2023年の研究は、大きな波紋を呼んだ。なかでも、多くの人々が投げかけた重要な問いの一つが、本当に初期人類が絶滅寸前に陥ったとしたら、なぜこれほど長い間、そのことがずっと知られていなかったのか、というものだ。当然の疑問であり、その答えは、従来の個体群動態モデルの限界に関係している。

advertisement

従来の解析手法のほとんどは、数十万年前より昔の個体群サイズに関して、信頼できる数値を示すことができなかった。これは、個体群サイズと関連する遺伝的シグナルが、時代をさかのぼるほど、突然変異、組み換え、のちの時代の個体数増加によって薄れていくからだ。特にヒトの場合、過去5万年の間の爆発的な人口増加がノイズとなる。

FitCoalという手法は、系統学的プロセスを、従来よりもはるかに細かいタイムスケールでモデル化することで、こうした制約のいくつかを克服できるよう設計された。

簡単に言えばFitCoalは、個体群サイズの長期平均を取るのではなく、長い進化の歴史のなかに埋もれた短期的変動を捕捉する手法ということだ。2023年の研究では、こうした解析手法の進歩により、これまでの研究では見落とされていたシグナルが検出された。

advertisement

しかし、新たな解析ツールは、新たなリスクを伴うものでもあった。

初期人類は本当に絶滅寸前に陥ったのか

「90万年前のボトルネック」は実際の個体群崩壊を反映したものだと、すべての遺伝学者が納得しているわけではない。2024年に学術誌『Genetics』に掲載された論文では、別の研究チームが、2023年の論文で検出されたシグナルは統計的アーティファクト(実際のデータ自体からではなく、データの収集・分析、または解釈の方法から生じる現象)だった可能性があると主張している。すなわち、正真正銘の個体群崩壊ではなく、モデルの前提によってつくり出されたパターンである、という可能性だ。

この批判の根拠となった重要な問題の一つが、個体群構造だ。初期人類は、自由に交配する単一の個体群だったわけではなく、アフリカ大陸の各地に分断された集団として存在し、集団間の遺伝子流動は限られていた可能性が高い。FitCoalの分析においてこうした構造が無視されていた場合、誤って個体群サイズの急減を推定するおそれがある。

もう一つの問題は、遺伝子移入、すなわち同じヒト亜科の他集団との間の遺伝子流動である。2025年に学術誌『Molecular Biology and Evolution』に掲載された論文では、分岐しつつある個体群の間での異系交配(類縁関係の遠い系統間で行う交配)は、有効集団サイズの推定値を歪め、実際よりも小さく見せる可能性があると論じられている。

次ページ > 私たちの進化の道のりはおそらく、私たちが考えるような順風満帆な発展ではなかった

翻訳=的場知之/ガリレオ

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事