サイエンス

2026.02.06 18:00

90万年前、「人類が絶滅寸前」の状態にあった可能性

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遺伝子解析だけでは、このボトルネックがなぜ起こったのかは説明できない。しかし、推定されるボトルネックのタイミングが、前期─中期更新世気候変遷(Early–Middle Pleistocene Transition)と呼ばれる劇的な環境変化の時期と重なるのは、おそらく偶然ではないだろう。

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約100万年前のこの時代、地球の気候システムは劇的に変化した。とりわけ、氷期と間氷期のサイクルが大きく変化し、氷期はより長く、より寒冷に、より極端なものになった。氷床が拡大し、海面が低下したことで、アフリカとユーラシアの生態系は、繰り返し大きく撹乱された。

初期人類(おそらくホモ・ハイデルベルゲンシスよりも前に存在したホモ[ヒト]属の種)は、こうした変化によって大打撃を受けたのだろう。食料源は乏しくなり、生息環境は断片化され、生きていくには極めて過酷な条件に置かれたはずだ。

前述した論文の著者たちは、こうした長期的な環境ストレスのために、初期人類の個体数は非常に長期にわたって絶滅寸前レベルで抑えられた可能性があるとしている。彼らはまた、短期的な個体群崩壊の直後に多くの種が示すような急速な回復ができなかったのも、このような環境変化のためだろうと論じている。

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これらの知見が正しければ、このボトルネックは、ヒトの進化のそれまでの道筋を根本的に書き換えるものだった可能性がある。

人類は、遺伝的な「リセットボタン」を押したのか

同研究が提示するボトルネックの影響として、とりわけ興味深いものの一つが、ヒトの種分化に寄与したという可能性だ。具体的には、ボトルネックのタイミングと、「人類進化の化石証拠がひときわ乏しく曖昧な時期」が一致するようなのだ。明確にヒトらしい形態を備えた化石は、これよりあとの時代から出現する。

一部の研究者は、個体群崩壊が、遺伝的な「リセット」として作用し、多様性が減少したことで、のちの進化的イノベーションの基礎が築かれたのではないかと憶測をめぐらせている。

特に興味深いのは、このボトルネックの時期に、ヒトの系統は、祖先が備えていた染色体のうち1対を失った可能性があることだ。ヒト以外の大型類人猿は24対(48本)の染色体をもつのに対し、ヒトは23対(46本)だ。この変化(染色体融合による染色体数の減少)が、ボトルネックの時期に起こったのかもしれない。

こうした染色体数の減少だけが、ヒト属の誕生につながったわけではない。それでも、個体群が小さく孤立している場合、そのなかで生じた遺伝的変異が、個体群に浸透し定着しやすいことは確かだ。

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翻訳=的場知之/ガリレオ

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