こうして考えてみると、唯一の戦争被爆国として世界の核軍縮・廃絶運動の先頭に立ってきた日本は複雑な立場に置かれることがわかる。唯一の核軍縮の取り決めがなくなったことは、核軍縮・廃絶への大きな痛手であることは間違いない。ただ、新STARTの延長は、米国が中国を十分に核抑止する手段を得られないと認識する状態が続くことを意味する。中国の脅威を間近に感じている日本として、米国による核抑止力が生まれるのは一つの安心材料だとも言える。
ただ、問題は、トランプ米政権が果たして日本を守るための「核の傘」を本気で提供してくれるのかという問題がある。米国防総省が1月に発表した「国家防衛戦略(NDS)」は、日本や韓国に対する「核の傘」を含む拡大抑止力の提供について明記していない。トランプ政権内には、米国の都市を危険にさらしてまで、日本や韓国が核攻撃された場合に米国が報復核攻撃を行うべきではないと唱える関係者も少なくない。新START失効は、米国の中国に対する核抑止能力構築の意思を示すものだが、その能力を日本のために使うとは即断できない。
日本では最近、中国やロシア、北朝鮮の核に対抗するため、米国との「核の共有」や「非核三原則」のうち、「持ち込ませず」を除いた「非核二原則」への改定を求める声が出ている。しかし、いずれの主張も、米国による拡大抑止力の提供が前提になっている。米国の意思を確認せずに、日本だけが騒いでも、逆に中国やロシアに「日本が軍国主義化している」という「大義名分」を与えるだけに終わってしまいかねない。
中国は従来、米国の核軍縮交渉に応じない理由として「自分たちの核戦力は米ロ両国に大きく劣っている。核軍縮の主な責任は米ロにある」としていた。西田氏は「論理的に考えれば、中国が米ロと同じ水準の核戦力を保有するに至れば、そこから核軍縮に向けた対話が始まるかもしれない」と語る。ただ、そのためには、かつての米国とソ連が核の相互現地査察を実現させた程度の信頼関係を築く必要がある。トランプ政権が「力による中国の抑止」を唱える一方で、対決を避けて対話を求めている姿勢自体は評価できる。
同時に、NDSを読めば、トランプ政権が対話を求めているからといって、それは東アジアを含む世界平和のためではなく、米国の経済的な利益のためであることもわかる。米中対話はあくまでも米国の利益のために行われるわけで、そこで日本の利益を優先してくれる可能性はない。その意味でも、日本は日米同盟を堅持し、米国に拡大抑止力を約束させると同時に、中国と独自の対話を重ねる必要がある。
高市早苗首相(自民党総裁)は1月26日、テレビ番組で、日米が台湾にいる邦人らの退避作戦を行うケースに触れて「米軍が攻撃を受けたときに日本が何もせずに逃げ帰るところで日米同盟がつぶれる」と語った。高市氏の頭の中には「米国が何もせずに逃げ帰る」という発想はないのかもしれない。


