根を進化させないのはなぜ?
根にはコストがかかる。根には、炭素、エネルギー、空間が必要だ。水浸しの土壌や酸性の土壌では、根が酸素不足と化学的ストレスに苦しむことも多い。進化というプロセスは、常にこうした制約条件下で行われる。
『Annals of Botany』に掲載された2015年の研究で説明されているように、そうした生育環境では、根に多くを投資しても、それに見合った利益は得られない。それに対して、昆虫を捕まえれば、(捕虫器官としての役割も兼ねる)葉の構造にリソースを振り向けられるようになる。
したがって進化の観点からすると、食虫性はトレードオフということになる。根への投資を少なくし、そのかわりに、捕虫器官や消化酵素、シグナル伝達メカニズムに多くを投資しているわけだ。ただし、注意すべき重要な点がある。このトレードオフに価値が生まれるのは、土壌の栄養が乏しい一方で、獲物が豊富にいる場合に限られる。世界全体で見ると、食虫植物が比較的珍しい理由はそこにある。たいていは、この戦略に味方し、そこから利益を得られるような条件の場所に限定されている。
ただし、ほとんどの人は認識していないが、食虫植物は、1つの系統から生まれたわけではない。実を言うと食虫植物は、植物界に数多く見られる収斂進化の一例だ。『Journal of Experimental Botany』に掲載された2009年の研究で説明されているように、食虫植物には、少なくとも6つに上る個別の進化的起源が確認されている。
つまり、複数の植物がそれぞれ、高度に洗練された捕虫メカニズムを進化させたというわけだ。近接地でもない、世界のまったく異なる場所で、そうなったのだ。これには以下の植物が含まれる。
・ハエトリグサ(Dionaea muscipula)
・モウセンゴケ(Drosera)属
・嚢状葉植物(ウツボカズラ[Nepenthaceae]科とサラセニア[Sarraceniaceae]科の植物)
・タヌキモ(Utricularia)属
・ムシトリスミレ(Pinguicula)属
見た目と戦略という点ではそれぞれ異なっているにもかかわらず、これらの植物には、いくつかの驚くべき共通点がある。具体的に言えば、いずれも消化酵素をつくったり微生物を宿したりして獲物を分解する。また、特殊化した葉の組織から栄養を吸収する。さらに、いずれも栄養の乏しい環境に生育する。


