万博最大のレガシー「こみゃく」から考える未来のデザイン 

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大阪・関西万博の“こみゃく”でデザインの可能性を広げた引地耕太。万博の最大のレガシーをインストールした社会の未来とは?


2025年10月に閉幕した大阪・関西万博の最大のレガシーは、「開かれたデザイン」ではないでしょうか。開幕前にはネガティブな意見も多かった万博ですが、結果的には来場者数が目標の2200万人を上回り、運営費の黒字化も達成と大成功を収めました。この成功の裏には、自由に使えて自在にかたちを変えられるIP“こみゃく”の活躍がありました。

こみゃくは、公式キャラクター“ミャクミャク”が分裂したようなデザインで、正式名称は「ID」。万博のデザインシステム「EXPO2025 Design System」の制作を担っていた私は、シマダタモツさんがデザインされた細胞をモチーフにした公式ロゴマークから着想し、デザインエレメントの最小単位であるID、つまりひとつの細胞としてこみゃくをつくりました。ポイントは、市民の参加と共創をうながすようなデザイン。先の東京五輪では、私は一時期組織委員会に携わっていたのですが、キャンセルカルチャーのなかでクリエイターたちが冷たい目を向けられることもありました。そこで万博では、市民みんなが参加し共創できるような開かれたデザインをつくりたいと考えたのです。

デザインは通常、統一性をもたせるためにガイドラインをつくりますが、こみゃくは「目玉(セル)さえあえば、色、形、柄などすべて自由変化し成長してもよい」というプロトコルを内包したシステムを設計。その結果、SNSを中心に二次創作作品が広がり、大きなムーブメントが起こったのです。万博開幕前からすでにネット上で“こみゃく”という愛称で呼ばれ始め、25年2月ごろからこみゃくの擬人化イラストや3D化、グッズや料理など多様な作品が自然発生的に増えていきました。

そうしてボトムアップ的にこみゃく愛が広がり、今では私も“こみゃくパパ”として親しまれるようになりました。

近年Googleロゴなど「ダイナミックアイデンティティ」と呼ばれる可変的なデザインの事例は出てきていましたが、そのなかでも“目玉だけあればいい ”というキャラクター的なものは稀有な事例ではないでしょうか。こみゃくのシンプルなデザインが、日本に元々あったアニメ・ネット界隈の二次創作カルチャーとうまくミックスされたことで、自然と社会に広がる結果になったのだと思います。ほかにも、今回の万博では個人制作の地図「つじさんのマップ」がバズって多くの人が利用するなど、市民が公式に足りないものを補完する動きが目立ちました。こうした「市民と国家」実際の社会や文化、ビジネスへとつなげてい「制度と自由」「公式と非公式」のあわいのような部分でクリエイティブが生まれたことが、今回の万博の象徴的な出来事だったと思います。

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文=田中友梨

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