「TOKYO SUTEAM」採択プロジェクトが生み出す、大学×スタートアップの新たな価値

/ ビジネス 2026年2月27日

Facebook
X
LINE

「TOKYO SUTEAM」採択プロジェクトが生み出す、
大学×スタートアップの新たな価値

Forbes JAPAN BrandVoice Studio世界38カ国、800万人が愛読する経済誌の日本版

スタートアップが大学と連携することで、研究開発から社会実装までを一気通貫で進める新しいオープンイノベーションのモデルが生まれている。その中心的役割を担うのが、電気通信大学関係者が創設したキャンパスクリエイトだ。東京都の「多様な主体によるスタートアップ支援展開事業(TOKYO SUTEAM)」の協定事業者でもある同社が推進する「Univ×SU Innovation Boost」プロジェクトにおいて、大学とスタートアップの協働がどのように社会を変えようとしているのかを探る。

大学の多様な資源でスタートアップの成長をブースト

須藤 慎 キャンパスクリエイト 専務取締役

須藤 慎 
キャンパスクリエイト 専務取締役

キャンパスクリエイトは1999年9月、電気通信大学の教官と同窓生の出資によって設立された。創業以来、スタートアップと大学、国・自治体、大手企業をつなぐコーディネートや、共同研究のマネジメントなど、産学官連携を軸に支援事業を展開してきた。
同社の創設経緯と理念について、専務取締役の須藤慎はこう語る。

「スタートアップには不足している経営資源がいくつもあります。一方、大学には研究だけでなく、ネットワークを生み出すハブ機能や、優秀な人材など多様なリソースがある。私たちは大学の技術力に限らず、そうした多面的な資源を仲介することで、スタートアップの成長を後押ししたいと考えています」

キャンパスクリエイトは2003年2月に、経済産業省・文部科学省の認定TLO・承認TLOとして認証を受けた。TLO(Technology Licensing Organization=技術移転機関)は、大学の研究成果を知的財産化し、産業界へライセンスする役割を担う組織である。

ただし同社は、創設当初から企業ニーズを丁寧にヒアリングし、大学側の研究者とマッチングするスタイルで事業を進めてきた。こうした経緯もあり、TLOとなった後も特定大学からの出資は受けていない。電気通信大学の教職員およびOBを中心とする個人出資による独立経営を貫いており、そのぶん特定大学にとらわれない広い産学官連携が可能になっている。

これまで同社が実施してきた産学官連携支援のコーディネイト数は累計で4,000件を越え、連携先大学は全国で86校に達する。さらに広域TLOとして日本国内だけの活動に留まらず、日本の大学や大学発ベンチャーの研究シーズ、新技術や製品等の成果を世界に向けて発信し、スタートアップの海外進出や、ベンチャーキャピタルをはじめとする海外の投資機関と日本のスタートアップの連携を支援するほか、新センや上海に拠点を設け、日本の大学との連携など、海外スタートアップの日本進出支援の取り組みも行っている。国際協力の一方では政府各官庁や東京都、川崎市など自治体からの産業振興業務も受託し、地域産業の成長にも尽力するなど、幅広い活動が特色だ。

スタートアップと大学の産学連携を当たり前にするために

東京都では2022年11月に「Global Innovation with STARTUPS」を策定し、挑戦者が希望をもって活躍できる社会の実現に向け、「多様な主体によるスタートアップ支援展開事業(TOKYO SUTEAM)」を展開中だ。これは、VC、アクセラレータ、事業会社、大学等の多様な主体と東京都が、スタートアップ支援に関する協定を締結し、民間のアイデア、ネットワーク、フィールドなどを最大限に生かした多彩なSU支援を展開するもので、キャンパスクリエイトは24年にSUTEAMの協定事業者に認定された。「スタートアップと大学の産学連携を当たり前にするためのモデルケース構築と普及啓発」をテーマに、「Univ(ユニバーシティ)×SU(スタートアップ) Innovation Boost」の名のもと、スタートアップと大学の産学連携促進プログラムを実施してきた。

25年5月には、このプログラムの参加企業としてニヒンメディア、DELISPECT、Visbanの3社を採択、支援を開始。それにより低遅延・超高速のミリ波通信用の小型基地、医療用途に特化したアシスタントAIなど、スタートアップと大学の連携による革新的な技術の社会実装が進みつつある。

同じ5月には、東京ビックサイトで開催された日本最大規模のスタートアップ向けイベント「Startup JAPAN 2025」にスポンサー企業として出展し、会場内に「産学連携相談窓口」を設け、カンファレンスや産学連携交流会を実施した。やはり5月に東京ビッグサイトで開催されたアジア最大級のグローバル・スタートアップ・カンファレンス「SusHi Tech Tokyo 2025」においても、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部主催による「University Internship Program at SusHi Tech Tokyo 2025」と連携し、グローバルな視点を有する海外スタートアップの日本進出を後押ししている。

スタートアップにおける大学・大企業・自治体との連携を通じたスケール戦略
イベントレポート(Startup JAPANカンファレンス)

「これまで日本の大学界隈とスタートアップ界隈の業界は文化が大きく違い、スタートアップが大学と連携しようという動きはつい2、3年前まではほとんどありませんでした。ドイツなどでは逆にスタートアップの半数が大学や研究機関と連携していて、私たちは日本でもそれが常識となるようにしていきたいと考えています」と同社専務取締役の須藤は語る。

桒田良輔

Visban

case01

東京都立大学の支援によりミリ波リピータを用いた高速通信を実現

Visban 取締役・共同創業者

桒田良輔

世界のトップ人材を集めるディープテック

Visbanは次世代の無線通信とされるミリ波の通信インフラを開発する技術系スタートアップである。ミリ波とは波長が1~10mm、周波数が30~300GHzの電磁波を指す。Visbanでは基地局とモバイル端末の間にAI駆動のメッシュネットワーク「V-Mesh」を構築し、ミリ波の課題であるカバレッジ拡大と通信死角の解消を実現しようとしている。

同社CEOのエスビー・チャー博士はアメリカ人で、いくつものメーカーやクリーンエネルギー企業を創設した連続起業家にして、多くの特許を保有する科学者でもある。そのチャーがイギリス・ケンブリッジ大学の教授 アロキア・ネイサンとイギリスで設立したのがVisban社だ。この会社が現在、日本に本社を置いているのは、共同創業者に名を連ねる日本人企業家、桒田良輔の協力を得るためだった。

桒田は世界的化学メーカー・米国デュポン社で初のアメリカ人以外のProfit&Lossの責任を担うGMとなった後、MITのスタートアップだったE Inkにセールス・マーケティングのトップとして移籍。E Inkの電子ペーパーはAmazonのKindleに採用されたことで脚光を浴び、イグジットを果たした。桒田はその後、日本の凸版印刷で経営企画部門のヘッドを務めたり、コンサルタントとしてスタートアップ企業を指導したりといった多彩な事業活動をしていた。

そんななかで友人であったチャーから「新しい会社をつくるので相談したい」と声をかけられる。ケンブリッジ大学のネイサンとともに、ミリ波を使った通信技術の開発を行う会社を立ち上げるという話だった。桒田は当初「自分はケミカル系の人間なので」と入社を断り、チャー博士とネイサン教授はイギリスで会社を立ち上げた。しかしミリ波関連の部材の多くは日本やアジアの企業から調達しなければならない。桒田は新会社から調達の相談を受け、さらには資金調達も頼まれるようになる。結局3人で共同経営することになって、日本に本社を移したのだ。

「Visbanの技術力は間違いなく世界トップクラスですが、ミリ波の実用化は世界の通信キャリア次第、それぞれの国の電波政策や世界標準化委員会といった問題もあって、いつマーケットが立ち上がるのかわからない。資金を集めるのが難しい会社だったんです」と桒田は言う。現在、20人ほどの社員の出身はフランス、イタリア、アメリカ、台湾、日本など7カ国。みなその分野のプロフェッショナルである。

「CEOとCTOが外国人ということもあって、世界中から人が集まっています」

東京大学の投資会社(IPC)で企業コンペのピッチをおこなった桒田は、“Global talent to Japan, Japanese startup to the world.(世界の人材を日本に、日本のスタートアップを世界へ)”と謳い、150社を超える応募企業の中の8社に選ばれ、投資を勝ち取った。

AI駆動のメッシュネットワーク「V-Mesh」

回線容量が大きい反面、通信可能範囲が狭いミリ波通信

ミリ波は高い周波数帯で「2秒で2時間の映画をダウンロードできる」というほど情報容量が大きい。問題は「届きにくい」こと。現在の5Gの周波数帯なら基地局から4~5キロ先まで届くが、ミリ波の場合は3、400mしか届かない。しかも直進性が高く、ビルの陰になると届かないといった問題がある。

「最初は5Gでも『ミリ波を使おう』という話があったんですが、実際には7~15GHz程度の、少し低い周波数の利用にとどまっています」

電波の到達性の問題から経済性が見込めないと考えられ、普及が遅れているのだ。しかし、工場など一定の敷地内で使うローカル5Gとしての可能性は十分にある。既存の基地局が保守費用も含めると1基1,000万円以上もするのに比べ、VisbanのV-Meshデバイスははるかに小型・軽量で、1台あたりの価格は数十万円以下。それで半径30mほど電波を飛ばすことができる。限られた面積内であれば、この小型デバイスを多く置くことで全体をカバーすることが可能だ。

またアメリカやインドのような巨大な国では、日本と異なり国中隅々まで光ファイバーを張り巡らすことは現実的でないと考えられている。都市以外の地域については電波でカバーするしかなく、このためアメリカの通信会社のベライゾンなどがミリ波採用に積極的といわれている。

「アメリカの場合、スポーツ市場が大きく(約150兆円)、例えば巨大なスタジアムの中にさまざまなカメラを置いて多彩なコンテンツをサービスしようという動きが多々出てきています。それには大きな回線容量が必要になるため、ミリ波の採用が有望視されています」

Visbanは25年5月、キャンパスクリエイトの「Univ×SU Innovation Boost」プロジェクトに応募し、採択された。そしてキャンパスクリエイトと東京都立大学との連携による支援を受け、都立大学・日野キャンパスの敷地内にV-Meshデバイスを置いてミリ波通信の実証実験を始めることになった。この実証実験により、V-Meshがインドアおよびアウトドアで技術的・コスト的に利用可能であることが明らかになれば、実用化が一気に近づく。「成功すれば企業価値は一気に5倍、10倍になるでしょう。まさにVisbanの死命を決する実証実験です」と桒田は意気込む。

金田 賢

DELISPECT

case02

AIを活用したせん妄予測技術と、看護領域における業務負荷低減

DELISPECT 創業者・代表取締役

金田 賢

入院病棟の大きな課題「せん妄」

DELISPECTは代表取締役でIT企業出身の金田賢と、精神科医の小川朝生が共同創業したスタートアップだ。患者の医療データから「せん妄」の発症を予測する独自の機械学習モデルを開発し、アプリケーションの製品化を進めている。

金田は大学院修了後、ライフサイエンス企業向けITシステムの開発に携わるエンジニアとしてキャリアをスタートさせた。のちにシンクタンクへ転じ、医療・ヘルスケア分野のアカデミアの技術動向を調査するなど、政策提言の業務を担当することになる。

転機は、国立がん研究センター東病院の精神腫瘍科長としてがん患者の心のケアを担う、小川朝生の講演を聞いたことだった。「オンラインで開催されていた研究シーズ発表のイベントを視聴した際、小川先生が“せん妄をAIで予測できる可能性がある”と話されており、強く興味を惹かれました」と金田は振り返る。

せん妄は意識障害の一種で、暴れる、点滴の管を抜く、家族の顔が分からなくなるなど、症状は認知症に近い。従来は一過性と捉えられ、十分な対応が行われてこなかったが、夜間に発症しやすく、大声や徘徊によって看護師の負担を急激に高める。ひとりの患者がせん妄を起こすだけで、病棟全体の業務が回らなくなることもある。

その経済的損失は日本全体で年間2兆円規模に上ると試算されている。また発症後には認知機能を含む身体機能の低下が起こりやすく、入院期間が延びる傾向も指摘されている。いまやせん妄予防は、大学病院の本来機能の回復や経営改善にも直結する重要テーマとなっているのだ。

「これは事業化できるかもしれない」。そう考えた金田は、国立がん研究センターの非常勤研究員となり、小川のもとでせん妄予測の研究に本格的に参画。AIによる予測を実装するアプリケーションの開発を進め、製品化へと歩みを進めていった。

せん妄予防の問題は、どの患者がせん妄を発症するのかわからないことだった。せん妄発症のメカニズムは3段階に分かれる。第1段階は高齢、認知症、脳の障害などの基礎要件。第2段階はがんや肺炎などの疾患の存在。そして第3段階として脱水症状、院内感染、あるいは睡眠薬などせん妄の発症を引き起こしやすい薬剤の投与がある。

これらの個別要因がせん妄発症にどのように関わっているのかについて、病院内に保管されている多くのデータとせん妄発症を突き合わせていくと、せん妄の予防には看護師のケアが重要であることがわかってきた。ポイントとして挙げられたのは、脱水を予防する、院内感染を予防する、さらに患者の痛みを緩和することなどだった。ただすべての患者に同レベルの対応をするだけのリソースはないため、せん妄を発症しそうな患者にケアを集中する必要がある。

金田は小川とともにせん妄予測AIのプロトタイプをつくって他の病院で試用してもらい、「製品化すれば使ってもらえそうだ」という感触を得た。プロトタイプをもとに医療機器メーカーに製品化を依頼することも検討したが、最終的に「自分たちでやろう」と決意。24年9月、2人でDELISPECTを共同創業したのだ。

せん妄予測AI

医療系スタートアップには産学官連携が不可欠

DELISPECTは医療系のスタートアップであり、大学病院や医学部との連携が重要になる。AI開発には大量の学習用データが必要だが、医療関係の患者データはすべて個人情報であり、勝手に取ってくることはできない。このため症例数の多い病院と契約を結び、共同研究の成果を病院にも還元する形で情報を取得する必要があるのだ。DELISPECTではまず順天堂大学でスタートアップ支援として行っているAIインキュベーションプログラムJASTARに応募し、第2期支援企業に採択された。さらにキャンパスクリエイトの「Univ×SU Innovation Boost」にも応募した。

「キャンパスクリエイトさんは産学連携を軸とするスタートアップ支援企業であり、ぜひ協力を得たいと考えました」

25年5月、こちらも採択が決まり、DELISPECTはキャンパスクリエイトの支援により、新たに筑波大学附属病院との連携を実現することができた。

キャンパスクリエイト側から見ると、DELISPECTは病院の現場の課題を解決するという社会性の高い事業を志しており、またニッチ分野で競合する企業がほとんどないため、優位性が高い。「スタートアップが大学病院と協働することで、大学病院がもつ課題を解決する」というモデルケースになり得る存在と考えられたのだ。

DELISPECTの製品はソフトウェアではあるが、病院で利用してもらうためには医療機器として厚生労働省の認可を得なければならない。現在は認可に向けてデータを収集し、製品の有効性を検証中という。提携する大学病院で実証実験を行い、アプリの利用により明確にせん妄発症が減ることが実証できれば、製品化に近づくことになる。「現在は2028年の製品発売を予定しています」と金田は目標を語った。

安藤 孝太

ニヒンメディア

case03

医療従事者における業務負荷低減を目指すAIスタートアップ

ニヒンメディア 共同創業者・代表取締役

安藤 孝太

創業2年で多くの医師の支持を獲得

ニヒンメディアは23年創業のデジタルヘルスケアのスタートアップだ。在日インド人データサイエンティストのマンジュナタ・チャンドラッパと同じ企業でコンサルタントとして活躍していた安藤孝太が共同創業し、わずか1年ほどで日本の医師のためのAIアシスタント「MedGen Japan」を開発。26年1月時点で医師による累計利用数が20万回を超えるサービスになった。

「私は新卒でヘルスケア業界に特化した外資系コンサルティングファームに入社し、データ分析を行って経営をサポートする仕事を行っていました」と共同創業者で代表取締役の安藤は振り返る。

「そのころ、医師の情報入手ルートが大きく変化していました。製薬会社のMRから情報を得たり、自ら英語の論文を調べるという形で勉強していたものが、デジタルセミナーや論文サイトへのアクセスなど、インターネットを経由した形に変わってきていたのです」

情報がオンライン化していくと、ネット上の情報量があまりにも膨大すぎるという問題が出てきた。PubMedなどの代表的な医学情報検索サイトには4,000万件以上の論文が掲載されている。そこからどうやって目の前の事例に合った適切な情報を迅速に選ぶのか。現場の医師は忙しく、治療は時間との戦いである。マンジュナタと安藤の2人はともに「どうやって適切な情報をタイムリーに、正しい医師に届けるか」という問題意識をもっていた。そうこうするうち、生成AIが実用化され始める。

生成AIは大量の文章を人間の何万倍ものスピードで読んでいく。そうであれば医学論文を読み込み、選別することもできるのではないか。マンジュナタはいち早くその可能性に着目し、退職して新たなプロダクトの開発に着手した。同僚であった安藤も合流する。2人の起業の目的は日本の医師にスピーディーに最新の医学情報を届けるためのプラットフォームを創ること。課題ドリブンで、何もないところから手探りで始めた事業だった。最初のプロダクトは製品化に至らずシャットダウン。新たなプロダクトの開発を進め、24年春に「MedGen Japan」のプロトタイプをつくり上げた。

「それをもって大学病院に伺い、医師のみなさんに使っていただけませんかとお願いして回りました」

医師からのフィードバックをもらいながら製品の改良を続け、同年10月にアルファ版を出すことができた。25年春、SNSで発信している医師たちに紹介されたことで利用者が増え始め、正式リリースに踏み切る。月に1,000人以上が新たに登録しており、2026年末までに数万人の医師の利用を目指している。

「医学論文の99%は英語で書かれていますが、MedGen Japanは日本の医師のためにカスタマイズされたAIで、英語の論文を日本語で検索でき、日本語で回答をもらえるので、日本人医師が医学情報を探す時間を大きく短縮することができます。文献の出典も確認でき、必要があれば原文を読むこともできる。そうした利便性が評価されています」

MedGen Japan

効果的だったキャンパスクリエイトのコーディネート

ニヒンメディアのようなヘルスケア系スタートアップ企業にとって、非常に必要性が高いのが産学連携である。

「医学界はとにかく信用が重要で、無名のIT企業が病院に行っても相手にしてもらえません。しかし『〇〇大学の〇〇先生と共同研究しています』というだけで、まったく扱いが変わるんです」

ニヒンメディアはまず順天堂大学のAIインキュベーションプログラムに採択され、続いてキャンパスクリエイトが展開する「Univ×SU Innovation Boost」プロジェクトにも採択された。キャンパスクリエイトのコーディネートで、東京科学大学で開催された日本病院管理学会で登壇の機会を得て、MedGen Japanを広く発信することもできた。

「発表を聞いていただいた先生のなかで“使ってみたい”と言ってくださる方がいて、その後“かなり使っている。もっと良くしていきたいね”という話まで発展し、現在は共同研究に向けて動き始めています」

MedGen Japanは、7~8割の医師が外来の合間に使っているという。これまでは自分の部屋に戻ってからPCや本で調べていたものが、患者から話を聞いてその場で調べられるメリットは大きい。医療の質の向上に加え、医師の残業時間を減らせる効果も期待されている。

また、ビジネスモデルに関して安藤はこう語る。

「日本では病院や医師からお金を頂いてスケールするのが難しいです。現在は製薬会社と協業して、医療現場に適切な情報を届けられるようにしてマネタイズを行っており、今後もそのような協業を拡大していく予定です。」

医師と患者の双方に貢献しうるプラットフォームであり、今後医療全体に与える変革に期待したい。

ニヒンメディア企業ホームページ
https://nihinmedia.jp/

MedGen Japan製品ページ
https://medgen.nihinmedia.jp/

伊藤 羊一

武蔵野大学

case04

海外スタートアップが日本の大学と連携して日本への事業展開を目指す

武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 アントレプレナーシップ学科 学部長 教授、Musashino Valley 代表

伊藤 羊一

「大学発スタートアップ創出支援事業」でグローバル展開

1924年創設の武蔵野女子学院を前身とする武蔵野大学は、女子大を経て2004年に共学となった。近年は19年には国内私立大学初のデータサイエンス学部を開設。21年には国内初のアントレプレナーシップ学部を創設し、「AI活用」「SDGs」を必修科目とした全学共通基礎課程「武蔵野INITIAL」をスタートするなど、革新的な教育方針で注目を浴びている。同大学でアントレプレナーシップ学部(武蔵野EMC)の学部長を務める伊藤羊一は、Yahoo!アカデミアで学長を務めたほか、年間300件にものぼる講演やワークショップを実施し、次世代リーダーの育成に努めている。

「LINEヤフーとなる前のYahoo!アカデミア当時から、『次世代リーダーの育成はもっと若い人に向けてもやっていかないといけないね』と話していて、そのとき武蔵野大学の学長と出会い、意気投合したんです。学長から『新しい学部を作ってはどうか』と勧められ、プランを出したんですよ。19年のことでした」

伊藤は武蔵野EMC誕生の経緯をそう振り返る。

「そのとき出したプランには、事業のなかでプロジェクトを実施すること、教員は実務家とすること、1年生の間は全寮制とし寝食を共にすること、といった希望を書きました。どうせダメだろうと思っていたら、そのまま実現できることになり、国内初のアントレプレナーシップ学部が誕生することになったんです」

プラン提出後すぐに設立を申請。翌年には認可が下り、21年4月に1期生が入学。武蔵野EMCの活動が始まった。

「2年目の夏に2年生をシリコンバレーに連れて行ったんです。そのときスタッフと『なぜ日本は元気がないんだろう』『やっぱり世界に羽ばたく人が少ないからじゃないか』と話し合い、その後グローバル展開に目が向くようになりました」

武蔵野EMCがグローバル展開を模索するなか、23年に東京都の「大学発スタートアップ創出支援事業」の募集が始まった。武蔵野EMCはこれに応募、採択された。そこからこの支援事業のコーディネーターを務めていたキャンパスクリエイトのサポートを受け、新たにグローバル展開のチャレンジに取り組むことになる。

9大学が挑む大学発スタートアップ創出支援事業

「まずはアジア各国の大学の人たちと交流しようと考え、飛び込みでシンガポール、インド、インドネシア、フィリピンの大学を訪れたんです」

訪れた先はシンガポール国立大学(NUS)、インド工科大学(IIT)、インドネシアのマルチメディアヌサンタラ大学(UMN)、フィリピン大学(UP)、カンボジアの王立プノンペン大学(RUPP)と、各国を代表するトップ校が多かったが、武蔵野EMCのアントレプレナーシップ教育には思いのほか反応がよく、その国際展開に協力してくれることになった。

「日本もそうなんですが、アジアの国では優秀な学生が財閥系に行ってしまうことが多く、起業しようとする人が少ないのが悩みだったんですね」

そこで武蔵野EMCでは各国でピッチコンテストを行い、そこに武蔵野EMCの日本人学生を参加させるとともに、コンテストで優秀な成績を上げた各国の学生8名を日本に招待。日本のスタートアップイベントに参加させたり、日本人学生やアントレプレナーを集めて交流会を開催したりして、アジア各国との交流企画は大成功に終わった。

「SusHi Tech Tokyo」への参加が革新へのトリガーに

東京都とつながりができたことで、武蔵野EMCは東京都主催のグローバルイノベーションカンファレンス「University Internship Program at SusHi Tech Tokyo 2024」に学生を動員することになった。

「もともと各国の学生と交流するだけでなく、それぞれの国のスタートアップとも接点をもちたいという考えがあったんです」

この発想の背景には、シンガポールにあるJR東日本運営のコワーキングスペース「One&Co」の存在がある。立ち上げたのはN9 PTE LTDのCEO・伊藤隆彦。One&Coには現地スタートアップが多く出入りしており、彼らはしばしば日本のイベントに参加している。しかし帰国後に話を聞くと、「まあ、それなり」という感想が多いという。日本人参加者の多くが英語で十分にコミュニケーションできず、結果的に深い関係構築につながらないためだ。

「それをどうにかできないか」と伊藤隆彦から相談を受け、One&CoがシンガポールのスタートアップをSusHi Tech Tokyoへ連れていき、武蔵野EMCが日本人学生を集めて会場でサポートする、という企画が立ち上がった。東京都に相談すると「予算は出せないが、ぜひやってほしい」と賛同が得られ、One&Co、武蔵野EMC、東京都、そしてJETROが協力する形で、学生インターンを募集することになった。

シンガポールからはフードテックと金融のスタートアップ2社が参加。さらに、伊藤が話を聞いたインドのミュージックテック系スタートアップも出展を決め、日本側は計3社を学生インターンがサポートすることになった。

「その場に行くだけでは、スタートアップの事業内容が分からず戦力になりません。そこでイベントの2~3週間前からオンラインで学生教育を行い、武蔵野大学以外の大学からも学生を募って派遣しました。学生だけでは不安ということで、私の友人の社会人もボランティアで参加してくれました。おもに英語のサポート役でしたが」

来日前から、学生たちはスタートアップの“伴走者”として活躍した。初来日で勝手がわからないインドのスタートアップが、「ガムテープを忘れた、どこで買える?」と聞けば学生が「セブンイレブンにあります」と買ってきたり、「モニターを忘れた」と言えば「大学から借りてきます」と走ったりと、準備段階から丁寧に支援した。

カンファレンス期間中も、スタートアップ側は商談に出てしまいブースが無人になることが多い。しかしブースに誰もいないと来場者は訪れない。また、担当者が日本語に不慣れのように見える場合、日本人来場者は話しかけにくい。一方で日本人学生がユニフォームを着て立っていると、それだけで安心感が生まれ、人が集まる。結果として、学生インターンがサポートしたブースはどこも盛況となった。

最終的には、来場者による投票で選ばれる「SusHi Tech Award」15社のなかに、武蔵野EMCが支援した3社すべてが選出される成功を収めることができたという。

「学生たちが未熟ながらも、一生懸命サポートした成果だと思っています」

キャンパスクリエイトの支援でプログラムを継続

学生インターンの取り組みは、スタートアップ側からも主催の東京都からも大いに評価された。武蔵野EMCにとっても、学生たちがグローバルな現場で成長する貴重な機会となり、大きな手応えを得られたという。

この企画につながった「大学発スタートアップ創出支援事業」の支援を受けて実施したプログラムは、もともと1年間限定だった。しかしその1年のあいだに、武蔵野EMCはアジア各国の大学関係者だけでなく、多様なスタートアップとも新たな関係を築くことができた。

「正直、このプログラムが1年で終わってしまうのは本当に残念でした。アントレプレナーシップは1年で育めるものではありません。もっと継続的にグローバルな活動を通じて学生を育てたかったし、せっかくつながった海外のメンバーとも交流を続けたかったんです」

伊藤には、短期間の成果と同時に、継続すればさらに大きな成長が得られたはずだという手応えがあった。

そこに救いの手が現れた。キャンパスクリエイトが東京都の「多様な主体によるスタートアップ支援展開事業(TOKYO SUTEAM)」の協定事業者に選定され、「Univ×SU Innovation Boost」の活動の一環として、武蔵野EMCの「University Internship Program at SusHi Tech Tokyo」の企画を実現することになったのだ。それにより武蔵野EMCでは、前年と同じように25年のSusHi Techにも学生インターンを派遣することが可能になった。

今回はサポート対象のスタートアップが6社となり、インドからは2年連続でミュージックテックのChoira(コイラ)が、シンガポールからも2社、イスラエル、フランスからもスタートアップが参加し、さらに韓国のインキュベーターで起業教育企業のunderdogsも加わった。サポート役の学生インターンも29名に増え、社会人サポーターも前回同様ボランティアで参加してくれた。

「学生たちは、例えばフードテックの会社に入ったインターンが来場者へのアンケートを実施するなど、スタートアップのメンバーだけでは手が回らないサポートを行い、戦力となってくれました」

25年のSusHi Techでも、2年連続で参加したインドのChoiraが表彰を受けた。同社はAIで音楽をつくるスタートアップで、今後、日本に進出したいという希望を持っているという。

25年のインターンプログラムに参加した学生にアンケートを取ったところ、満足度は最高評価の「10」が60%、「同じ経験を友人に勧めるか」というアンケートでも、やはり60%以上が最高評価の「10(勧める)」と回答している。国内にいながら海外スタートアップに関わる経験ができたこと、イベントの刺激が大きかったこと、学生ながら本番の商談を手伝う経験ができたこと、などが大きかったようだ。

スタートアップ側としても、CEOが商談でブースを外しているときでも学生インターンが対応してくれたことで機会損失を防ぐことができた。「1日に2、3時間しかブースにいられなかったにもかかわらず、360枚の名刺を集めることができた」というスタートアップもあった。来場者からも「海外の情報を日本語で得られた」と高評価を受けており、「今後は出展する海外スタートアップのブースすべてにサポーターとして学生インターンをつけることを、SusHi Techにおける基本パッケージにしたらどうか」という意見も多かったという。学生がサポートした6社ではインドのChoira以外にも、韓国のunderdogsやシンガポールのスタートアップの2社が日本進出を検討中という。

「その後は、アジア各国の学生との交流イベントとして、26年1月に海外から10人の学生が来日しました。1月31日に開催した「EMC GLOBAL SUMMIT」でピッチしたほか、2月2日~4日には日本側からも10人の学生が参加し、各国の学生をバラバラのチームに編成して、2泊3日のブートキャンプを行いました。」

2年連続の活動実績が認められ、武蔵野EMCでは今年、海外大学や海外スタートアップとのネットワーク「EMC GLOBAL」の活動が、東京都の「多様な主体によるスタートアップ支援展開事業(TOKYO SUTEAM)」に採択された。それにより26年のSusHi Techでも、これまでと同様に学生インターンを派遣することが可能になった。

「EMC GLOBALの活動については武蔵野大学に留まらず、日本のほかの大学にも広く声をかけていきたいと考えていて、キャンパスクリエイトさんのネットワークにも大いに期待しています。今後はアジア各国の学生やスタートアップと協働し、『UNITED ASIA』としてヨーロッパやアメリカにも活動の場を広げていきたいですね。アジアの国々の力を借りて、日本の失われた30年を打破していきたいと思っています」

EMC Global
https://emc-global.jp/

東京発イノベーションが加速する未来へ

大学がもつ知の資源と、スタートアップの機動力を結びつける取り組みは、確実に新しい産業の芽を生み始めている。キャンパスクリエイトが推進する産学連携モデルは、国内外の技術シーズを社会実装へ導く重要な基盤となりつつあるようだ。今後は、より多様な大学や自治体、海外企業との連携が進むことで、東京発のイノベーションエコシステムが一段と広がるだろう。こうした動きが、日本の未来を切り開く原動力になるはずだ。

キャンパスクリエイト
https://www.campuscreate.com/

東京都「多様な主体によるスタートアップ支援展開事業(TOKYO SUTEAM)」
https://tokyosuteam.metro.tokyo.lg.jp/

Univ×SU Innovation Boost
https://www.campuscreate.com/univ_su/

Promoted byキャンパスクリエイトtext by Masashi Kubotaphotographs by Takao Otaedited by Akio Takashiro