/ ビジネス 2026年2月27日
CLO(物流統括管理者)が牽引する倉庫DX――
年間125時間の荷待ち・荷役時間削減へ
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日本社会に山積する課題のなかでもひときわ深刻なのが、実務の多くを“人力”に頼る物流業界だ。その最大のボトルネックを倉庫と位置づけ、キャンパスクリエイトがIndustry Alphaらとともに行う「倉庫DX」とはどのようなものなのだろうか。2社のキーマンへの取材を通して見えてきた物流の新世界とは。
「日本は人手不足と少子高齢化が同時に進んでおり、労働人口の減少・人手不足はもはや、社会インフラとしての物流の維持自体が危ういレベルに到達しようとしています」
そう指摘するのは、電気通信大学出身で、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)でもスタートアップ支援の分野で手腕を発揮してきた、キャンパスクリエイト専務取締役の須藤 慎だ。
物流業界は、2024年4月に働き方改革関連法適用により、トラックドライバーの時間外労働に上限規制(年960時間)が課された「2024年問題」に直面したばかりだ。
須藤 慎 キャンパスクリエイト 専務取締役
その状況が改善しないまま、業界にはさらに深刻な「2040年問題」—少子高齢化による労働力の急減、社会インフラの老朽化、需要の高度化—が確実に迫っている。そうした背景を踏まえ、26年4月からは一定規模以上の物流事業者および荷主企業に対し、「物流統括管理者(CLO:Chief Logistics Officer)」の選任が義務付けられる予定だ。
荷待ち・荷役時間の削減、積載効率向上、物流コストの最適化などが必須となり、CLOのもとで実行することが求められるようになる。従来のやり方で“人力で”乗り越えることは不可能な課題が突きつけられている。須藤は言葉を継いだ。
「ITや製造に比べ、物流のデジタル化は長く後回しにされてきました。ところがEC需要増加は止まらず、人手不足と高齢化の波が物流現場を直撃し、“このままでは社会インフラとしての物流が維持できない”レベルに到達してしまったのです」
そこで須藤が目を向けた課題のひとつが、非効率が満ちあふれる「倉庫」の問題だった。
キャンパスクリエイトが「倉庫DX」を重視した理由
キャンパスクリエイトは1999年設立の電気通信大学発TLO(大学の技術移転機関)で、大学資本を持たない独立性を生かし、産学官連携やスタートアップ支援を手がけてきた。須藤は強調する。
「東京都『次世代通信技術活用型スタートアップ支援事業』の開発プロモーターとして採択されたことを受け、弊社ではローカル5Gや衛星通信などの次世代通信技術を活用したスタートアップによるサービス開発および社会実装を進めています。Industry Alphaは支援先スタートアップの1社です。そのなかで、現場のインパクトが最も大きく、かつ変革の余地が大きい領域が、物流だと気づいたのです。とりわけ非効率かつ人的資源を多用する倉庫内のDX=『倉庫DX』が急務だと判断しました」
参考:次世代通信技術活用型スタートアップ支援事業(Tokyo NEXT 5G Boosters Project)
もちろんキャンパスクリエイトは、次世代通信技術が専門だ。それを個別のスタートアップの先端技術を組み合わせて結果を出す仕組みづくりを進めてきた。その実績は、Forbes別記事でも取り上げている(下記URL参照)。ただ今回は次世代通信技術導入の前段階、人力メインの業務工程の見直しによる『全体工程最適化』と、非効率業務の根源である『データ連携』から手を付けざるを得なかったと須藤は当時を振り返る。
参考:次世代通信技術×スタートアップが拓く社会課題ソリューションの最前線
「物流業界の課題解決においてスタートアップ独力ではなく、必要な技術を私たち以外からも大量に集める必要がありました。通信キャリア、ロボット系スタートアップ、物流企業などが連携してDXでの構造改革に立ち向かわなければ、物流インフラは崩壊してしまう。そうしてキャンパスクリエイトは、Industry Alphaと『倉庫DXオープンイノベーション推進プロジェクト』を立ち上げたのです。このような取組は次世代通信技術活用型スタートアップ支援事業の制度だからこそ実現できました」
同プロジェクトは真のスマート物流に向けてポイントを整理し、Industry Alphaの思想やソリューションを基軸に倉庫DXを進めていく試みである。複数回にわたるイベントの実施と調査・検証を続け、その結果をもとにホワイトペーパーとしてまとめていったという。
倉庫DXオープンイノベーション推進プロジェクト・ホワイトペーパー表紙
倉庫DXに不可欠な機器とシステム
そこに描かれている倉庫DXの理想像に欠かせないのが、以下の機器やシステムである。
・AMR/AGV
自律走行ロボット/無人搬送車。フォークリフトやシミュレーションソフトウェア、クラウドカメラなど多様な自動化機器も活用される。目視や人力に頼らないことで効率化を図る。具体的な製品にIndustry Alphaの「Kagero」などがある。・WMS(Warehouse Management System)
倉庫の在庫情報や入出庫情報をリアルタイムで管理するシステム。WMSが流通系システムと連携することで物流全体のDXが進むと考えられている。・FMS(Fleet Management System)
AMRやAGVなど複数台の搬送機を統合管理し、最適な走行制御やジョブ割り当てを行う仕組み。WMSのような倉庫管理システムと連携することにより、ピッキング作業が効率化され、配送システムと連携すればドライバーの待ち時間削減にもつながる。Industry Alpha社「Alpha‑FMS」など。・ローカル5G/Wi‑Fi/LPWA/RedCap
次世代通信インフラ。現状、ローカル5G導入については豊富な海外事例が存在するものの、日本ではコスト面で合わない場合も多く、端末コスト低減等に役立つRedCap(レッドキャップ)端末の実用化とともに考える必要がある。・API(Application Programming Interface)連携
WMS、FMS、AMR、バース予約(トラック配車)システムなどをつなぐ"接着剤"として、アプリケーション同士を連携させるのに必須のソフトウェア。
これらの要素を組み合わせることによって、日本が直面する倉庫の構造的な課題はようやく改善へ向かうのだと、須藤は語る。
「倉庫DX」におけるCLO(物流統括管理者)に課せられた使命
当然のことながら、倉庫業務のすべてがシステムやロボティクスの導入だけで自動的に効率化されるわけではない。どのプロセスをどのレベルまで最適化するのか、そのために何をKPIとして設定するのか――最終的な判断は人が担う必要がある。そこで鍵となるのが、2026年から選任が義務化されるCLO(物流統括管理者)の存在だ。
CLOは、輸配送と倉庫を横断した物流全体の最適化を指揮する、いわば「物流版CXO(企業の中で特定の分野を統括する最高責任者)」である。各種システムやロボティクス技術を戦略的に組み込み、企業の物流構造を持続的に改善する役割が求められている。26年前後からは、その配置だけでなく責任範囲の明確化にも注目が集まるだろう。
しかし、この領域は日本において十分に整備が進んでいるとは言い難い。そう指摘するのは、テック系スタートアップでCXOを務めた後、2022年8月にIndustry Alpha(インダストリーアルファ)を創業し、ロボティクスや数理最適化を活用した工場・倉庫のスマート化を推進している代表取締役の渡辺琢実だ。彼は、日本における倉庫DXの現状をこう説明する。
「倉庫内DXに関して言えば、海外のほうが挑戦的で、大規模なシステムを一気に導入する文化が根付いています。欧米では倉庫機器やシステムに独自規格が存在し、それに準拠したマシンを導入しやすい環境が整っている半面、規格に合わない機器は採用されないという“排他性”も見られます。一方で日本の場合、先進的にDXを進める企業もあるものの、全体としてはまだ発展途上という印象が強い。
ただし、日本の物流サービスそのものは極めて高品質であり、とくに『即日配達』を実現するサービスレベルは世界的にも非常に高い水準にあります。こうした高い品質を維持できなくなるのではないかという強い危機感が、現在、日本の物流業界におけるDX推進を一気に加速させています」
そもそもトラックドライバーの時間外労働規制として語られがちな「2024年問題」だが、実際には倉庫作業の現場全体にも深い影響を与えている。ドライバーの拘束時間を短くしようとすればするほど、倉庫サイドでの荷待ちや荷役のムダが許されなくなり、「トラックが着いてからが長い」というこれまでの常識は通用しなくなるからだ。
こうしたなかで国土交通省、経済産業省、農林水産省の三省にまたがり、制度設計が進められているのが、物流統括管理者CLO設置の義務化である(26年前後から本格的な配置と責任範囲の明確化が求められていくことになっている)。
CLOに課せられるのは、単なるコスト削減の指示ではない。倉庫の入出庫、在庫、荷役、搬送、ヤードオペレーション、輸配送を連動・協調させ、「人手不足」と「顧客サービスレベル維持」の両方を満たす新しいロジスティクス像を描き、実行に移すことが本当の使命だと、渡辺は強調する。
「CLOはまさに『物流で稼ぐ人』として現場に君臨する存在にならなくてはなりません。具体的に言うと、荷役時間と荷待ち時間を年間125時間減らせば、ドライバーの拘束時間や車両台数、人件費の削減だけでなく、リードタイム短縮による売上機会にもつながります。その全体ストーリーを描けるのが真のCLOなのです」
渡辺琢実 Industry Alpha 代表取締役
キャンパスクリエイトというハブが「倉庫DX」を前進させる
ではキャンパスクリエイト、Industry Alphaは「倉庫DX」という壮大な目標に向けてどのように接続したのだろうか。
須藤はキャンパスクリエイトの立ち位置を、「私たちは大学と企業とスタートアップ、官公庁の『翻訳者』のような存在だと考えています」と常々語っているが、倉庫DXに関してはどのように関わっているのだろうか。
ホワイトペーパーでは、この「翻訳者」としての機能が、倉庫DXの構成要素を整理し、各社のサービスを一覧化し、導入の打ち手を提示する役割として描かれている。
単独企業では解決が難しい課題について、大学、スタートアップ、既存ベンダー、荷主企業が集まり、連携や情報共有の「場づくり」の役割を担うことで、個別最適ではなく全体最適を目指すエコシステム形成を促しているのだ。
実際に「倉庫×無線 スマート物流勉強会」や「倉庫DX実現に向けた先端技術活用勉強会」「倉庫DX実現に向けたスタートアップの革新サービス紹介セミナー」といった場を通じて、ローカル5G、Wi-Fi、LPWA(IoT向け無線通信技術)、AMR、FMS、WMSなどの技術が、どのような組み合わせで倉庫DXを構成するかが具体的に議論されている。
渡辺は、キャンパスクリエイトとの出会いを幸運だったと感じている。
「倉庫DXは、『とりあえずロボットを入れればよい』という発想ではなく、FMSや通信を含めた全体設計をしないと、本当の意味での倉庫DXにはなりません。CLOは、個々の製品比較に終始するのではなく、『自社の倉庫と物流全体をどうデータと制御のレイヤーでつなぐか』を設計する責任者であるべきなのです。
しかし私たちはAMR、AGV、FMSを中心とした物流DXの最先端機器やシステムの最先端技術をもってはいても、それらを連携するための通信インフラの構築については知見が十分ではありません。そのときにキャンパスクリエイト社に協力いただいたことが、私たちの技術の実用化につながりました。実際に通信に課題をもつ企業からの問い合わせが増え、ロボット企業として採用されることも多くなりました」
Industry Alphaのイノベーション・“歩かない倉庫”を実現する「Kagero 500」
もともとIndustry Alphaの強みは、倉庫DXに欠かせない基幹コンポーネントとして位置づけられているシステム「Alpha‑FMS」と、「Kagero 500」などの国産AMR(自律走行搬送ロボット)の両方の技術をもっているところにある。しかし、同社創業以前の渡辺は、アルゴリズム系をベースにソフトウェアエンジニアとして経験を積んでいたという。
「以前の私は、工場や倉庫内のプロセスは数式化できると考えていました。オーダーが入ったらすべてアルゴリズムで計算できるシステムを構想し、さまざまな企業に提案したのですが、『実績がない』と断られることが多々ありました。
そんなときふと倉庫の担当者がため息交じりにもらしたのです。
『(かご台車の下にスッと入れる)薄型のロボットがあれば自動化できるのだけれど、世の中に存在しないからね』
一般的なロボットは300ミリ程度の高さがあります。そのため運搬するには、従来は牽引するしか方法がなく、狭い場所では使えないという課題があったのです。
担当者の言葉が大きなヒントになり、私たちは薄型ロボットの開発に着手しました。キャッシュは他のソフトウェア開発で稼ぎながら、薄型ロボットを受注し、それを作る人材を採用して開発を進めたのです」
そうして生まれたのが、同社を代表する薄型国産AMR(自律走行搬送ロボット)「Kagero 500」である。900mm×630mmというフットプリントで、高さはわずか185mm。それでいて500kgの荷物を自在な方向へ動かしてしまう実力をもつ。その主な特徴をまとめると、以下の5つだ。
最大500kgの荷物搬送
省人化、省力化を実現。
高精度な自律走行
SLAM方式による自律走行で、磁気テープなどの敷設が不要。360度LiDAR(レーザー測定)センサー(前方2基、後方1基)による高精度な障害物検知と安全性を実現。「もともと外で走る自動運転を開発していたメンバーが仲間になったことで高精度な自動運転が可能になりました」(渡辺)
多様な搬送物・環境に対応
荷物の形状や重量が多様化する現場ニーズに応え、安定した搬送を実現。走行可能な隙間は15mm以下、走行速度は最大72m/minで下限は無し。
安全機能の強化
接触型自動充電と手動充電の両方に対応している。バッテリー持続時間は約6時間、充電時間は1時間以下。
群制御・周辺機器連携
Alpha-FMSとの接続により、複数台のAMRや周辺機器との連携・群制御が可能。
つまり経路を示す磁気テープなしに、自在に倉庫内を駆け回り、人や障害物を検知しながら安全に500kgの荷物を持ち上げて運び、他のAMRとも連携して作業を進められる、省人化・省力化の決定版のようなロボット(AMR)だ。
Kagero 500の最大のメリットは、カゴ車や台車の下にもぐり込んで持ち上げる薄型構造で、既存の台車やレイアウトを変えずに導入しやすい点である。気軽に導入でき、人間がいわば「歩かない倉庫」が実現できるのだ。
Industry Alphaのイノベーション・あらゆる既存システムに接続する「Alpha‑FMS」
こうして有能なハードウェアを得たIndustry Alphaだが、本来のソフトウェア技術は、倉庫DXの基幹コンポーネントとして位置づけられているシステム「Alpha‑FMS」も生み出している。Host System(WMSなど)と連携し、複数台のAMRやAGVを制御する(I/O、PLCとの連携、FTP、APIを通じたシステム間連携にも対応)製品だと渡辺は自信をのぞかせる。
「私たちは、実際の導入を進めるなかで、成功の鍵となるポイントが2つあることに気づきました。それが拡張性と接続性です」
多くの顧客が最初は小規模で始めたいと思う一方で、最終的にはスマート倉庫の実現を視野に入れている。拡張性はそこからの気づきだった。そのソリューションとしてIndustry Alphaは最終的なスマート倉庫の絵図を描くと同時に、倉庫の規模や用途、予算に応じて必要な機能をモジュール化して、顧客の機能の取捨選択を可能にしたという。
さらに同社は、自社のAMR/AGV(例:Kagero 500)だけでなく、海外メーカーを含む他社製ロボット、フォークリフト、エレベーター、自動ドア、監視カメラなど、倉庫内に点在する多様な機器と連携できるインターフェースの設計を進めた。IoT非対応の古い機器であっても、自社モジュールを介することでネットワークに接続できるようにしたのだ。それが接続性だ。
この仕組みは、Alexaなどのスマートホームに古い家電をつなぐ“スマートリモコン”の考え方に近い。既存設備をまるごと入れ替える必要なく、制御やデータ連携が可能になるのだ。当然ながら、ロボットのリアルタイム位置情報や稼働状況の可視化も実現もできる。
すべての機器からデータを収集することが可能になるということは、倉庫全体を最適化できるということ。最適な配車、渋滞が起こりにくい経路作成を行い、最適な群制御が可能になることで、時間短縮を実現できるというわけだ。もちろん機械製品の総入れ替えも不要で、イニシャルコストを抑えられるというメリットもある。
倉庫DXは倉庫内だけにとどまらない~WMSとFMSの連携
ホワイトペーパーでは、倉庫DXを「WMS、FMS、AMR/AGV、5G・Wi-Fi・LPWA・RedCap、API連携などを組み合わせて、入荷・出荷・保管・搬送の効率化・省人化・見える化を進める取り組み」と定義している。
なかでも強調しているのは、「点の自動化」ではなく「面の最適化」という視点をもつ必要性だ。ピッキングロボットだけ、立体自動倉庫だけの単発導入では、倉庫全体や輸配送とのつながりを考えたときに効果が限定的になってしまうからだ。
さらに物流全体の最適化を考えたとき、倉庫内の采配を振るうFMSのみで解決する問題ではないと渡辺は指摘する。
「FMSは物理層の自動化(ロボットやエレベーターなど)の全体制御が基本の役割で、『倉庫の頭脳』と呼ばれますが、同時に上位システムと接続する役目も果たします。上位システムとは、倉庫の在庫や在庫数、入荷・出荷オーダーを一元管理する倉庫のデータベース(台帳)であるWMSです。
WMSは各商品の保管場所などを管理しているのですが、会社によってインターフェースやデータベースのもち方がまちまちなのが問題です。ところがAlpha‑FMSにはそれらの違いを吸収し、連携できる能力があるのです」
さらにポイントとなるのが、バース予約(トラック配車)システムとの連携だ。トラックの到着予約、バース割り当て、受付、入出庫実績の記録を一元管理するバース予約システムを活用すれば荷待ちの削減が可能である。
ではAlpha‑FMSとバース予約システムが接続するとどうなるか。トラックの到着時間と商品の出荷準備を同期させることができるようになる。
具体的には、顧客が注文した時点で、倉庫内で準備が完了する時間が計算され、それに合わせてロボットやエレベーター、アームロボットなどに指示を出し、作業を完了。バース予約システムでトラックの到着時間を調整することで、一切ムダのない最短時間の物流効率が実現できるのだ。トラックの待ち時間や到着時間の遅れによる商品の滞留の問題は、これですべて解決できてしまう。これも倉庫DXの本領のひとつである。
薄型のロボットをつくろうという発想から、ここまでの広がりを見せる倉庫DX。そのビジョンは自身の内にもともとあったものだと、渡辺は語る。
「ただ当初は“全部をつなげる”という漠然とした夢でした。それが実際に取り組むなかで、解像度を増し、具体的な方法を開発のなかで見つけていったのです」
今ではその卓越した技術は、国内だけでなく海外からの注目も集めているという。
「昨年から海外展開を始め、東南アジアから欧米まで訪問しています。実装についての具体的な話も出てきている状態です。ただ東南アジアはDXの必要性を感じていない企業も多く、欧米は独自規格などの制約があり、一筋縄ではいかない印象も抱いています」
“全部をつなげる”ための通信環境とは
システム同士をつなげるのは、APIの役割で、接着剤のように出自の違うシステム同士の意思疎通を可能にする。ではAMR/AGVなどの機器とシステムの接続はどのように行うのか。その基盤となるのが、無線通信技術である。近年よく耳にするのは「ローカル5G」だが、それほど単純な問題ではないと渡辺は解説する。
「ローカル5Gは重要なツールのひとつです。AMRが多数走行する環境では、安定した通信が必要ですから。しかしまだまだ2.4GHzWi-Fi通信を使っている倉庫現場が多いのが実情です。
既存のネットワーク環境では複数階にまたがる広いエリアで多数のロボットが動く場合に、限界があります。私たちはWi-Fiに限らずさまざまな通信方式を試していますが、ローカル5Gはその課題を解決できる可能性があると考えています。
そのうえでローカル5Gが普及しない最大の理由は、コストと免許取得の手続きの煩雑さにあります。総務省に申請して承認を受けなければ使用できないため、導入のハードルが高いのです。
また、必ずしもすべての現場でローカル5Gが必要というわけではなく、狭い範囲や1階だけの運用であればWi-FiやLPWAで十分な場合もありますから、必ずしも倉庫DXにローカル5Gが必須というわけではないのです」
コスト面では良い話もある。それがRedCap技術であり、ローカル5G基地局とAMRが通信する際のインターフェースとなる。端末コストが安価なだけではなく、省電力効果もある。
ではどのような場合に、ローカル5Gは更にメリットを発揮するのだろうか。
「遠隔操作が、ローカル5Gの重要なユースケースだと考えています。AMRは自動運転が基本ですが、障害物検知や場合によっては経路から外れて停止することもあります。現在は現場に人がいて、復帰操作を行っていますが、人員削減が進むなかで遠隔監視できる環境が必要になってくるでしょう。
その場合はWi-Fiなどでは操作時のラグが大きく、実用的ではありませんが、ローカル5Gならスムーズな操作が可能です。これにより1人のオペレーターが複数の拠点を管理できるようになります」
導入のハードルを下げる3Dシミュレーション
倉庫DXの投資は小さくない。だからこそ「やってみなければわからない」では困る。その場合は、FlexSimなどの3Dシミュレーションソフトを使って、現状の把握から導入時のレイアウトやロボット台数、バース数を仮想空間で試行しながら投資効果を見える化することが得策だ。
例えば、「AMRを5台から10台に増やすと、出荷ピーク時の荷待ち時間が何時間短縮されるか」「バースを1つ増設するのと、FMS導入で搬送能力を高めるのとでは、どちらの費用対効果が高いか」といったシナリオを比較検討できる。
これによりCLOの目標である「年間125時間削減」というKPIがより現実的な数字として見えてくるはずだ。
真の意味での倉庫DXはあらゆるものがつながる
ビジネスを進めていくにあたっては、倉庫まわりだけで完結するわけにはいかない。真の倉庫DXは、その先のシステムにも接続する用意があると渡辺は付け加える。
「例えば会計システムとして工場や倉庫の利益などを管理するERP、倉庫内で行われる商品の入庫・保管・在庫管理・ピッキング・出荷・棚卸といった一連の業務をシステムで一元的に管理・効率化するWMS、例えば工場では場内の設備を動かす工程を指示する製造実行システムのMES、倉庫制御システムであるWCS、あらゆるものが存在しますが、それらを適切に機能分割し接続することが“全部がつながる”状態に近いと考えています。
業界では従来、これらのシステムが個別に発展し、複雑化してきました。私たちのビジョンは、注文が入ってから倉庫内で処理され、出荷されるまでの全プロセスをアルゴリズム化し、さらに経営管理システムとも連携させることなのです。1つの倉庫だけでなく複数の倉庫間の連携も可能になった段階で、真のスマート物流が実現すると思うのです」
CLOにとって重要なのは、こうした「WMS=台帳」「FMS=頭脳」として役割を分けつつも、将来的にはこの2つをAPIで密接に連携させ、ERP、やその他の周辺システムも含めて協働する世界を描くべきなのだろう。在庫とオーダー情報がリアルタイムでFMSに渡り、ロボット群と設備が自律的かつ協調的に動く――そんな倉庫像が倉庫DXのゴールになるからだ。
「125時間」を入り口に、物流全体のDXへ
最後に2社の展望について聞いた。まず口を開いたのは渡辺だ。
「ともすれば業務の自動化によって雇用を奪うのではないかと思われる懸念もありましたが、実際に現場に行けば『重い物を運びたくない』『危険な作業をしたくない』という声が圧倒的で、ロボット導入は好意的に受け入れられている実感があります。そして、採用が困難な昨今は特に効率化や省力化の流れは進んでいると感じます。
また直近の課題として「年間125時間の荷待ち・荷役時間削減」というKPIも実現不可能だとは思っていません。
今後日本の誇る製造業でグローバルに戦いたいという思いもあり、DXによる自動化は単なる省人化ではなく、人材の戦略的配置を可能にするものだと考え、使命感をもって倉庫DXに取り組んでいます。
物流は、どんなにデジタル化が進んでも、なくならない分野です。だからこそ、効率化と高品質なサービスの両立を実現して業界を活性化したいと考えています」
須藤はそのIndustryAlphaの志に共鳴しながら、さらなる独自の倉庫DXに言及した。
「倉庫DXは、技術の話というよりも、現場と経営をどうつなぐかの話なのです。欧米諸国に比べ、後れを取っている日本の倉庫DX。CLOを増加させていく一方でリテラシーのある人材不足も課題です。つまり後れを取っている原因は、日本の現場で求められるリアルな情報やノウハウが圧倒的に不足しているからだと考えます。
そこでキャンパスクリエイトは、それらの問題を解決する「倉庫DX推進AI」の開発及び、参照データとナレッジベースの構築を進めています。CLOが持つべき倉庫DXの設計指針、IndustryAlpha社のFMSを介した物流全体のデータ連携、無線通信技術の活用方法など、伝えるべき価値あることは、まだたくさんあると考えるからです。
倉庫DX推進AIを通じて、物流業界の未来を切り拓くイノベーションの先駆者となり、社会的価値を創出することに今後も貢献していきたいと思っています」
須藤 慎(すどう・まこと)◎
電気通信大学を卒業後、電気通信大学TLOであるキャンパスクリエイトに入社。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を経て、キャンパスクリエイト専務取締役就任。
キャンパスクリエイト
https://www.campuscreate.com/
渡辺琢実(わたなべ・たくみ)◎
名古屋大学を卒業後、テック系スタートアップCXOを経て、2022年8月にロボティクス・数理最適化を用いて工場・倉庫のスマート化を実現するIndustry Alphaを創業、代表取締役に就任。
Industry Alpha
https://www.industryalpha.net/
Promoted byキャンパスクリエイトtext by Ryoichi Shimizuphotographs by Takao Otaedited by Akio Takashiro

