次世代通信技術×スタートアップが拓く社会課題ソリューションの最前

/ ビジネス 2026年2月27日

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次世代通信技術×スタートアップが拓く社会課題ソリューションの最前線

Forbes JAPAN BrandVoice Studio世界38カ国、800万人が愛読する経済誌の日本版

日本社会に山積する課題を突破する鍵は、次世代通信技術の社会実装と、それを牽引するスタートアップ(以下SU)のイノベーションにある。東京都が主催する「次世代通信技術活用型スタートアップ支援事業(Tokyo NEXT 5G Boosters Project)」(以下支援事業)は、都内スタートアップ企業が、都心部から郊外・山間部、離島をもつ東京というフィールドを生かしながら、世界で通用する競争力を磨き、5Gをはじめとした次世代通信技術を活用した新たなビジネスやイノベーションを創出し、都民のQOL(Quality of life)向上に寄与する有益なサービスを創出するとともに、各スタートアップ企業の企業価値向上を目指している。

本事業を推進する開発プロモーターとして、令和5年度に採択された1社がキャンパスクリエイトだ。キャンパスクリエイトが事業を開始してから3年、次世代通信技術(ローカル5G、衛星通信、5Gワイドなど)を活用することで、アバターロボット、テレプレゼンス、自律航行船、倉庫DX、XRといった新分野で、どのような革新が生まれているのか。その現在地点をレポートする。

各SUのビジョンをテーマとしたアートコンテンツ{キャンパスクリエイトおよびAcademimicにて
「run_future()」プロジェクトとして制作}

次世代通信技術を活用して事業を成長させるスタートアップを輩出するスパイラルモデルを目指して

深刻な人手不足、地域格差、高齢化。日本は今、少子高齢化に伴う労働人口の減少に代表される構造的な課題に直面している。人手不足が深刻化し、社会インフラとしてのサービスの維持自体が危ぶまれる状況だ。また、都市部と地方・離島との間で広がる地域格差の是正も急務である。このような社会課題の解決に不可欠なのが、デジタルトランスフォーメーション(DX)である。そしてその基盤のひとつとなるのが、超高速・大容量、超低遅延、多数同時接続といった特性をもつ新たな通信技術であることは明らかだ。

須藤 慎 キャンパスクリエイト 専務取締役

須藤 慎 キャンパスクリエイト 専務取締役

キャンパスクリエイトは「NEXT5GとSUが導くソーシャルインパクトプロジェクト」を掲げ、スタートアップ・エコシステムを構築している。ここでは、スピードと革新性を備えたSUが次世代通信技術の活用によってソーシャルインパクトを生み出し、社会課題の解決を図り、都民のQOLの向上に寄与する事例を生み出す。

キャンパスクリエイトは1999年の設立。国立大学法人電気通信大学発でありながら、当初から大学の資本に頼らず教員の協力のもと、自由なスタンスで25年以上にわたり、大学の研究成果を産業界へ還元する広域TLO(技術移転機関)として活動してきた。その歩みのなかで培われた無線通信技術に関する知見、数々の産学官連携プロジェクトでのマネジメント経験、そして広範な地域企業や自治体とのネットワークなど、その実績とノウハウをプロジェクトで如何なく発揮している。

「今回は各SUの事業課題に応じて不足部分を意識し、産学や自治体との連携支援、実証実験の推進、研究開発資金の調達、そして広報・ブランディングに至るまで、フレキシブルな支援を実施しています」と語るのは同社専務取締役の須藤慎。こうしたキャンパスクリエイトの存在が、技術の理解とアイデア実用化のスピードを加速させる要となっている。

次世代通信技術が拓く革新的なユースケース

本プロジェクトでは、次世代通信技術をキーテクノロジーとしながら、多様な分野で革新的なソリューションを有するSUの支援を行ってきた。今回対象となったSU5社の個別の取り組みについて、詳細は後述するが、その概要に簡単に触れておく。

  • 1

    avatarin(アバターイン)は、コミュニケーションAIロボット「newme(ニューミー)」を開発している。これは、人が遠隔地からロボットを操作し、その場にいるかのように動きまわり、対話や案内を行うことを可能にする技術である。

  • 2

    AI・ロボティクスベンチャーであるIndustry Alpha(インダストリーアルファ)は、製造業における人手不足や生産性の課題を解決するため、AMR(自律走行ロボット)やソフトを組み合わせて倉庫や工場のスマート化を推進する。

  • 3

    MUSVI(ムスビ)が手がけるのは、遠隔地とリアルタイムで高品質なコミュニケーションを可能にするシステム。テレプレゼンス(遠隔臨場感)の分野でイノベーションを追求している。

  • 4

    Eight Knot(エイトノット)は、「海のDX」「船舶のロボット化」をミッションに掲げ、船舶向けの自律航行プラットフォーム「AI CAPTAIN」を開発している。センサーなどを既存の船舶に後付けするだけで、フェリーや観光船、漁船といった多様な船が自律航行可能となる。

  • 5

    ABAL(アバル)は、ロケーションベース技術を核としたXR(クロスリアリティ)領域のディープテックSU。VR/AR/MR技術を駆使し、現実空間とデジタル情報を融合させるソリューションを生み出す。

これら5社の取り組みは、単なるPoC(概念実証)に留まらず、社会実装のフェーズへと着実に移行しつつある。例えばエイトノットはすでに本土と離島間の商用船の自律運行の実績をつくり、MUSVIのテレプレゼンスシステム「窓」が日本の主要なゼネコンに広く導入されるなど、その公共性と革新性が広く認められるに至っている。

その中で、本プロジェクトを通して、ローカル5Gに限定せず、衛星通信、5Gワイド、適応型ローミングアシスト技術など、多岐にわたる次世代通信技術の特性を最大限に引き出すための実証を、キャンパスクリエイトの支援のもと推進してきた。その結果、SUは自社のソリューションに最も適した通信インフラを選択・活用し、「技術の使いこなし」のレベルを向上させた。通信業界にとっても、新たなユースケース創出につながるフィードバックが生まれている。

このような成果を生み出す秘訣はどこにあるか。鍵となるのは、スタートアップと通信事業者のあいだに横たわる「距離」をいかに埋めるかにある。この分断こそがボトルネックであり、その解消が大きなソーシャルインパクトを生み出す原動力となる。

スタートアップには、次世代通信技術を活用することで事業を飛躍させる可能性がある一方、その有用性に気づけなかったり、通信事業者との接点を持てなかったりする課題がある。一方の通信事業者も、市場ニーズを十分に把握できないまま開発が先行してしまったり、市場が立ち上がらなければ投資コストに見合わないといった悩みを抱えている。

こうした通信業界特有の構造的課題に対し、キャンパスクリエイトが、スタートアップと通信事業者をつなぐコーディネーターとして機能することで、両者の隔たりを解消し、新たな価値創出へと導いている。

本支援事業への参画はSUの社会的信頼性の獲得やデューデリジェンスを向上させ、持続的な成長を支えることにも貢献している。その取り組みは「ローカル5Gサミット」などの大型カンファレンスで発表され、通信事業者との連携による事業展開の体制も築きつつある。これはSUの技術が通信インフラと融合し、社会インフラの一部として組み込まれるための重要なステップである。

avatarin

Right Time, Right Place, Right Person

「移動の民主化」というavatarinが掲げるこのビジョンは、物理的な移動の制約から自由になる挑戦だ。世の中に山積する課題も「適した時に適した人が適した場所」にいれば、もっと解決に近づくはずである。そして人が実際に移動しなくても、離れた場所にあるロボットなどに存在を伝送し、さまざまな情報や能力をその存在に搭載する。それが実現すれば、リアルと同等の働きも期待できる——。こうして同社は“移動”という概念を拡張させ、「アバターインする」ことで距離や身体的な限界を超えて「だれもが、いつでも、どこでも助け合える世界(=世界最大の人助けネットワーク)」を目指している。

筒 雅博 avatarin ソーシャル・ソリューション部部長

筒 雅博 avatarin ソーシャル・ソリューション部部長

同社が開発したコミュニケーションAIロボット「newme(ニューミー)」は、遠隔からの操作で動き回り、見たり聞いたり話したりといった双方向コミュニケーションを高精細映像と滑らかな動作で行う。利用者は担当者があたかも目の前にいる感覚で、案内業務や接客を受けられる。このような高度なサービスを支えるのが、次世代通信技術である。「newme」を自分の分身のように動かすためには、操作のレスポンスが早くなければならないし、映像が高精細で動作が滑らかな方がサービスの質も向上する。

さらにひとつのエリア内で同時に複数台の「newme」を動かそうとすると、多くのデータ量を同時に必要とする。これらを考慮に入れれば「低遅延」「大容量」「同時多接続」を満たす通信手段が必要となる。「この3要件に最も合致するのが、現状ではローカル5Gでした」と語るのは、同社ソーシャル・ソリューション部部長・筒 雅博である。

avatarin

八丈島・大田区役所での実証、そして広がった応用可能性

同社のこれまでの取り組みで目を見張るのは、コミュニケーションAIロボットの有効性を実社会の現場でいち早く証明してきた点である。24年2月に行われた八丈島での実証実験では、「newme」を空港の観光案内所に活用。東京にいるスタッフが島の訪問客に対して案内業務を行い、遠隔でも高評価の接遇が提供できることが確認された。その際、自治体や地域関係者との事前の調整役を担ったのがキャンパスクリエイトである。

また24年9月から12月まで実施した大田区役所での実証実験では、ローカル5GとDAS(分散アンテナシステム)を組み合わせることで、従来通信では生じがちな電波の死角を最小化し、庁舎全体で安定した接続が確保された。これにより、区役所のように訪問人数や問い合わせ内容が変動しやすい環境下でも「newme」による「遠隔区民サービス」をスムーズに提供できる体制が整い、約3カ月の検証期間中に予想を上回る約2,600件もの幅広い世代からの利用があったという。行政サービスとしての実装に確かな手応えを得たことは、本支援事業における大きな成果である。

さらに大田区役所においては25年の10月と11月にも追加の実証実験を展開。10月は本庁舎と出張所という異なる2地点のケース、11月は隣接する荒川区と行政区を跨いだケースとして、それぞれの場所に配された「newme」を同一のオペレーターが遠隔操作をして、サービスを提供する試みを行った。

一連の大田区の実証実験においてもキャンパスクリエイトの協力を得て、電気通信大学教授の藤井威生と産業技術総合研究所の渡辺 健太郎による定量的な評価が進められ、通信品質や遠隔接客の影響・効果などにおいて良好な結果を確認。社会的にも高い評価を受け、導入を検討する自治体からの問い合わせなどもきており、単なる実証実験の枠を超えた政策的インパクトを生み出している。

社会課題の解決に向け、ビジネスを本格始動

さらに特筆すべきは、こうした取り組みが具体的なビジネス連携に結実した点である。25年9月、アルティウスリンクと自治体BPO連携に向けた基本合意書を締結。コンタクトセンターやバックオフィスに強みをもつ同社と組むことで、アバターロボットによる窓口支援を大規模な行政運用へ拡張する素地が整いつつある。従来の遠隔案内の枠組みを超え、業務プロセス全体を含む新たなDXサービスの創出が期待される。

同社は今後、ローカル5Gの整備と「newme」の進化を背景に、行政以外の領域への展開を見据えている。観光案内に限らず、商業施設の接客、航空会社のカスタマーサービスなど、高品質な人的サービスが求められるさまざまな領域に応用の可能性が広がる。AIを活用した自律機能が進化すれば、遠隔操作とAIによる自動案内を組み合わせたハイブリッドサービスも現実味を帯び、抜本的な人手不足の解決につながる。「アバターイン」することで伝送される“能⼒”が、人々の働き方や暮らしに新たな自由をもたらす日もそう遠くないだろう。

avatarin
https://about.avatarin.com/

Industry Alpha

物流2024年問題――その構造的課題への処方箋

日本の物流業界は今、未曾有の危機に直面している。2024年4月のドライバー労働時間規制強化により、輸送能力が大幅に減少する「物流2024年問題」。そして26年4月までに、前年度に年間9万トン以上の貨物を扱う荷主企業は、CLO(物流統括管理者)を選任し、輸送効率化を盛り込んだ計画書を国に提出する義務を負う。3,000名以上が誕生するといわれるCLOだが、その人材が不足していることは明らかだ。

渡辺琢実 Industry Alpha 代表取締役

渡辺琢実 Industry Alpha 代表取締役

これらの課題に、工場・倉庫のDXを用いて正面から挑むのがIndustry Alphaだ。同社は22年、スマート倉庫分野に注力するSUとして設立された。その強みは提供する機器・サービスの高い接続性と拡張性にある。接続性を支えるのは、自社製品のほか、従来メーカー間で互換性のなかったAMR(自律走行搬送ロボット)を横断的に群制御し、さらに周辺機器とつなぎ自動化する革新的システム「FMS(Fleet Management System)」だ。

一方拡張性は、倉庫DXの全体像を見据えたうえで最適化を図る高度な設計力によって実現している。同社の独自ソリューションが目指すのは、例えば既存のかご車に潜り込み搬送する低床型AMRを群制御しつつ、ほかのAMRやカメラ、エレベーターまで多様な自動化機器も統一制御することで、ピッキング・搬送・積み下ろしなどの業務を自動化・最適化する未来。しかもこうしたDXを個々の状況に応じて段階的に進められるのである。

そしてその先には、倉庫内の商品の入庫・保管・ピッキング・出庫まで一連の業務を効率的に管理するWMS(倉庫管理システム)等との連携も見えている。今までに、AMRが完了した荷役情報(ピッキング完了・搬送完了・積み込み完了など)が即座にWMSに反映され、これにより倉庫内の在庫・作業の進捗をリアルタイムで把握でき、入出庫作業の自動化が実現している事例がある。

さらにバース(荷物の積み下ろし用スペース)の予約システムともつながれば、トラックの到着時間を調整できる。「○番バースの荷役が予定より早く終わったので、次のトラックの到着時間を前倒し」など効率化が可能になり、滞留時間が劇的に短縮されるのである。

Industry Alpha

次世代通信が切り開く倉庫DX

同社の真価ともいえる“群制御”を支えるのが、次世代通信技術だ。広大な倉庫敷地において、複数のAMR等を干渉なしに安定接続する――この課題に対し、同社はローカル5Gの活用を進めてきた。接続端末の小型化・省電力化・低コスト化を実現するRedCap(Reduced Capability)の選択も視野に入れており、導入の敷居を大きく下げる可能性を秘めている。こうした次世代通信の活用に関して、同社代表取締役・渡辺琢実は「実証に要するローカル5G基地局の選定・手配から、RedCapの提案、ローカル5Gベンダーとの連携体制づくりまで、技術面・戦略面からのキャンパスクリエイトのサポートに助けられた」と話している。

さらに同社とキャンパスクリエイトは業界全体のオープンイノベーションを活性化するため、業界全体への発信を強化している。「倉庫DXオープンイノベーション推進プロジェクト」を共同で展開。これは真のスマート物流に向けてポイントを整理し、Industry Alphaの思想やソリューションを伝えようとする試みである。

24年12月からこれまでに4回の関連イベントを開催。大企業からの参加者も多く、毎回盛況だという。また25年1月の「スマート物流EXPO」への初出展では、大きな成果と手応えを得るなど、同社の技術力とビジョンを業界に広く知らしめる機会となった。

そして特筆すべきは、「倉庫DXオープンイノベーション推進プロジェクト」に関して、各イベントの要点をまとめた広報レポートを制作・公開している点である。現状、倉庫DX・物流DXの導入方法について、実務レベルでまとまったレポートは存在しない。核心を突く独自性と高い標準性を備えたこのレポートは、倉庫DX取組企業、CLOや戦略コンサルティング事業者といった読者にとってのバイブルとなり、同社が彼らの相談相手や連携パートナーとしての役割を求められるケースも増えている。

AMRから経営管理までを包括するエコシステムの形成へ

成果は具体的なビジネス展開にも表れている。ローカル5Gベンダーと連携した事業展開が現実化しつつあるとともに、グローバル展開も視野に入れ、ローカル5G環境内で動作しているAMRの遠隔運用・保守ができるかを検証するため、海外から遠隔接続する実証を25年内に実施予定だ。

同社の取り組みは、次世代通信技術が物流・倉庫DXにもたらす可能性を、実証レベルから事業化レベルへと引き上げた。だが真のスマート物流を実現するには、AMRからFMS、さらに上位のWCS/WES/WMS(物流管理システム)、ERP(経営管理システム)といった多層的な要素が統合される必要がある。その中核を担うテクノロジーの提供者として、同社の存在感は今後ますます大きくなるだろう。物流2024年問題は、単なる規制対応ではない。それは日本の物流業界が構造的課題を克服し、持続可能な未来を築く契機である。Industry Alphaの挑戦がもうすぐそれを証明してくれる。」

Industry Alphaの特集記事
「CLO(物流統括管理者)が牽引する倉庫DX――年間125時間の荷待ち・荷役時間削減へ」

Industry Alpha
https://www.industryalpha.net/

MUSVI

「窓」を開けて想いをつなげる

MUSVIは、ソニーで約25年間にわたりテレコミュニケーションエンジニアリングの研究開発を行ってきた阪井祐介が立ち上げたスタートアップだ。「世界中の80億人の人とコミュニティが出会い、結ばれるプラットフォームの提供」を目指し、テレプレゼンスシステム「窓」を開発・展開する。

阪井祐介 MUSVI 代表取締役・Founder & CEO

阪井祐介 MUSVI 代表取締役・Founder & CEO

「窓」は等身大の大型ディスプレイを通じて高精細映像と高音質音声、そして自然な視線のやり取りを可能にすることで、離れていても同じ空間を共有しているかのような没入感を生み出す。単なる映像・音声の送受信ではなく、一般的なビデオ会議とは一線を画すクオリティで人間の非言語的な情報――表情、間、声のトーン、身体の動き――までを豊かに伝えることが特徴だ。

こうした空気感や気配までをも再現する独自技術のひとつが「ステレオエコーキャンセル技術」。複数箇所で同時に話してもエコーを防ぎ、まったくハウリングを起こさない仕組みである。このようなテクノロジーを幾つも精緻に重ね合わせ、人間が違和感を覚える認知的不協和を徹底して排除する。

musvi

常に安全が求められる現場で仲間と一緒にいる安心感

MUSVIの「窓」にいち早く注目したのは建設業界だった。建設現場では管理職や熟練技術者の不足が課題となり、遠隔から現場を確認・指導できる仕組みが求められていた。

現在では、現場事務所や詰所、本社設計部門など各拠点を常時つなぐことで、離れた場所にいる担当者が同じ空間で打ち合わせや相談を行うようなリアルと同等のコミュニケーションが可能になった。「人の移動時間や移動コストが削減されるのもありがたいが、常に安全が求められるなか、何より“いつも仲間がそこにいる”という一体感を得られるのが大きい」と現場関係者は語る。

この“テレプレゼンス”を支えるのが次世代通信技術である。当初、「窓」は2拠点間のWi-Fi接続から始まったが、本支援事業でキャンパスクリエイトの協力を得て、電気通信大学教授・藤井威生と共同で24年11月におもに5Gワイドやミリ波の活用性を検証。その結果を受け、さまざまな状況下でより安定的な接続が可能となる仕様へと進化させた。こうして「窓」は単なる通信ツールから、社会のあらゆる領域で人と人のつながりを再構築できる空間共有インフラになりつつある。

人を知るための産学連携

建設領域ではその有効性が広く認められるようになった一方、「ビデオ会議システムと何が違うのか」という質問には何度も向き合ったと、同社代表取締役CEOの阪井は振り返る。機能やスペックだけでは伝わりにくい没入感や臨場感をどうすれば言語化できるのか——技術の差異を説明する難しさに直面したという。この長年の課題に関しても、本プロジェクトのなかでキャンパスクリエイトを通じて心理・コミュニケーション学を専門とする東京女子大学教授・田中章浩に協力を依頼。認知心理学や多文化コミュニケーションの観点から「窓」の価値の評価・立証を進めている。

また同社のグローバル展開が見えはじめたなか、「窓」を使った異文化コミュニケーションに関する実証実験も企画中だ。キャンパスクリエイトの紹介により海外大学と協働して新たなアイデア創出を目指す武蔵野大学アントレプレナーシップ学部と連携。グローバルなコミュニケーションスタイルに合わせた“空気を共有する体験”の最適化を図る計画だ。

さらに、同社は25年12月に「建設DX展 東京」への2度目の出展を行った。初出展となった24年では業界関係者からの引き合いが多数寄せられたが、今回新製品の発表とスーパーゼネコンの導入事例紹介を軸にした展示が好評を博し、ブース来場者が昨年の2.5倍となるなど建設業界での認知がさらに高まっていることがうかがえた。これらの出展に関しても本プロジェクトの支援を受けており、阪井は「マーケット開拓やファイナンス、さらには技術面に限らない幅広い産学連携の機会創出など多岐にわたるサポートはMUSVIにとって大きな力。キャンパスクリエイトはある種シンクタンクのような存在で、規模の小さいスタートアップには非常に貴重です」と語る。

今後は建設現場以外にも教育・医療・介護など、人とのつながりが大切なシーンでのさらなる応用も期待されている。距離が離れていても“感じる”ことができれば、人の働き方や暮らし方そのものが変わる。都市と地方、現場と本社、家庭とオフィスに“窓”が開くことで、新しい日常が生まれるはず。まさにMUSVIのコーポレートミッションである「世界中の壁を『窓』に変える」が目指す世界であり、同社はその実現に向けて着実に歩を進めていくだろう。

MUSVI
https://musvi.jp/

エイトノット

船の自動運転が人と海の関係をつなぐ

日本の海にも、いま静かに危機が迫っている。離島と本土を結ぶ生活航路の現状は深刻だ。乗客減少による赤字経営、船員不足、そして資格保持者の高齢化。島民の生活にとって必要不可欠でありながら採算が取れず、全国にある286の離島航路(22年4月)の多くで赤字の全額から半額を国が補助しているという。

「航路が廃止されれば島での生活が立ち行かなくなる」——この社会課題に次世代通信技術と自律航行システムで挑むのがエイトノットである。同社は操船をAIが担うことで、船員の負担を減らし安全性を確保する「海のDX」と「船舶のロボット化」を構想した。さらに24時間運航やダイヤの柔軟化など、ゆくゆくは人に依存しない運用も視野に入れている。

木村裕人 エイトノット 代表取締役CEO

木村裕人 エイトノット 代表取締役CEO

船舶に“知能”を。海上モビリティの再定義

同社が開発するのは、自律航行プラットフォーム「エイトノット AI CAPTAIN」だ。出発地と目的地を設定すると、船はAIとカメラやセンサー、レーダー、衛星通信などを用いて自らの位置と周囲の環境を認識し、安全なルートを選択し自動で航行する。もちろん他船や障害物の回避から自動離着岸、定点保持や航海中の状況をリアルタイムに可視化するなど、多様な機能も備えている。これらをロボティクスとAIをコアとする複数の技術を統合し、ワンストップで実現しているのだ。

さらに汎用設計が大きな特徴で、既存船舶にも後付けすることができるという。これまで手動操縦しかできなかった船舶に“知能”を与えることで、新たな交通インフラを生み出そうとしている。

こうした自律航行の実現には、安定した通信環境が欠かせない。同社は当初、LTEを用いて検証を行っていたが、海上では地上波通信が届かないエリアが多かった。そこでキャンパスクリエイトからの支援を受け、衛星通信、特に「スターリンク・マリタイム」などの低軌道衛星網の活用を検証した。

「これにより岸から遠い海上でもリアルタイムで船の状態や位置、映像データを取得できるようになり、活用シーンが大幅に広がりました。また周辺情報を高精度に把握して複数の船を安全に航行させる遠隔モニタリングの可能性も一気に開けたと思います」と同社代表取締役CEO・木村裕人は語る。現在も離島航路を中心に実証を重ね、期間限定ながら広島県大崎上島町と竹原市の間で商用運航を行うなど実用段階へ着実に近づいている。

エイトノット

産学連携で実現する海のインフラの再設計

同社が目指す離島航路の持続化には、その重要性を広く社会に認知させることも重要だ。そのための大学や研究機関との連携も積極的に進めており、離島交通の研究者として知られる九州産業大学准教授・行平真也とともに航路維持の社会的意義やコスト構造を議論。学術的な知見を取り入れることで、単なる技術実証に留まらず、政策上の整合性や社会的な貢献性の解像度を高めている。

またキャンパスクリエイトは、離島経済新聞社のWebメディア「ritokei」にて木村と行平、そして編集長の鯨本あつことの特別鼎談をコーディネートして記事化。さらに「未来のシマ共創会議 2025」にも協賛し、全国の離島首長や政策担当者が一堂に会する場で「海の道を維持するために」というテーマのセッションを実施。エイトノットのサービス×衛星通信技術によるソリューションを提示して関係者への認知拡大を図った。

結果、離島航路運営自治体からの引き合いや、導入普及のための具体的な課題が明確になり、離島ならではの文化的背景の理解も深められたという。こうして本支援事業を通して同社は技術的な確証を得るとともに、離島コミュニティとの信頼関係を深め、研究・産業・自治体が一体となった「海のDX」のエコシステムが形成されつつある。

その先に同社が描く未来は、単なる無人船が行き来する世界ではない。人が運航を管理し、AIが航行を担い、衛星通信がそれを支える“協働型の交通システム”である。既存船舶への後付けができるため、事業者は新たな大型投資を行わずとも自動化が可能で、全国数百の離島航路に展開できるポテンシャルをもつ。また物流や観光、漁業支援への応用も視野に入れている。例えば夜間や悪天候時にAIが航行を支援して安全性を高めたり、あるいは観光船は自律航行で運航コストを下げ、地域観光の充実を図ったりもできるだろう。

通信技術の進化は海上交通を大きく変えていく。衛星通信の実用化とともに海のデータが常時つながる時代が到来した。そこにAIとロボティクスを掛け合わせることで、これまで“人がいなければ動かない”と思われてきた船が、自ら考え、動き、つながる存在になる。「海の道を絶やさない」――その信念のもと、エイトノットの挑戦は続く。そしてその挑戦のエンジンを止めないため、さらなる成長を目指して近々、海外展開にも乗り出すという。まずは米国のプレジャーボート市場。国内とはまったく異なる顧客がターゲットだが、市場規模は大きく、すでに実績と勝算もある。通信が拓く新たな航路の先に、持続可能な島の未来が広がっている。

未来のシマ共創会議イベントレポート

エイトノット
https://8kt.jp/

ABAL

XR技術の可能性を広げる革新的エンターテインメント体験

ABALは、リアル空間と仮想空間をシームレスに融合させる「リアルメタバース技術」、すなわちXRコンテンツの制作を主軸とする企業である。その技術的アイデンティティは、独自の空間拡張技術に裏打ちされた革新的なVR体験にある。

鈴木祥太 ABAL プログラマー

鈴木祥太 ABAL プログラマー

特許18件を保有するこの基幹技術により、利用者は現実世界で500㎡程度の空間を移動しながら、VR内ではその20倍に相当する1万㎡もの広大な仮想空間を自由に歩き回り、数十名規模で体験を共有することが可能になった。これは従来のVR施設が抱えていた課題——巨大なVR空間構築に伴う高額な設備投資と、大人数へ対応するための複雑なオペレーション——を格段に低コストかつ効率的に解決するソリューションである。

創業時はXRコンテンツ制作の受託を主たる事業としていた同社は、この画期的な技術を核に、自社単独または協力先と連携してXRイベントを企画・制作・運営する、より包括的なビジネスモデルへの転換を果たした。その契機となったのが、本プロジェクトを通じての次世代通信技術の活用だ。

通信安定化へ「ローミング最適化」という突破口

同社が開発したXRエンターテインメントプラットフォーム「Scape®」を実用化するうえで、大きな課題となったのが通信環境の絶対的な安定性の確保だった。リアルメタバース体験で高度な没入感を提供するためには、数十台のXR端末が同時に遅延なく大容量のデータをやり取りすることが不可欠となる。

この課題の解決に向け、同社から相談を受けたキャンパスクリエイトは、以前より協力関係にある川崎市産業振興財団を通じ、川崎市内に拠点を置く「匠技術研究所」の紹介を受ける。通信網の設計と構築に実績のある同研究所の協力を得て、実環境下で通信試験を重ねた結果、ヤマハ製の「適応型ローミングアシスト技術」を搭載した製品であれば、実用に耐え得ることが判明、この技術の「Scape®」への導入を行った。これはビジネス展開でのひとつの要因となった。

「戦慄迷宮:迷」で加速するビジネス展開

この通信技術の最適化がもたらした代表的な成功事例が、25年7月から44日間にわたって実施されたXRアトラクション「戦慄迷宮:迷」である。これは富士急ハイランドとライセンス契約を結び、人気アトラクション「戦慄迷宮~闇に蠢く病棟」のストーリーと世界観を受け継いだオリジナルの大型リアルメタバースイベントだ。東京タワー地下1階の約400㎡の「FOOT TOWN タワーホール」を会場とし、VRゴーグルを装着した数十名の調査員(参加者)が、現実空間を歩き回りながら、その20倍の広がりをもつ仮想空間で恐怖を体験するというもの。期間中2万人以上の参加者を集め、体験の拡張性と共有性を両立させた、類を見ないエンターテインメントとして大きな注目を集めた。

また本アトラクションには、受付で作成した自身のアバターのセルフィーやアウトカメラ機能でVR空間を撮影し、後にイベントページから画像をダウンロードできるという仕組みも搭載。友人たちと気軽に共有できる点も、現代のソーシャルメディア文化にマッチした体験価値として話題を呼んだほか、仮想空間のグラフィックの精密さや美しさに対し、多くの参加者から称賛の声が寄せられている。

「戦慄迷宮:迷」の革新性は、高い体験価値と安定した技術基盤だけに留まらない。効率的な運営オペレーションも大きなポイントだ。従来のXRイベントでは、大人数の誘導や機材トラブル対処のために多数のオペレーターが必要とされてきたが、「参加者100人に対してオペレーター3人」という、業界でも最小限の運営体制を可能としている。

こうした手応えを得て、25年11月には大阪・ひらかたパークに新作となる「戦慄迷宮:迷」をオープンした。一方、25年6月には同社は電通と「Scape®」を活用した戦略的提携を締結している。電通のマーケティング力とABALの技術力を掛け算し、企業の保有するIP(知的財産)やコンテンツの活用も視野に入れつつ、既存施設のテーマパーク化や事業開発の支援にも力を注いでいくという。

「これは例えば遊園地などの施設に対し、同社の『Scape®』を使ったXR体験を比較的リーズナブルに提供するというもの。現在、コンテンツのパッケージ化を企画中です。実現すれば、一気に市場が広がる可能性があると思っています」と同社ソフトウエアエンジニア・鈴木祥太は語る。

しかし同社の革新的技術は、もちろんエンターテインメント領域だけで決して閉じるものではない。今後は広範囲な社会課題にも応用できる可能性を感じ、ABALのさらなる展開が期待される 。

戦慄迷宮 迷

ABALホームページ
https://www.abal.jp/

次なるフェーズとエコシステム構築に向けて

このように3年間の取り組みは、個別の成功事例を生み出し、次世代通信技術の社会実装に向けた確かな一歩を刻んだ。しかし今後、「次世代通信技術を活用して事業成長するスタートアップを輩出していくスパイラルモデル」を完成させるためには、個別のSU支援を超えた「エコシステムの構築」が欠かせない。そのためには成功事例を単発で終わらせず、その知見やノウハウを広く社会に共有し、横展開することが重要となる。そうした点からも本プロジェクトの成果は、多様なWebメディアやプロジェクト成果紹介コンテンツ、あるいはイベントなどを通して積極的に発信されている。

これら一連の積み重ねによって、次世代通信技術は「特定のSUだけが使う特殊な技術」から「社会課題を解決するための汎用的なインフラ」へと認識が変わり、より多くの企業・組織が活用に関心をもつ潮流を生み出すだろう。

特にフィジカルAIの普及やインクルーシブな社会づくりが重要視されていることからも、次世代通信技術は、日本社会が抱える構造的な課題に対し、デジタル技術による根本的な解決策を提供するポテンシャルを秘めている。本プロジェクトはその可能性を信じ、イノベーションの担い手であるSUと通信技術、そしてユーザーをつなぐ社会実験の場として、大きな成果を上げつつある。

キャンパスクリエイトは本プロジェクト成果をもとに、フィジカルAI/インクルーシブ/倉庫DXの3領域において独自のAIやVC(Verifable Credentials)などの先端デジタル技術を活用したWebサイトを立ち上げ、スタートアップとの連携を図りながら普及促進活動を継続させていくという。このエコシステムが完成したとき、日本社会の風景は大きく様変わりしているだろう。

東京都「次世代通信技術活用型スタートアップ支援事業(Tokyo NEXT 5G Boosters Project)」

キャンパスクリエイト
https://www.campuscreate.com/

Promoted byキャンパスクリエイトtext by Fumihiro Tomonagaphotographs by Takao Otaedited by Akio Takashiro