サイエンス

2026.02.08 17:00

なぜ現生人類にだけあご先の部分「おとがい」があるのか?

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こうした仮説には興味をそそられるが、これも推測の要素が強い上に、化石に残る証拠から直接検証することが難しい。それでもこの仮説は、注目に値する考え方を提示している。それはすなわち、おとがいの進化は、機械的な構造だけでなく、社会や発達に関する変化とつながっているかもしれない、という考え方だ。

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もう一つの考慮すべき疑問点は、おとがいに本当に生き残りを有利にするアドバンテージが認められないのなら、すべての現生人類にこの特徴が残っているのはなぜなのか? というものがある。この疑問に対しては、一度ある形質が現れると、たとえ時とともに重要な役割を果たさなくなったとしても、遺伝的浮動や文化的選択によって、確固たるものとして維持されることがある、とする者もいる。確かに、親知らずや虫垂(盲腸)、尾てい骨など、今の人類にとってはもはや明確な役割がない体の構造は、こうした事例と言えるだろう。

この件については、いまだに真の意味で意見が一致するには至っていない。現在提唱されている仮説の中に、現生人類におとがいがある理由を完全に説明できるものはない、というのが、多くの研究者に共通する考えだ。こうした研究者は、おとがいの起源については、発達、機能、社会、歴史という複数の要素が相互に作用しているというのが、より可能性の高い現実だと主張している。しかし繰り返しになるが、これらの仮説の大半は、検証はほぼ不可能だ。

では、数十年にわたる研究を経ても、研究者の間でいまだに意見の一致を見ないのはなぜだろうか? その理由の一端として、進化生物学で、明確な答えが出るのは非常にまれだ、という事情がある。ある形質が、直接的な正の淘汰を通じて生じるのと同じくらい、偶然や制約、間接的な道筋を通じて現れることもある。これはつまり、おとがいは外適応(イグザプテーション)によって生じた可能性さえあるということだ。外適応とは、ある一連の進化の圧力によって生まれた構造が、別の力によって維持されることを指す用語だ。

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人類学者や生体力学の研究者は今も、モデルを洗練させつつ、化石や、ヒトの個体発生の過程、さらには生体力学の研究から、分析に使えるデータを収集している。新たな分析ツールによって、より明確な解答が出る可能性もあるだろう。とはいえ、古人類学が「顔の進化の謎」というもつれた糸をときほぐし、より正確な実態を明らかにする日が来るまで、おとがいはこれからも、われわれにとって謎であり続けるはずだ。

forbes.com 原文

翻訳=長谷睦/ガリレオ

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