仮説3:ヒトの顔が平たくなった副産物として発生した
おそらく、現時点で研究者の間で最も広く指示されている説明は、おとがいは特定の目的に適応した結果として生まれたわけではなく、むしろヒトの顔の構造が進化する過程で生まれた副産物だ、とするものだろう。
『Journal of Anatomy』に2015年に掲載された論文によれば、この説は、人類の歴史に登場して以来、ホモ・サピエンスの顔がそれ以前の人類と比べて、だんだん小さく、平らになっているという事実をよりどころとしている。具体的には、このプロセスは、われわれ現生人類のあごや歯が小さくなり、顔面の構造が変化したことと結びついている。
この枠組みの中では、おとがいは選択された形質ではなく、むしろ顔の他の部分において、あまりに多くの変化が起きたために生まれたものだと考えられる。顎骨が短くなり、顔面が平らになって頭蓋骨の下に収まるようになったことで、下顎の最下部にあたる部分が、他の部分に比べて前方に突き出す形になり、その結果、現在おとがいとして認められる形状が生まれた、ということだ。
この説は、ヒトが成熟する過程で顔が成長し、形が変わる際に、おとがいがより顕著になるという、発達過程のエビデンスからも裏付けられている。
ヒトのおとがいをめぐる議論がいまだに続いている理由
特に「仮説3」に絡んで、考慮すべき重要な疑問点がある。それは、われわれ現生人類の顔が平たくなった、そもそもの要因は何なのか、というものだ。
一部の研究者は、ヒトの行動に関する広範な変化(社会的寛容性や協力関係の深化など)が、テストステロンの血中濃度をはじめとするホルモン値に影響を与えた可能性があると考えている。これが結果として、顔面の成長パターンを変化させたというわけだ。
こうした変化は、「自己家畜化(Self-domestication)」仮説と関係している。つまり、ホモ・サピエンスが攻撃性を抑制する方向の選択を実行した結果、身体的・社会的特徴が幼少期のまま成熟する傾向が生じ、われわれの頭蓋骨やあごの大きさに影響が及んだことを示唆している。


