ヘビの凍結耐性の限界と、そこから得られる生物学的示唆
注目すべきは、この耐性があるからといって、ガーターヘビが万能のサバイバルスキルを備えているわけではないことだ。いくつかの総説論文と実験研究から、凍結耐性の幅がいかに狭いかがはっきりと示されている。爬虫類の場合、凍結耐性といっても、摂氏ゼロ度をわずかに下回る気温のなか、数時間だけ生き延びられるにすぎないのだ。
1990年に学術誌『American Journal of Physiology』に掲載された論文で指摘されているように、アメリカアカガエルなどの両生類が、細胞にブドウ糖を充満させて、長期間にわたる凍結に耐えるのに比べると、ヘビの凍結耐性は比較的貧弱だ。ヘビは、体内に抗凍結剤をあまり蓄えておらず、また組織における水分調節の仕組みも強力ではないため、結果として生存可能な時間が短いのだ。
カエルとヘビの凍結耐性の違いはおそらく、進化史や生息環境、そして爬虫類の生理的特徴に伴う制約を反映しているのだろう。ある生物種の生態は通常、その種の生理機能と密接に結びついている。
断熱性の高い深い巣穴への集合行動が見られるヘビの個体群(例えば、膨大な数が巣穴で集団越冬することで知られるカナダ・マニトバ州の個体群など)では、凍結という事態に直面する可能性は低い。一方、分布域の北限や、冬の気象条件が大きくばらつく生息地においては、ヘビが偶発的な凍結に至るリスクはずっと大きいだろう。
2023年に実施された、ガーターヘビの北部個体群の保全状況評価では、越冬地の微小生息環境、積雪被覆、水文学的特性が、冬季におけるこのヘビの死亡リスクに影響を与える要因として指摘された。同様に、冬季の異常気象(積雪の少なさや、地表凍結前の河川氾濫など)は、ガーターヘビの冬季の大量死の原因になり得る。
こうした観点から、気候変動はガーターヘビにとって諸刃の剣だ。暖冬により、偶発的な凍結事象は減少するかもしれないが、一方で以下のような事態が起こり得る:
・凍結と融解のサイクルの増加
・降雨パターンの不規則化による、凍結前の河川氾濫
・ヘビの活動と冬眠を促す環境的手がかりのずれ
このようなダイナミクスにより、一部の個体群では、平均気温が上昇するかたわらで冬季死亡率も上昇する可能性がある。保全関係者にとっては、ヘビの生理機能の解明だけでなく、安定した冬眠場所の特定と保護も重要だ。
ガーターヘビの凍結耐性に残された謎
ガーターヘビの驚くべき凍結耐性には、まだいくつかの謎が残されている。両生爬虫類学者たちがいまなお解明に取り組んでいる疑問とは、以下のようなものだ:
・軽度の抗凍結剤分泌反応は、さまざまな種のヘビのあいだでどれだけ一般的なものなのか?
・急速な代謝のシャットダウンと抗凍結剤分泌には、どの遺伝子および発現制御ネットワークが関与しているのか?
・景観レベルでの環境保全管理によって、ヘビが異常気象のリスクを回避できる「避難場所」を、信頼できるかたちで特定することは可能か?
こうした疑問に答えるのは、けっして一筋縄ではいかない。フィールド生態学と現代的な分子解析を統合した研究が必要だ。具体的には、凍結中に、どこでどの遺伝子のスイッチが「オン」になっているかを調べるトランスクリプトミクス(網羅的な遺伝子発現解析)や、抗凍結剤の種類を特定するメタボロミクス(細胞活動によって生じる代謝産物の分析)、連続的に変化するさまざまな気候帯における冬眠用巣穴の長期的モニタリングといったアプローチが求められる。
ガーターヘビの凍結耐性は、進化における日和見主義(evolutionary opportunism)の素晴らしい例だ。ガーターヘビは、行動と生息環境の選択だけでは避けられない不測の事態において、いくつかの生化学的な「裏技」を駆使し、貴重な時間を稼いで、生存の道を打開する。
生死を分ける閾値は紙一重だが、それでもこの能力からは、貴重な生物学的洞察を得ることができる。限界的な状況における生存の在り方や、寒冷気候に適応した個体群の脆弱性、さらに、本来は生存に有利なはずの形質が、気候変動によって弱点に変わるリスクといったテーマを考える上で、貴重なヒントを与えてくれるのだ。


