ドン ペリニヨンの5代目醸造最高責任者による日本酒づくり。その根底には、日本への憧憬がある。 その背景や実践を深掘りすると、日本が未来や世界に取るべきスタンスが見えてきた──。
リシャール・ジョフロワ(以下、ジョフロワ):2020年に日本酒ブランド「IWA」を立ち上げて6年がたちますが、私は今、自分が3度目の人生を生きているのではないかと思っています。最初は医学の道。2番目はワインの世界で、34年のうち28年間ドンペリニヨンの醸造最高責任者として心血を注ぎました。そしてこの3番目の人生で、大好きな日本とつながれていることがとてもうれしいです。
山口周(以下、山口):富山の蔵にも2度伺いました。あの場所やそこで生まれるIWAには、リシャールさんのどのような美意識が表れているのでしょうか。
ジョフロワ:蔵は隈研吾さんの設計で、彼に建設地から相談し、対話を重ねながら完成させることができました。ワインと日本酒は技術的には別物ですが、私が変わらず大切にしているのは調和とバランス。
IWAは、複数の原酒をブレンドする“アッサンブラージュ”という手法をとります。杜氏は当初、日本酒にとって真新しい概念に困惑していましたが、年月をかけ、意思疎通ができています。こうしたプロフェッショナルとの共同作業が何より面白いです。
山口:日本酒に限らず、日本には伝統や文化を頑なに守ろうとする傾向もあります。リシャールさんの手法により新しい価値が生まれたことは光明を与えてくれますね。
ジョフロワ:日本には、たとえそれが外部のものであれ、良いものであればそれを受け入れるという姿勢があります。それが日本の美しさ。私は前職の仕事で1991年に初めて来日し、以来、数えきれないほど訪れた日本から普遍的要素の大切さを教わりました。
IWAは日本の伝統を重んじると同時に、世界基準の日本酒にしたい。味わいでいえば、心地よさと複雑さを調和させることが重要になります。これは、特定の土地や製法にこだわりながらも世界展開するシャンパーニュでの経験から学んだことでもあります。




