元KADOKAWA社長が語るメディアミックスの極意 質の実績を確保する戦略

井上伸一郎(PORTRAIT IMAGE : 2024HIKITA CHISATO)

井上伸一郎(PORTRAIT IMAGE : 2024HIKITA CHISATO)

日本のエンタメ・文化の未来は──。元KADOKAWA副社長で数々のヒット作を生み出し、市場を拡大させた“メディアミックスの悪魔”による寄稿。

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1959年生まれの筆者が若いころは、現在と比べて娯楽の情報は圧倒的に少なかった。映像ひとつとっても、ビデオや映像配信がない時代。映像とは一期一会。劇場で、テレビの前で、私たちは映像のすべてを脳裏に焼き付けようと、必死に画面に食らいついていた。画像を何度でも楽しむためには、一般家庭にビデオ再生機が普及する1980年代まで待たなければならなかった。

1980年代までは同好の士がリアルタイムで作品の感想を述べ合うすべは、実際に顔を合わせるか、固定電話での会話しかなかった。必然的に新しい文化は学生街から生まれることが多かった。感度の高い学生たちは、大学周辺の喫茶店に集い、情報を交換し、時に議論にふけった。そこから新しい文学、映画、マンガ、アニメ、音楽などのムーブメントが生まれ、やがて世代や地域差を乗り越えて、文化として世の中に広まっていった。

現代ではデジタルシフトが情報交換の手段を激変させた。 

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ソーシャルメディアの普及により、作品についての考察や評価が瞬時に世界中に届くこととなった。SNSの圧倒的なスピードが、リアルな議論を凌駕してゆく。 

デジタルシフトは文芸やマンガの世界にも大きな変革をもたらした。紙ではなく電子で作品を買い、読む習慣は、作品対象からジェンダーや年齢の壁を取り払った。人々は自由に好きな作品にアクセスできるようになり、読者層は拡大した。 

コロナ禍の時代、人々は苦しみと不自由さを味わった。その一方で、巣ごもり需要がもたらした生活様式の変化により、動画配信サイトで未知の映像作品に触れる経験は飛躍的に増大した。

日本の映像コンテンツが世界各国で観られるという現象もコロナ禍なしには語れない。ひと昔前は、一般的なアメリカ人が字幕付きの映像を見るなど考えられなかった。『ゴジラ-1.0』や「SHOGUN 将軍」の世界的なヒットは、こうした映像視聴習慣の変化がもたらしたものだ。今秋『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章』 が北米で歴代外国映画の興行収入記録を更新したのも、ここ数年、映像配信サイトでテレビアニメが視聴され、ファンを増やしてきた結果だ。『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章』に続いて『チェンソーマン レゼ篇』も全米興行収入初登場1位を獲得。日本アニメの勢いが一作品にとどまらないことを実証した。

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イラストレーション=ベルンド・シッファーデッカー

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