経済・社会

2026.02.04 16:15

国家を超えた「クラウド帝国」の世界地図の現在、未来はどうなるのか?(後編)

PixelNexusArt - stock.adobe.com

——クラウドインフラは単なる技術的基盤にとどまらず、国家の政策手段としても機能し始めている。今後10〜15年を見据えたとき、この「クラウドの武器化」は、どのような形で現実的な地政学リスクとして顕在化していくと考えるか?

advertisement

「クラウドの武器化」はすでに現実の地政学的リスクとなっている。もしそうでないなら、欧州や日本の政府機関が、コスト面や拡張性の点で優れた中国のアリババクラウドやファーウェイクラウドを使っていない理由を説明できない。実際、欧州の政策担当者の一部は、重要度の高いデータや中核的な行政サービスを、米国系クラウド事業者に委ねることに対しても警戒を強めている。

この状況に対してAmazon Web ServicesやMicrosoft Azureは主権型クラウド(ソブリンクラウド)構想を打ち出している。これは、欧州向けクラウドサービスを、米国の情報機関の管轄から切り離すための、技術的・法的・組織的な枠組みである。

私が先に述べた「クラウド帝国のグローバルな利害は、本国政府の利害と必ずしも一致しない」という点は、まさにここに表れている。クラウド企業は、自国政府の意向に反してでも、他国政府と取引や妥協を成立させる余地を持っている。

advertisement

さらに関連して注目すべきなのが、中国テック企業の「国外脱出」の可能性だ。中国企業の海外進出や対外投資はしばしば「中国国家の世界的影響力の拡大」として解釈される。しかしその一部はむしろ逆で、「中国国家による企業の国家統制の弱化」であるかもしれない。より権威主義的になりつつある本国から起業家たちが文字通り逃避している結果である可能性があるのだ。個別の企業行動がどちらを意味するのかを見極めるのは容易ではない。それでも、この可能性を排除せず開かれた視点でとらえておく必要があると私は考えている。

——『デジタルの皇帝たち』では、「デジタル中流階級」が新たな社会変革の担い手となる可能性が提示されている。近代のブルジョア革命では、戦争やナショナリズムを背景に中流階級が台頭し、専制体制を打破する力となった。領土を持たないクラウド帝国の時代において、これに相当する社会的・政治的エネルギーは存在するのだろうか?

また、ピーター・ターチンが指摘するように、ブルジョアジーの過剰な政治参加が不安定化を招く可能性はデジタル中流階級にも当てはまるのだろうか?

私はこれまで国家による介入の方が短期的・中期的に見て現実的だと考えてきた。しかし、必ずしもそれが望ましいとは限らない。『デジタルの皇帝たち』でも警告した通り、国家による介入はクラウド帝国を民主化させるのではなく、単に国家の利害に従わせる結果につながりかねないからだ。そして、その国家の利害が民主的価値と一致する保証はない。最悪の場合、米国版TikTokは権威主義的右派のプロパガンダ装置へと転化しかねない。

次ページ > 「王たち」に対して自らの権利を主張する中流階級の誕生が望ましい

井村凪伯(経済学101)=インタビュー・文

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事